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第99話 黄金の龍、弱者の抵抗 8

 矢玉の次は、芸術の攻撃。そうとしか言いようのない攻撃だった。先程の少女達が野蛮ならば、今度の少女達は優雅。それも、「芸」と「美」とが合わさった優雅である。それを目の当たりにすれば、流石の黄金龍も怯むだろう。黄金龍も(ある意味では)優雅だが、相手の方はそれ以上に優雅なのだからね。何らかの反応は、示す筈だ。「それを何とか弾こう」とする意思も、戦いのどこかで示す筈である。


 だが、そんな意思はどこにも見られなかった。少女達の攻撃を躱す動きからはもちろん、それに反撃を加える動きからも。「すべては想像の範疇、予定調和の範囲」とすら思えてしまった。「相手は、それだけ強い相手だ」と、そう内心で思ってしまったのである。そうでなければ、少女達があんなにも苦しめられる筈がない。

 

 少女達は得意(と思われる)の扇子や鞭、輪や布を使ったが、それらの攻撃範囲が意外と狭かった事や、相手の身体が想像以上に固かった事も相まって、黄金龍の身体に傷らしい傷をほとんどつけられなかった。それどころか、逆に反撃すらも食らってしまう始末。リオもまた黄金龍に捕縛呪文を放とうとしたが、相手がその気配を感じたらしく、彼女がそれを放とうとしたところに向かって、彼女の身体に稲妻を落とそうとした。「危ねぇ!」

 

 そう叫んだのは、彼女のところに走りよったマドカだった。マドカは本当に間一髪、稲妻が彼女の身体に当たりかけたところで、その生命を見事に助けだした。


「ちくしょう! ここまで強いとか!」


 冗談ではない。確かにその通りだった。素材の四体を遙かに超える力、この圧倒的な戦闘能力。正に神の領域だった。中央の力は、伊達ではない。マドカは透明化のスキルと合わせて、木の裏にリオを連れていった。


「大丈夫か?」


「え、ええ、大丈夫。貴方の方は?」


「ミュシアの力を舐めるんじゃねぇよ。オレの方も、問題ない。だが」


「ええ、このままいけば」


 ジリ貧だ。俺達は、絶対に負ける。これだけの人数がいても、相手の力がそれよりも勝っていたなら。数の優位も、消える。あの稲妻に焼かれて、俺達全員が消し炭になる。上空の光に「あ?」と驚いた瞬間にね、俺達の身体が焼かれてしまうのだ。そうなってはもう、戦えない。自分の身体を治す事も。「治療要員のリオがいる」とは言え、それは流石に無理な話だった。死んだ人間の事は、流石の彼女でも応じられない。だがそれでも、彼女達の闘志は潰えていないようだった。彼女達は互いの顔を見あおうと、真面目な顔で正面の敵に視線を戻した。


「でも!」

 

 リオさん、本気モード。


「ああ、分かっている。こんなところで諦めてたまるか!」


 マドカさんも、本気モード。


「あんな化け物は、叩きつぶしてやる!」


 二人とも、気合い充分ですね。俺もまあ、同じなんだけど。俺は先程の少女達に援護射撃を行うべく、杖の全体に魔法を溜めはじめたが……ちくしょう、ここからでは位置が悪い。この位置から砲撃魔法を撃てば、あの子達も巻きこんでしまう。この砲撃魔法は、強力だ。黄金龍に効くかどうか分からないが、彼女達の方は間違いなく吹きとんでしまうだろう。それこそ、木っ端微塵にね? 跡形もなく消しとんでしまう筈だ。そんな砲撃を撃つわけにはいかない。


「くっ!」


 俺は遠くの彼女達に回避を呼びかけようとしたが、それが思わぬ形で妨げられてしまった。俺が彼女達にそれを叫ぼうとした瞬間、黄金龍が自分の尾を振りまわして、彼女達の身体を押しとばしてしまったからである。少女達は右手の扇子を弾かれ、左手の鞭も弾かれ、ついでに輪と布も弾かれて、木々の表面に叩きつけられてしまった。それがあまりに痛々しかったが、ある意味では好気だったので、その瞬間を決して逃すまいと、今度は俺の方から黄金龍に向かって砲撃を放った。


 だが、それもやっぱり通じない。流石に宝玉では防げなかったようだが、例の尾を想像以上に強かったせいで、俺の砲撃をすっかり弾いてしまったのだ。これには、思わず舌打ちせざるを得ない。それを見ていた残りの少女達もまた、俺と同じような反応を見せていた。


「強い」


 ああ、強い。本当に強すぎる。流石は、四方の融合体だ。今までの奴等とは、格が違う。


「それでも!」


 やっぱり負けられない。ここで負ければ、今までの努力が水疱に帰してしまう。多くの試練を乗りこえてきた人生が、一瞬の内に消えてしまうのだ。俺が俺として、生きてきた意味も。これから目指そうとする、場所も。それらが、闇の中に葬られてしまうのである。


「そんな事は、絶対にさせない!」


 俺は自分の気持ちを奮いたたせて、黄金龍の身体にまた砲撃を放った。だが今度は、その砲撃自体を躱されてしまった。俺が黄金龍に杖を向けた事で、その砲撃をすぐに察したのだろう。今回は、「弾くのも面倒だ」と言わんばかりに頭上の空へとまた舞いあがってしまった。


「なっ! くっ!」


 俺は、頭上の黄金龍を見あげた。黄金龍はまた、俺の顔を見おろしている。まるで俺の事を……いや、俺達人間の事を見くだすかのように。


「野郎」


 それにも、まったく動じない黄金龍。奴はやっぱり、とんでもない化け物だ。黄金龍は地上の俺に稲妻を落とそうとしたが、その攻撃をすぐに止めてしまった。黄金龍が周りの雲に稲妻を走らせた瞬間、例の飛行部隊が黄金龍に襲いかかったからである。

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