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第19話 冒険、リスタート 2

「はい?」


 うん。まあ、そうなるね。初めて聞いた奴だったら、その反応も不思議ではない。大抵の奴が、そうなる。他人の隠れた才能を目覚めさせたなんて、「驚くな」と言う方が無理な話だった。


 少女は黙って、相手の顔を見ている。相手も黙って、その顔を見かえしている。二人は周りの視線などお構いなしに、相手の目をじっと見つづけていた。


「ふうん」


 最初に動いたのは、剣士少女。どうやらまだ、半信半疑であるらしい。


「それが、アンタのスキルなんだ?」


 剣士少女真面目な顔で、相手の目を睨みはじめた。その気持ちは分からなくもないが、睨むのは止めよう? 見物人達がほら? また、増えてきたからさ。腰の剣にも手を伸ばさない!


「ねぇ?」


「なに?」


「アタシは、剣士の向いている?」


 妙な質問だった。彼女は自分で、自分の事を「剣士」と言っている。ならどうして、「自分は、剣士に向いている?」と聞くのか? 馬鹿な俺には、まるで意味不明な質問だった。


「どう?」


 それを断らないのが、ミュシアだった。ミュシアは彼女の魂を覗いたらしく、数秒は黙っていたが、やがて今の質問に答えはじめた。


「適性は、ある。でも、一流にはなれない。良くて、二流止まり。あなたの才能は、()()()。お嬢様の優雅な生活」


「へ?」


 これは、俺。今の評価に思わず驚いてしまったのだ。


「優雅な生活? お嬢様?」


 もっと意味不明。だが、それもすぐに消えてしまった。少女の表情を見れば、分かる。と言うか、察せられてしまう。彼女はどこかのご令嬢、それも結構高い身分のご貴族様らしかった。


「どうして、そんなお嬢様が? この仕事が命がけなのは、充分に」


 その続きを遮られた。しかも、かなり大声で。それを聞いた周りの冒険者達も、「なんだ? なんだ?」と驚いている。


「え? なっ!」


「アンタに言われないでも分かっているわ、そんな事」


「だったら!」


「ねぇ?」



 今度は、悲しげな声。それがなぜか、俺の胸を打ってしまった。


「アンタは、贅沢は好き?」


「ふぇ? ああうん、人並みには」


「それが、毎日続くとしても?」


「それは」


 ううん、ちょっと嫌かもね? 贅沢は、たまにするから贅沢。最高級の肉を毎日食べつづけたら、流石に飽きるだろう。あるいはもう、ウンザリしてしまうかも知れない。「たまには、普通の肉が食べたい」ってね。


「ちょっと無理かな?」


「アタシは死ぬまで、『それ』をやらなきゃいけなかった」


「なるほど」


 彼女の言いたい事は、分かった。彼女が今、何を求めているのかも。貴族のお嬢様でありながら、騎士の鎧を装っている意味も。彼女はつまり、「冒険者」に自由を求めているのだ。


「でも」


「なに?」


「その自由は、あまりに危険すぎる。自分の死と、隣り合わせの自由だ。自分が『楽しい』と思っている裏では、死の刃が光っている。君は、その事を分かっているの?」


 その答えは、ない。ただ、重たい沈黙がつづくだけだった。


「俺は昔、モンスターに自分の親を殺された。文字通りの虐殺さ。自分の身体が問答無用に切りきざまれる光景。『冒険者』って言うのは、それに自分から突っ込んでいく職業なんだ」


 そう言いながらも、実はミュシアにも言っていた言葉。彼女にも分かっていてほしい世界。彼女の事を誘ったのは確かに俺かも知れないが、それだけはどうしても知っていて欲しかった。


「コイツは、遊びじゃない」


 てね。自分の命を賭けた、真剣勝負だ。食うか食われるかの真剣勝負。少しでも間違えれば、即退場の世界。ここは盤上の、再試合が可能なゲームではないのだ。


「自由になれる方法は、他にもいくらだって」


「うるさい」


「え?」


「他の方法なんて、どうでもいい。アタシはそれでも、『冒険者』になりたいの!」


「冒険者になりたい?」


 それはつまり、彼女は……。


「ねぇ?」


「なに?」


「君ってまさか、冒険者じゃないの?」

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