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第65話 成り上がりの先、見返すべき人 2

 今回の敵は、予定通りの時間に現われた。頭上の空に満月が浮かぶ深夜、村の外れからゆっくりと現われたのである。彼等は群れの先頭にリーダーを置いて、自分達の周りを何度も見わたしていた。その周りにたぶん、自分達の敵がいないかを確かめているのだろう。彼等の気持ちを推しはかる術はないが、その真っ赤な目もかなり鋭かったし、鹿のような角もブルブルと震えていた。彼等は自分達の周りに敵がいないと(実際は、いるのだが)思ったようで、そのリーダーがもう一度確かめはしたが、畑の方に向かってサッと走りだした。

 

 俺は、その光景に目を細めた。それが自分の計画、正しく予想通りだったからだ。「透明化」のスキルが効いて、向こうはこちらの存在に気づいていない。普通なら「おかしい」と思う筈が、その足を止まる事なく、畑の方に走りつづけていた。


「よし」


 俺は、シオンの顔に視線を移した。シオンの顔は、「ニッコリ」と笑っている。夜空の月しか光源がないのでぼんやりとしか見えないが、俺の意図はしっかりと伝わっているようだった。


「頼むよ」


 それに答える彼女の矢。それは怪物の方に向かって飛んでいき、夜の空気を引きさいて、その頭目に当たった。ううん、やっぱり凄い。普通の人間ならまず当てられない筈なのに。彼女の場合は「それ」をはねのけるどころか、頭目の急所(おそらくは、頸動脈)へと見事に当ててしまった。


「さすが!」


「とうぜん!」


 シオンは嬉しそうな顔で、右手の人差し指と中指をパカパカさせた。これは、相当に喜んでいるね。


「こんな暗闇、私には昼間と同じだよ」


 す、凄い自信だ。でも、嫌な気はしない。彼女は自分の腕を知った上で、その事実を話しているだけだった。


「さて、お次は?」


 クリナ様です。クリナは剣士としての腕もあげていたが、そこに俺の強化魔法を加えると、鬼神のような強さを見せて、あれから多くのモンスター達を倒していた。


「任せなさい!」


 クリナは自分の剣を振りまわし、目の前の敵達を次々と、その横から攻めてきた敵すらも斬りすてて、統制の乱れたモンスター達をさらに迷わせた。


「ほらほら、どうしたの? そんな程度じゃ、アタシは倒せないわ!」


 確かにそうだね。確かにそうだけど、あまり息巻くのはよろしくない。思わぬところから反撃を食らうかも知れないからね。どんな戦いも、基本は慎重であるべきだ。彼女はどこかで「それ」を学んだのか、前よりは少し落ちついて、敵との間合いもきちんと保ちつづけていた。


「ふんっ!」


 勝ちほこったかのような顔。だがそれで、自分に隙ができたら仕方ない。クリナは正面の敵に気を取られていたあまり、自分の背後からくる敵に気づかなかった。


「ざまぁ」


 それを遮ったのはもちろん、奇襲の得意なマドカだ。マドカは彼女の背後から襲いかかろうとしている敵に斬りかかって、その攻撃を見事に防いでしまった。


「じゃ、ねぇだろう? 怪物に自分の背後を取られるなんて?」


 クリナは、その言葉に赤くなった。あれは、相当に怒っていますね。本当は恥ずかしかっただけかも知れないが、マドカに「う、うるさい!」と言いかえす姿からは、どこか愛らしさすら感じられた。う、ううん。クリナはやっぱり、どこまでいってもクリナらしい。


「これは、たまたまよ! たまたま! たまたま、自分の後ろを取られただけ!」


「ふうん、どうだか?」


 マドカさん、まったく信じていないご様子。まあ、俺も同じだったけどね。それを見ていたシオンも、腹を抱えて笑っているし。みんな、マドカと同じ感想を抱いているようだった。マドカは高速移動と一撃必殺の技を使って、敵の数をどんどん減らしていった。



「こんなもんかな? さて」


 それに動いたのは、白魔道士のリオである。リオはお得意の捕縛呪文を使って、残っている敵の動きをすべて封じてしまった。流石は、元相棒。敵の動きをすべて封じた後も、その表情を決して変えようとしなかった。彼女は、俺の顔に視線を移した。


「ゼルデ!」


「分かっている。最後の止めは」


 俺だ。


「残りの敵は、俺がすべて倒す!」


 俺は残りの敵達に向かって、例の砲撃魔法を放った。砲撃魔法は、残りの敵達を包みこんだ。それこそ、一匹も残さずに。地獄の炎と同じで、すべての害獣達を焼き、その骨すらも消してしまったのである。


「終わった」


 そう、無事に。今回のクエストも、無事に終えられた。俺は自分の背中に杖を戻して、地面の結晶体を一つ一つ拾いはじめた。


「かなりあるね」


 周りの少女達は、その言葉にうなずいた。彼女達もまた、今回の成功を喜んでいるらしい。俺が彼女達のところに戻ってくると、その全員が嬉しそうに笑っていた。彼女達は空の夜明けを待って、地面の上に座った。俺も、その近くに座った。俺達は東の空に太陽を見ると、地面の上から立ちあがって、村長の宿に向かった。「この時間なら、村長も起きているだろう」と思ったからだ。


「おはようございます」


 まずは、村長に挨拶。つづいて、彼に依頼の成功を伝えた。


「当分の間はきっと、『大丈夫だ』と思います。俺達の見た限り、敵はすべて倒したので」


「そうですか、それは」


 その会話にそっと、割りこんできたリオ。彼女には(何か)考えがあるらしく、俺達の顔を一度見わたすと、目の前の村長に視線を戻して、自分の杖をそっと取りだした。


「『完全防御』とまでいきませんが、村の守りを高める方法があるんですけど?」

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