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第118話 見えない恐怖 4

 だがそれは、悪い手だったようだ。潜入組の帰還を待つ。それ自体は別におかしくはなかったが、その連絡手段がほとんどない以上、その考えもすぐに「ダメなのではないか」と言われてしまった。「この部屋に留まっている場合ではない。今すぐにでも飛びだして、彼女達の事を助けださなければならないのではないか?」と、そう言われてしまったのである。「仲間の命が第一じゃない?」ってね、そんな風に迫られたのだが……。


 その考えにもまあ、ある種の穴がある。スラトさん等辺はもう、それを察しているようだけど。「救出」と言うのは、(ある意味では)「潜入」よりも難しいのである。だから、その考えにも「うん」とうなずけなかった。

 

 俺は自分の顎を摘まんで、仲間達の顔を見わたした。仲間達の顔は「焦り半分」、「不安半分」と言う感じである。


「みんなの気持ちも分かるけど、ここはやっぱり」


 ピウチさんは、その言葉を遮った。彼女の性格から考えれば、その言葉はどうしても受けいれられなかったらしい。彼女は俺の前に詰めよって、その目をじっと睨みつけた。


「助けようよ! みんなが敵に捕まっているのなら、今すぐに!」


 ヒミカさんは「それ」を遮って、彼女の肩に手を置いた。彼女に「まあ、落ちつけ」と言うように。


「今行くのは、あらゆる意味で危険だ」


「ど、どうして? 悪い人にやられているかも知れないんだよ? こう鞭とか、鎖とかで」


「そうかも知れない。だが、今行けば」


「行けば?」


「私達も、それと同じ目に遭うかも知れない。あるいは、彼女達の命が危険に晒される事も。彼女達には、一応の連絡係を設けたんだ。あちらとこちらとを繋ぐ、貴重な連絡係。それがこちらに伝えてくるまで」


「ミュシアちゃんが無事とは、限らないじゃん! 『自分の姿を隠せた』としても」


「確かに、な。だがもし、そのミュシアも操られてしまったら? 私達がそれに近づいて、相手の毒牙に掛かってしまったら? 調べられる物も、調べられなくなる。私達は、冒険者だ。その相手がどんなに危険でも、それに挑まなければならない者。私達は」


「それでも!」


 ピウチさんは、自身の声を荒らげた。それが「自分の思いだ」と言わんばかりに。


「やっぱり心配だよ、わたし」


 ユイリさんは、その言葉に目を潤ませた。その言葉には優しさが、彼女の美しさが込められていたから。それに「甘い」と言う者はいなかった。でも、それでも、やっぱり「ダメ」と言う者はいる。ユイリさんは彼女の事を止めようとしたが、彼女の方は「それ」に従おうとはしなかった。「スラト」


 スラトさんは真面目な顔で、ピウチさんの前に歩みよった。ピウチさんが「それ」に驚いている事も無視して。


「ピウチの気持ちは、分かる。でもそれは、みんなの全滅を招く。『連絡役の帰還がない』って言う事は。相手の守りも、『それだけ厳しい』って事なの。守りが厳しいところに攻めるのは、自分から死地に行くようなモノだわ」


「そ、そうかも知れないけど! だけど」


 そこに割りこんだのは、彼女の前に歩みよったヒミカさんだった。ヒミカさんは「ニコッ」と笑って、彼女の肩に手をまた置いた。


「信じよう」


「え?」


「彼女達の事を、ミュシアさんの事を。彼女達は、私達が思っているよりもずっと強い。特にミュシアさんのスキルは、強力だ。自分の姿はもちろん、仲間の姿も隠せるなんて。潜入には、最高のスキルだろう。隠密行動の得意なマドカさんや、弓術士のシオンさんもいるからな。敵の攻撃にもまず、やられない。自分達の命が『危ない』と思えば、すぐにでも逃げられるだろう」


 それには、俺も同感だった。剣士であるクリナを除いて、それ以外の四人は潜入向き。相手の包囲網だって、難なく通れるだろう。それを補うボーガン部隊や、芸達者な四人娘もいるし。敵地の潜入には、持ってこいのメンバーである。それらが約束の時間にも戻ってこない事、それだけはどうしても気になるが。「う、ううう」


 ヒミカさんは俺の声を無視して、ピウチさんの肩から手を退けた。おそらくは、「もう大丈夫だろう」と思ったのだろう。そうでなければ、ピウチさんに「クスッ」と笑うはずがないからね。これは、絶対に間違いない。


「だから、案ずるな?」


「う、うん、そうだね! うん……」


 最後の部分は、よく聞きとれなかった。ピウチさんは不安半分、期待半分の顔で、ヒミカさんの手を握った。


「ありがとう」


「いや」


 ううん、微笑ましい光景だ。周りのみんなも、それに和んでいるし。今までの不安が、綺麗に消えてしまった。彼女達は「ニコッ」と笑いあって、この夜をずっと過ごしつづけた。でも、やっぱり不安。「彼女達が朝になっても帰らない」とあれば、昨日の安堵もすっかり消えてしまった。俺達は、その現実に落ちこんだ。落ちこんだ上に悲しんだ。「昨日の夜に動いていれば」と言う風に。途轍もない後悔を覚えてしまったのである。


 俺達は陰鬱な顔で、宿の外に出ていったが……。宿の外には何と、潜入組の少女達が立っていた。それも今まで着ていた服とは違う、町の人達と同じような服を着て。彼女達は俺達の登場に驚きこそしたが、その声に応えようとはしなかった。挙げ句の果てには、「貴方達は?」とか言いはじめる始末。彼女達は不思議そうな顔で、俺達の事をずっと見つづけた。

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