第22話 冒険、リスタート 5
不名誉な称号を得た俺、ちょっと泣きそうです。いや、泣いていいかな? 「女たらし」は、いくら何でも酷すぎる。今までモテた事なんてないのにさ! 問答無用にそんな称号が付いてしまった。
「俺は、そう言う類じゃねぇ!」
非モテの悲しい少年です。ああ、言っている傍から虚しくなりました。せっかく良さそうな店を見つけたのに。気持ちの方は、真っ青でございます。そんな事を思いながらも、真面目な顔で武具屋の中に入った。
武具屋の中は、いつ見てもいいねぇ。店の壁に掛けられている盾はもちろん、棚の中に並べられている剣も格好いい。どれもみんな、俺の心をワクワクさせる。超剣士のスキルがもし死んでいていなかったら、新しい剣でも買っているところだった。
「でも」
それはもう、叶わない夢。二度と見られない幻。幻は、どこまで行っても幻だ。それが現実になり得る事はない。自分がどんなに頑張ったとしても……だから、これからは!
「第二の、本当の道を進む。自分の中に眠っていた、本当の道をしっかり進むんだ」
そう言って恥ずかしくなったのは、俺だけの秘密。まあ、パーティーの面々には「なんだ? なんだ?」と見られたけどね。呟きの内容自体には、気づかなかったようだった。
俺は自分の経験に基づいて、この二人に必要そうな道具類を買いそろえた。
「まあ、こんなもんかな?」
それに驚くミュシア。
「こんなに?」
クリナ(本人に言わないのなら、別に呼び捨てでもいいだろう)も、「うぇ?」と驚いている。
「買うの?」
二人は「信じられない」と言う顔で、俺の顔を見つめた。いやいや、君達の方が信じられないからね?
「当然だろう? ミュシアのスキルは、透明化」
「自分の姿を隠せる能力」
「そう、ついでに仲間の姿もね。あの光景を思いだす限りじゃ」
その会話に割りこんできたクリナ。どうしたのだろう? 何だか、とても驚いている。
「ア、アンタ、そんなに強いスキルを?」
その口調もヤバイ。流石のミュシアも、それには目を見開いていた。
「卑怯じゃない!」
「卑怯?」
これは、ミュシア。ミュシアは、その言葉に首を傾げている。
「どこが?」
「『どこが?』って、それじゃ鎧なんて要らないじゃない? 下手したら、このまま」
「それは、無理」
「ど、どうして?」
「たぶん、魔王には気づかれる。それに」
「そ、それに?」
「仲間の数が増えれば、消えられる時間も短くなるから」
「試した事があるの?」
これは、俺。
「前に?」
「うん、一度だけ。森の中に迷いこんだ、子どもを守るために。子どもは、助かった。でも、透明化の時間は」
「短くなった?」
「うん。だから、万能じゃない」
「なるほど。それなら、なおの事」
鎧が必要だ。鎧は、自分の身体を守ってくれる盾。最後の防護壁である。
「良い奴を選んでよかった」
「ありがとう」
うん、可愛いです。「可愛い」の権化です。ふわりとした金髪が、太陽のように輝いている。クリナの真っ直ぐな赤髪もよかったが、俺としてはこちらの方が好きだった。
深い理由は、特にないけれど。そんな事を考えていた時になぜか、それを見ていたクリナに叩かれた。それも、思いきり叩かれた。俺の頭を「バチン」と。ううっ、いきなり何するんだよ?
「いてっ!」
「ふん!」
どうして、不機嫌? 意味がまったく分からない。
「おい!」
「なに?」
「なんで殴るのさ!」
「さあね。殴りやすいところにいたんでしょう?」
「なにそれ、理不尽すぎる」
やっぱり、仲間に入れない方がよかったかな?
「と、とにかく! ミュシアの道具は、揃えたし。次は……」
「アタシ達の買い物よね?」
「達の部分をなぜ、強調?」
「大事だから」
「ふ、ふうん。まあ」
何だか分からないが、(彼女の言い分としては)そう言う事らしい。
「それじゃ、行こうか?」
「ええ!」
満面の笑顔。それを見ていたミュシアの顔がなぜか、オーグのようだったけれどね。