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第66話 成り上がりの先、見返すべき人 3

「村の守りを高める方法? そんな方法が」

 

 村長は一瞬、その続きを飲みこんだ。彼の正確な気持ちは分からないが、「それ」に戸惑っている事はまず間違いない。目の前のリオに「あるのかね?」と聞く姿からも、その動揺がうかがえた。村長は俺の顔に視線を移して、それからまた、彼女の顔に視線を戻した。


「本当に?」


「あります」


 即答です、本当に何の迷いも感じられなかった。


()()()()()()()()使()()()


 リオは村長の目を見かえして、彼に魔法の内容を伝えた。魔法の内容は、至って単純だった。「村の周りに強力な結界を張る」と言う、魔術師の俺でもできそうな事。だったが、彼女の「それ」は少し違うらしい。彼女は村長に俺も魔術師である事、その俺と自分がどう違うのかを伝えて、この結界がどんなに優れているのかを話した。


「彼の結界はたぶん、その強度こそ強いでしょうが。持続力の方は、そんなに強くない。あたしの結界は決して強くありませんが、持続力の方はあります。それこそ、一年以上」


「い、一年以上!」


「はい。前に結界を頼まれた人から聞いた話では、あたしの張った結界が一年以上持ったそうです。怪物達の襲撃にもちゃんと耐えて、そこの人達をずっと守りつづけていた」


 リオは真剣な顔で、村長の目を見つめた。村長の目は、緊張と不安で強ばっている。


「あたしは、この村も守りたい」


 村長は、その言葉にしばらく応えなかった。突然の言葉に驚いた事もあったろうが、それ以上に動揺を覚えていたようだ。リオが彼に「いかがですか?」と聞いても、その言葉に「あ、ううん」と答えるだけで、それ以上は何も応えようとしない。村長は、自分の顎をずっと摘まみつづけた。


「ありがとう」


「え?」


「恥ずかしい話だが、今は君の魔法に頼らざるを得ない。この村を守るためには! それがたとえ、一時の安らぎであっても」


「村長さん」


 村長は、その言葉に微笑んだ。どこか悲しげな顔で、その言葉を憂えるように。


「よろしくお願いします」


「はい!」


 リオは嬉しそうな顔で、村の周りに結界を張りはじめた。俺も何度か聞いた事のある呪文を唱えてね、村の周りに透明な結界を張ったのである。彼女は「それ」を張りおえると、今度は村長に結界の概要を話して、「本当に強い攻撃はしのげない」と言う注意も加えた。


「この結界がもし破られた時は、迷わずに逃げてください。みんなの命を守るためにも、無意味に戦ってはいけません。名誉の戦死なんてモノは、まったく名誉じゃないんです。それによって失う命も。あたし達の戦いは、何が何でも生きのこる事です!」


「ああ、分かった。お嬢さんの言う通りにするよ」


「はい!」


 リオは、目の前の村長に微笑んだ。村長も、それに笑いかえした。二人は俺達が互いの顔を見あっている間も、穏やかな顔で互いの目を見ていたようだった。


「それじゃ、村長さん。お元気で」


「ああ、お嬢さんの方こそ。くれぐれも無理せんようにね?」


「はい!」


 俺は、その言葉にうなずいた。村の問題が一応は何とかなった以上、次の冒険に挑まなければならない。魔王の攻撃に苦しんでいる、そんな人々を救うためにも。俺は村の長に頭を下げて、少女達の足も「戻ろうか?」と促した。「センターにも、これを報せなきゃならないしね」


 少女達は、その言葉にうなずいた。彼女達もまた、俺と同じような気持ちを抱いていたようである。少女達は村長に手を振ったり、俺のように「さようなら」と言ったりして、彼の前から歩きだした。


「世界がもし平和になったら、その時はまた来ます!」


 その答えは、なかった。いや、「聞こえなかった」と言った方が正しいかも知れない。村長は俺達に何やら言っていたようだが、彼との距離が離れていた事もあって、その姿が小さくなっていた頃にはもう、彼の声もすっかり聞こえなくなっていた。村長は俺達の距離が離れると、村の方に向きを変えて、その方向にゆっくりと消えていった。


 俺は、その後ろ姿を見送った。


 ……それから先は、実に穏やかだった。帰りの道中ではモンスターとほとんど会わなかったし、仮に会ったとしても、俺の強化魔法を受けたクリナがだいたい倒してしまったので、町の防壁がまた見えた頃には、それぞれに「今日は、どこの宿に泊まる?」とか「『結構稼いだ』と思うし、今日は贅沢な宿に泊まろうよ?」とか言いあっていた。「そう言う宿はきっと、出てくる料理も美味しいだろうからね?」


 少女達は、その想像に胸を躍らせていた。それを見ていた俺も似たような気持ちだったが、センターの受付に着くまではまだ不安だったので、受付から今回の報酬を受けとった時点でようやく、精神の緊張を解く事ができた。でも、それは一瞬の事。現実の隙間に見た、夢の欠片でしかなかった。少女達はリオの異常に驚いて、その足をすっかり止めてしまった。



「どうしたの?」


 リオは、その質問に答えられなかった。それを見ていた俺も、その場にすっかり固まってしまった。俺達は今までの気分を忘れて、俺達の前に現われた男をじっと眺めていた。


「あ、あああ」


 男は、その声に応えなかった。隣の女性、マノンさんから「どしたの?」と聞かれても、それにまったく答えようとしない。男はただ、怖い顔で俺達の事を睨んでいた。


「久しぶりだな、お前達」


 相変わらず声。でも、それに脅えてはいられない。過去の自分から脱するためにも、俺は。


「まだ、死んでいなかったのか?」


 俺は、その声から逃げてはいけないのだ。


「残念ですけど、まだ死ぬわけにはいかないので。それよりも、貴方の方はどうなんですか? ()()()()()

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