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第46話 追い剥ぎ少女、再び 3

 クエストの受注は、いつも通り。それからの流れも、いつもとほとんど変わらなかった。町の通路を進んでいる間も穏やかな感じで、そこから町の外に出た時も、少女達が俺の隣を奪いあう光景以外は、本当にいつもと同じだった。


 周りの冒険者、特に俺と同じくらいの少年達からは、かなり睨まれていたけどね。それも、今にも殴りかかりそうな程に。俺が町のゲートを潜ろうとした時も、「ナンパ」と思わしき冒険者達がイチャモンをつけてきたが、女子達の手厚い歓迎を受けて、それを見ている俺も意気消沈、この世の絶望とばかりに逃げさってしまった。


「ちくしょう! なんで、あんな奴がぁあああ!」


 男泣き。いや、()()()()か? みんな、とにかくそんな感じだった。俺の事を指さして、ボロ泣き。最悪の場合は、罵詈雑言。彼等は「俺の方がずっと良いのに!」と叫んで、俺に汚い言葉を何度も浴びせつづけた。


「世の中、不公平だ」


 俺は、その言葉に溜め息をついた。確かにそうかも知れないが、それはアンタ達だって言える。アンタ達は、自分のパーティーから追いだされていないだろう? 「お前は、要らない」と言われて、その頭目から脱退書を渡されていないだろう。「追放の経験がない(であろう)」と言う意味では、彼等の方がずっと恵まれていた。


「世の中、本当に不公平だ」


 俺は、両手の拳を握りしめた。それが自分の不幸を慰めてくれたからだ。両手の拳を握っている間は、あの事も忘れられる。今はだいぶ落ちついていたが、追放の事はやっぱり悔しいし、何より恥ずかしかった。「お前は一度、自分の仲間から捨てられたんだ」ってね。心の傷が、どうしてもうずいてしまう。


 俺は、その感覚にしばらくうつむいた。


「う、ううう」


 それに驚いたのは、シオンだった。シオンは自分の矢を弄ろうとした瞬間、俺の表情がふと目に入ったらしく、それがあまりに暗かったので、俺につい話しかけたらしかった。


「どうしたの?」


「え、いや、別に」


「ふうん、そう。でも?」


 そこで少しの沈黙。どうやら、いろいろと考えているらしい。


「辛い事があったら、すぐに吐きだした方がいいよ?」


 嬉しい言葉だった。でも今は、それに甘えるわけにはいかない。彼女に余計な心配をかけたくないからね。彼女の言葉にただ、「ありがとう」とだけ応えた。「けど、大丈夫」


 俺は、自分の胸に手を当てた。


()()()()()()()()()()()


 シオンは、その言葉に眉を寄せた。表情の方は、笑っているけどね。目の奥にはやっぱり、不安の色が見えていた。


「そっか」


「うん」


「私はずっと、一人だったから」


 申し訳なさそうな声。彼女は、何も悪くないのに。自分がまるで、悪者の一人のような声だった。


「ゼルデの気持ちは、ぜんぶ分からないけど」


「うん」


「それでも、少しくらいは力になりたい。私達はもう、大事な仲間だからね?」


「仲間、か」


 クリナには言った言葉だが、自分がそう言われるのはやっぱり嬉しい。俺達は仲間、それも掛け替えのない仲間なのだ。


「うん!」


 その返事は、笑顔。しかも、満面の笑みだった。


「俺達は、仲間だ」


「そう言う事。だから」


 シオンは、自分の弓に矢を填めた。それに驚く俺だったが、彼女がある方向に矢を放つと、その意図する事がすぐに分かった。彼女は、森のモンスターを射貫いたのだ。茂みの中に隠れていたモンスターを見つけて、それが俺達に襲いかかろうとした瞬間、そのモンスターに矢を放ったのである。矢は、怪物の脳天にグサリと刺さっていた。


「助けあわないとね?」


 俺は、その言葉に瞬いた。周りの少女達も、それに驚いた。俺達は彼女の事をしばらく見ていたが、ミュシアが「すごい」と言うと、クリナも「くっ」と悔しがって、それぞれに自分の感情を表しはじめた。


「あのくらい、アタシもできるわ!」


 いやいやクリナさん、君は剣士でしょう? 剣士が自分の剣を放りなげたらダメじゃない? そんな事を考えていた俺だったが、肝心な事をすぐに思いだしたので、シオンの顔に視線を移した。シオンの顔はなぜか、笑っている。


「ありがとう、シオン。でも」


「でも?」


「結界、張っていたのに? それも、周りのモンスター達には気づかれないように」


 この結界には「色付き」と「色無し」があるらしく、自分の周りに結果を知られる際は「色付き」、そうでない時は「色無し」を使っていた。クリナが初めてクエストを受けた時も、「色無し」の結界をほとんど無意識に使っていたけどね。今回のクエストでも、それを使っていたのだけど。


「念のため」


()()()()だよ」


「準備運動?」


「そう、準備運動。冷えた状態で戦うのは、いろいろと危険じゃない?」


「そう、かもね」


「でしょう? だから、ほら?」


 シオンは、自分の頭上を見あげた。彼女の頭上には、俺達の獲物が飛んでいる。


「獲物が出てきても、怖がらないですむ」

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