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第133話 免罪者の犯罪 3

 どんな犯罪も許される人間、罪の概念から解きはなたれた人間。免罪者の犯罪。その人間に悪意があるかどうかに関わらず、その反省や刑からすべて免れてしまう特異体質。そんな人間がもし、この世界にいるのなら。それは、文字通りの驚異だろう。


 人間にとっても、また、魔族にとっても。いつ傾くとも分からない天秤が、常に揺れているようなモノだ。ある時は、人間の側に。またある時は、魔族の側に。天秤は常に「どちらが面白いか? どちらが楽しいか?」と考え、それに「こうしよう」と思ったところで、天秤の皿を傾けるのである。「そんな奴を」

 

 チアは、その言葉に割りこんだ。彼女が何を考えているのかは分からないが、その言葉に彼女も思うところがあったらしい。チアは建物の外壁に寄りかかって、自分の横に(やや壊れかけている)鎌を置いた。


「放ってはいけないわね? 普通に考えれば」


「うん」


「でも、それに抗う術はない。私も、すぐにやられてしまったようだしね? それをハッキリとは覚えてないけど、今も身体中が痛いから」


 それに「うんうん」とうなずいたカーチャもまた、彼女と同じように怒っていた。カーチャは自分の肩や腕、足や背中などを撫でて、その感覚に「つうっ」と唸りはじめた。


「あたしも、あたしも! 身体中が痛いワン! 今も、足下がフラフラしているし」


「彼は殺しこそしなかったものの、それに近いところまでは追いこんだ。それはつまり、『この戦いを楽しんでいた』と言う事。私達の命を奪わなかったのは、本当の意味で気まぐれだったんでしょう。『コイツらは、殺す勝ちもない』と言う風に。彼にはたぶん」


「たぶん? なんだ、ワン?」


「幼い、うっ! 幼い全能感がある。『自分はこの世界で、最も強い。最も強いなら、何をやってもいい』と言う。幼い子どもが、一度は抱くだろう全能感よ。子どもが親に泣きさけんで、自分の要求を叶えさせようとするね? 彼は今の歳で、その力を手に入れた」


 そこに割りこんだスラトさんも、彼女と同じような反応を見せていた。スラトさんは自分の顎を摘まんで、自分の箒を弄りはじめた。箒の持ち手にある、その装飾品らしき物を。


「『それが事実だ』とすれば、問題は何処で『それ』を手に入れたかね? ゼルデ君のような感じ。例えば、『スキル死に』から蘇ったのか? それとも」


 チアは、その言葉に目を細めた。スラトさんとはあまり喋らなそう彼女だったが、その言葉には「なるほど」と思うところがあるらしい。スラトさんが彼女の顔に目をやると、チアもそれに合わせて相手の目を見はじめた。


「別の誰か、あるいは、何かに()()()()()()()()?」


「そう言う事。そうでなければ、アーティファクトの軍団を倒せるわけがない。それも、たった一人で。彼には触れてはいけない秘密、その根幹に触れるような秘密が」

 

 その後につづいたグウレさんもまた、彼女と似たような疑問を抱いたのだろう。グウレさんは不安な顔で、少女達の顔を見わたした。


「その秘密をもし、知ってしまったら? 私達は一体、どうなるんだろう?」


 少女達は、その言葉に押しだまった。特にピウチさんは余程に怖かったらしく、エウロさんの腕にしがみついて、「う、うううっ」と震えはじめてしまった。少女達は互いの顔を見あうと、ある少女はうつむき、ある少女は泣きだして、それぞれに自分の恐怖を表しはじめた。


「こわいよ」


 そう言ったのは、ピウチさん。


「とんでもない奴だ」


 そう言ったのは、ボウレさんだ。ボウレさんは愛用の改造ボーガンを操って、建物の外壁にボーガンを撃ちこんだ。


「これじゃ、射ぬく前に射ぬかれちまう。命の弾がいくつあっても、足りないよ!」


 また放たれたボーガンは、一本目のすぐ隣に突きささった。凄い命中精度である。最初は悪魔の脅威に震えていた少女達も、その一瞬だけは「え?」と驚いていた。ボウレさんは「それ」を流して、俺の顔に向きなおった。「ゼルデもたぶん、いつかこうなる」


 俺は、その言葉に眉を寄せた。その言葉は、正に現実。彼に手も足も出せなかった、俺の紛う事なき真実だった。真正面から突っ込んでも、玉砕。搦め手を使っても、返り討ち。彼には通常の攻撃を超えた攻撃、普通の思考を超えた思考が備わっているのだ。そんな相手ともし、また戦う事になったら? 今の俺では、まったくの無力だろう。俺の覚醒状態をあっさりと破られて、その身体を今度こそ貫かれるに違いない。「くっ」


 ミュシアは、その言葉を遮った。それを否めるわけではなく、その不安をそっと取りのぞくように。彼女は「クスッ」と笑うと、俺の肩に手を乗せて、その目をじっと覗きこんだ。


「だいじょうぶ」


「え?」


「そんなに震えなくても、貴方ならだいじょうぶ」


「で、でも」


「だいじょうぶ。フカザワ・エイスケは、確かに強い。強いけど」


「強いけど?」


「貴方には、貴方の強さがある」


「俺の強さ?」


「貴方は、孤独じゃない。最強は、孤独。自分の周りには、誰もいない。自分についてくる人達はみんな、その力に酔いしれているだけ。その力に利益を得ているだけ。だから、孤独。でも、貴方は孤独じゃない。孤独じゃないから、強い」


「ミュシア、それは」


 泣きたいほどに嬉しい。嬉しいけど、だけど……。


「それでも、勝てない。フカザワ・エイスケには」


「勝てなくてもいい」


「え?」


 勝てなくてもいい?


「でも、それじゃ?」


「戦い方には、いろいろある。力で相手に勝てないなら、頭で相手に勝てばいい」


「な、なるほど。でも、『頭で相手に勝つ』って言うのは?」


 ミュシアは、その言葉に微笑んだ。まるでそう、その言葉を待っていたかのように。


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