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第29話 初クエスト、初討伐 6

 不名誉だ、不名誉すぎる。俺がどうして、女たらしなんだよ? 俺はただ、彼女の事を思っただけなのにさ? それを「女たらし」と言われるなんて、あまりに理不尽すぎる。ある意味では、パーティーから俺を追いだしたマティのマシ……そんなわけはないが。追放は、女たらしよりもずっと上。遙かに理不尽な事である。アレの前では、こんな不名誉は不名誉にすらならなかった。


「そうだとしても」


 やっぱり嫌だな、どうも腑に落ちない。「女たらし」なんて言われる奴は、いろいろな女性を味見する男、つまりは「色男」って奴だね。俺はどう見ても、「色男」ではない。スキル死が起ってしまった、文字通りのアンラッキーな子どもだった。それ以上でも、また、それ以下でもなく。本当にただの……。「もういいや」


 あれこれと考えたところで、この不名誉が返されるわけでもないし。今は(不本意ではあるが)、「その不名誉に甘んじる」としよう。そんな事をぼうっと考えていたが、頭上の空が突然に暗くなった瞬間、今までの思考をすっかり忘れてしまった。


 俺は、頭上の空を見あげた。残りの二人も、自分の真上を見あげた。俺達は自分の思考も忘れて、頭上の空をじっと見はじめた。


 頭上の空には、()()()が飛んでいた。それも、一体だけではない。三体もの遊撃竜が、俺達の上をぐるぐると飛んでいたのだ。これには、流石に驚かざるを得ない。遊撃竜はB級以上の冒険者でも苦しめられる力、それ程までの力を持っていたからだ。それがまさか、自分達の上に三体も飛んでいるなんて。


「アンラッキーにも程がある!」


 俺はまた、パーティーの周りに結界を張った。それがどこまで通じるかは分からないが、張らないよりはずっとマシである。仲間の命を守るためにもね。「透明化」のスキルが使えるミュシアにも、「アイツらは、さっきの奴らよりもずっと強い。だから、透明化のスキルを早く!」と促した。「最悪の時は、クリナ様と一緒に逃げるんだ!」


 俺は、ミュシアの顔を見つめた。彼女の顔は、やっぱり落ちついている。


「いいね?」


「だいじょうぶ」


 いや、今度ばかりは「だいじょうぶ」ではない。下手すれば、全滅だってありえる。アイツらは、それ程までに強い相手なのだ。


「あなたなら勝てる」


「ありがとう。でも、今回は」


「だいじょうぶ」


 そう言って彼女が遊撃竜の一体を指さした瞬間、それが俺達の所に突っ込んできた。おそらくは、俺達の気配に気づいたのだろう。残りの二体も俺達を見おろしていたが、実際に攻めてきたのはそいつだけだった。


「くっ!」


 マズイ!


「二人とも、伏せろ!」


 二人は、その言葉に従った。特にクリナは今の状況を怖がっているせいか、地面の上に伏せた後も、両手で自分の頭を覆いつづけた。


「い、いやぁ! 怖い、怖い、怖い!」


 戦う意思も、すでに皆無。彼女は年相応の、十四歳の少女に戻っていた。


「お父様、お母様!」


 その叫びもまた、少女のそれと同じ。


「親不孝な娘をお許しください!」


「心配は」


 うんう、そんな安い言葉は言えない。「心配は、要らない」なんて言葉は。今の状況では、何の役にも立たない。


「それなら」


 アレを撃つしかない。あの巨大な猪を吹きとばした、()()()()を。そいつを使えば、あいつらだって一気にやっつけられる筈だ。


「うん!」


 俺は、遊撃竜の一体にそいつを撃とうとした。だが、その意識もすぐに消えてしまった。俺が例の呪文を唱えようとした瞬間、意識の中にまた不思議な魔法文字が現れてからである。


「これは?」


 呪文のルビは、読める。でも、その効果は分からない。コイツが一体、どう言う魔法なのかも。


「と、とにかく唱えてみなきゃ」


 分からない。だから、その魔法を迷わず放った。「ザラ・バ・ルオ(友に力を与えたまえ)」と言う呪文と共に。魔法は光の玉になって、クリナのところに飛んでいった。


「なっ!」


 どうして、クリナのところに? 


「それとあの輝きは?」


 玉はクリナの中に入ると、その身体を光らせて、彼女の右手に剣を握らせた。


「クリ、ナ?」


 俺は、目の前のクリナをじっと見た。クリナは自分の右手に剣を握ったまま、無感動な顔で俺の目を見かえしていた。

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