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第39話 己の人生を射貫け 2

 悲鳴の主は、さっきの少女だった。彼女は冒険者の酔っぱらい達に絡まれてしまったらしく、そいつらに給仕の服を引っぱられては、その隙間から見えているらしい素肌をねっとりと見られていた。


「や、やめてください!」


 当然の反応。だが、冒険者達には「それ」が通じなかった。彼等は周りの視線などお構いなしに「うるせぇ!」とわめいては、店主の制止すらも聞きながして、彼女の身体を執ように弄りつづけた。


「俺達は、客だぞ?」


 そんな事は、分かっている。だがそれでも、最低限は守るべきルールがあるだろう? 「周りの客達に迷惑をかけない」とかさ。絶対に破ってはいけない決まりがある。それを平気で破るなんて。「許せないな」


 俺は背中の杖を抜いて、冒険者達の前に歩みよった。


「止めろ」


 無視。いや、どうやら聞こえていないようだ。自分達の欲望にだけ意識が向いている。


「止めろ!」


 今度は、怒鳴った。それが効いたようで、流石の冒険者達も驚いていた。彼等は少女の服から手を放し、一人、また一人と、鋭い目で俺の顔を睨んできた。それが変に面白かったが、少女が困ったように怯えはじめた事と、冒険者達が俺の周りを取りかこんだ事もあって、内心ではそう思いつつも、表情の方には「それ」を一切見せなかった。こんな奴等に怯んでいられない。


 俺は鋭い目で、周りの冒険者達を睨みかえした。


「彼女も嫌がっている。それにここは、公共の場だ。公共の場でこんな事をすれば、あんた達だってタダじゃすまないぞ?」


 普通の指摘だ。店主の男も、その指摘に「ホッ」としている。男は俺の目配りから何かを察し、冒険者達の目を盗んで、店の中からそっと出ていった。たぶん、町の治安所に行ったのだろう。治安所の中には、町の治安を守る兵士達が控えている。そいつらに「これ」を伝えれば、相応の場所にしょっ引いてくれるのだ。不味い飯と、汚い寝具の置かれた牢屋にね。


 それは、目の前のコイツ等も分かっている筈だったが……。まあ、酔っているのなら仕方ない。素面の状態ならまだしも、普通なら分かる事がまったく分かっていなかった。俺の胸倉を掴んで、俺を「ああん?」と脅したのもその証拠。コイツ等は自分達の未来すらも分からず、酔った勢いに任せて、たった一人の子どもを脅そうとしていた。


「大人気ない」


 そう呟いたが、コイツ等には聞こえなかったらしい。


「こんな事をしたって、仕方ないじゃないか?」


 これも無視。俺の胸倉を相変わらず掴んでいる。


「周りのみんなにも迷惑をかけて」


「うるせぇ!」


 拳が飛んできた。それも、かなり重い拳が。これは、流石に痛かったね。拳の威力もすさまじく、店の壁まで飛ばされてしまった。


「小便クセぇガキが、ガタガタ抜かすんじゃねぇよ」


「くっ!」


「俺達は、Bの冒険者だ」


B()()()()()


 そんな程度で、こんなに大暴れしているのか? Aの冒険者ならまだ知らず、たかがBの冒険者で? ふざけている! 冒険者のそれに階級意識を持つのは嫌だったが、これは流石に「カチン」と来てしまった。コイツ等は、何が何でもねじふせなければならない。


 俺は右の頬を押さえつつ、真面目な顔で床の上から立ちあがった。


()()()A()()()()()()


「え?」

 沈黙。それも怯えの混ざった沈黙だ。彼等は、俺の階級にかなり驚いているようである。


「ま、まさか?」


「『嘘だ』と思ったら、ギルドセンターの受付嬢に聞いてみろよ。『ウェルナ』って言う、俺と同い年くらいの少女がいるから。その子に聞いてみれば、すぐに分かる筈だよ?」


 これでも収まらなければ、実力行使。結界の魔法を上手く使って、コイツ等の戦意を失わせるだけだ。でも、よし! 思ったとおり、自分の武器を次々と下ろしている。


 彼等は(と言うより、こう言う奴等は)必要以上の階級意識、つまりは「自分達よりも下の連中」を見くだす意識が強いのだ。自分達よりも弱い相手には強気だが、強い相手には弱気になる。「力関係」と言う物にこだわりを、ある意味ではすがっているのだ。「相手が自分達よりも格上」と分かれば、その戦意をすっかり失ってしまう。だから、こう言う手段がもっとも効くのだ。わざわざ強い魔法で、相手を吹きとばす事はない。


「座れ」


「え?」


「町の治安兵が、もうすぐ来る。それまで大人しく待っているんだ」


 冒険者達の顔が青ざめたのは、その言葉に脅えたからだろう。流石の彼等も、法の力には逆らえない。それが中途半端に強い奴等だったら、その言葉に震えて、椅子の上に大人しく座りなおすしかないのだ。


「ふうっ」


 俺はまた、右の頬に触れた。右の頬がまだ、痛かったからね。俺は自分の頬をしばらく摩っていたが、給仕の少女に「あ、あの?」と話しかけられると、彼女の顔に視線を移して、その顔をじっと見はじめた。


「なに?」


「ありがとう、助けてくれて」


 彼女は、嬉しそうに笑った。若干二名は、オーグのように怒っていたけれど。

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