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第7話 隠れていた力、真の才能 2

 不思議な感覚だ。身体の底から力が湧いてくる。湧き水のように沸々と、それが身体の神経に行きわたって。俺がそれに驚いた時にはもう、自分の服がすっかり変わっていた。

 

 剣士の装備は、魔術師の服に。愛用の剣も、木製の杖に。その中で変わっていないのは、生まれつきの黒髪と、剣士の時に鍛えあげた肉体だけだった。

 

 無駄のない引きしまった肉体。平均のそれと変わらない身長。東方人(東の地に住んでいる民族)のような肌。それらだけは、変わらずに残ってくれた。


「これが」


 どうやら、隠れていた力らしい。マティの透視スキルでも見ぬけなかった、とんでもない力。俺の持っている、真の才能。それがどれ程の物なのか?


「今から試してやる!」


 俺は右手の杖を回して、目の前の敵に魔法を放った。魔法の使い方は、感覚で分かった。意識の中にふっと現れた表音文字、それのルビを読みあげればいい。


「ア・デッタ・ホロン(敵よ、滅び去れ)」


 杖の光と、その反動。それが、途轍もなかった。自分では気づかなかったが、どうやら最大クラスの魔法を放ってしまったらしい。「桃色の光が放たれた」と思ったら、次の瞬間には周りの木々を()ぎたおしていて、目の前の怪物にも巨大な穴を開けていた。


「なっ、あっ、うっ」

 

 自分でも自分の魔力に驚いたのだから、敵の方はそれ以上に驚いていただろう。敵は自分の胴体が突然に消しとんだので、最初の数秒は苦しみよりも、驚きの方が勝っていたようだった。だから、身体の痛みに悶えたのも数秒後。けたたましい叫び声を上げて、地面の上に倒れこんだ後だった。

 

 怪物は、ウジ虫のように悶えた。そうする事しかできないかのように、俺への敵意もすっかり忘れていたのである。コイツの頭にはもう、身体の痛みしかないのだろう。俺がいつもの思考を取りもどした時ですら、地面の上をのたうちまわっていた。


「苦しいか?」


 それにもちろん、応える相手ではない。相手は、文字通りのモンスターだからな。人間の言葉を聞きとれているかも怪しい。


「今、楽にしてやる」


 俺はまた、目の前の怪物に魔法を放った。その魔法はもちろん、怪物の身体に当たった。その位置がほとんど変わっていないのだからね。当たらない方がおかしい。俺は、怪物の身体が炎に焼かれる様をじっと眺めはじめた。


「勝った」


 そう言って彼女の方を振りかえったのは、その顔を単純に見たかったからかもしれない。彼女の顔は笑っていて、俺の勝利を心から喜んでいるようだった。


「アハッ」


 俺も、彼女に笑いかえした。


「何とか勝てたよ」


「よかった」


 また、俺に笑ってくれた。その笑顔が心から嬉しい。


「それがあなたの才能」


 彼女は口元の笑みを消して、怪物の身体をそっと指さした。怪物の身体はまだ、例の炎に焼かれている。


「これがあれば、この先も生きていける」


「冒険者として?」


「一人の人間として」


「それは」


 ちょっと言いすぎかな? でも、悪い気はしない。冒険者として生きるには、一人の人間としても生きなければならないからだ。その意味では、彼女の言っている事は正しい。


「うんう、そうだね。確かにその通りだ」


 そう言って彼女に笑いかけたのは、ほとんど無意識の事だった。俺は衣服の背面に杖を戻して(上手い具合につけられるところがあるらしい)、彼女の顔から視線を逸らした。彼女の顔を見つめている間、怪物の方から微かな金属音が聞こえてきたからである。


 この金属音は、怪物の身体が結晶体に変わった知らせだ。たぶん、地面の上に結晶体が落ちたのだろう。「カチャン」と鳴った金属音には、何処か淋しげな雰囲気が漂っていた。


「ふう」


 終わった。あとは、これを拾うだけ。


「いや」


 それだけでは、ダメだ。


「彼女にお礼を言わないと」


 俺は「うん」とうなずいて、彼女の方をまた振りかえった。

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