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第14話 新規登録、謎の少年 2

 足音の主は、モンスター。それも、無数のオオカミもどきだった。コイツらは料理の匂いに誘われて、ここに集まってきたらしい。コイツらの気持ちなんて分かりたくもないが、狂ったように吠えつづける姿や、その口から唾液を垂れながす様からは、「それ」が嫌でもが分かってしまった。


「チッ!」


 ほぼ反射で立ちあがった。怪物達に周りを囲まれてしまった以上、マヌケ顔で倒木の上に座ってはいられない。すぐに戦闘態勢、ミュシアにも「君は、透明化のスキルを!」と叫ばなければならなかった。「アイツらは雑魚だから、たぶんバレない」


 俺は、自分の意識に眉を寄せた。意識の中には、例の魔法文字が浮かんでいる。そのルビも含めてさ。それを読めばまた、自分の魔法が現れるだろう。


「クハト・エル(出でよ、結界)」


 そう叫んだ瞬間に現れた結界は、教会の窓にはめてあるステンドグラスよりも美しかった。その形も美しい球体で、俺やミュシアの事をすっかり包みこんでいる。まるで天文学者が使うような、不思議な雰囲気を漂わせていた。


「綺麗」


 そう彼女も言った。


「本当に」


 俺も、それに続いた。


()()()()()()()()()()()()


 俺達は今の状況をすっかり忘れて、目の前の結界にただただ見ほれつづけた。


 だが、「くっ!」

 

 それを破るのが、「怪物」って奴だった。奴らには、人間のような情緒はない。周りの自然を楽しんだり、一瞬、一瞬の(きら)めきにときめいたりもしない。ただ、自分の本能に従うだけだ。「人間の事を殺したい」って本能にね。その証拠として、結界の正面にも体当たりしはじめた。


「野郎」


 せっかくの気分を台無しにしやがって。


「ちょっとは、空気を読めよな?」


 そんな事を言っても無駄。奴らに人語を聞きとる力はない。俺の言葉にもただ、「うっううう」と唸っている。


「チッ」


 こうなったら、またあの呪文を。


「放ってやる!」


 そう叫んだ俺を止めたのは、俺の近くに立っていたミュシアだった。ミュシアは俺の肩に手を乗せて、何度か首を振った。


「だいじょうぶ」


「え?」


「あの子達は、勝手に滅びる」


「なっ! まさか?」


 結界は「守りの力」であって、「攻めの手段」ではない。相手の攻撃をただ、防いでくれるだけだ。


「守りだけじゃ、相手は倒せないよ?」


「だいじょうぶ」


 彼女は「ニコッ」と笑って、モンスター達の方を指さした。その顔は、とても落ちついている。


「見て」


 有無を言わずに従った。そうするしか、方法がなかったからね。


「なっ!」


 うそ、だろう? 怪物の身体が焼かれている? それも、結界の正面に体当たりした順に。奴らは学習能力がないのか、味方の身体が焼かれても、その光景を無視して、結界の表面に次々と体当たりしていた。


「こ、これは?」


「薔薇の棘」


「え? 薔薇の?」


「そう、薔薇の。薔薇の棘は、触ると痛いでしょう? この結界は、それと同じ」


「な、なるほど。つまり」


「攻めた方が、痛い目をみる」


「ハハハッ」


 乾いた笑いが止まらない。これでは、相手の方がかわいそうだ。


「アンラッキー」


 そう、正にアンラッキー。モンスター達は俺の結界に焼かれて、その命をすっかり奪われてしまった。それに唯一残った一匹も、結界の力をようやく察したようで、俺の顔をしばらく睨んだが、その数秒後にはもう、結界の前から走りだしていた。


「逃げたか」


 まあ、正しい判断だね。自分の敵わない相手からは逃げる。生き物としては、正常な思考だ。


「ふう」


「ホッとした?」


「いや、驚いた。自分の力に」


「そう。でも」


「でも?」


「これからは、ホッとできるでしょう?」


 俺は、その言葉に苦笑した。そう言われれば、確かにそうだけど。


「でも、油断は大敵だ。安全な町の中に着くまではね?」


「うん」


 彼女は「ニコッ」と笑って、頭上の空を見あげた。頭上の空は、驚く程に澄んでいる。

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