使える駒
「殿下。フローレス伯爵がまた、賭博場で見かけられたとのことです」
今朝早く挙げられた報告書を見ながら、ブレンダンは報告した。
「なんと。最近はいつも賭博場に入り浸っているようだな。屋敷にいるよりも長いのではないか?」
「そのような悠長なことを言っている場合ではありません。フローレス伯爵は、国民に、関わることを認めていない闇賭博に関わっているだけではなく、屋敷や伯爵の称号までもを担保に賭博に明け暮れているのですよ」
そうなのだ。フローレス伯爵について良い噂は聞かない。前伯爵は、孤児院の創設など多くの国民への幸せや、領地での発展に尽力していたが、現伯爵になってからは闇賭博に関わり、多額の借金を負っているようだ。
最初は少額で健全な賭博を楽しんでいる程度であったが、ここ5年は何かに取り憑かれたように賭博に明け暮れているようだった。
「借金はだいたいどれくらいの額になっているか、概算は出ているのか?」
そう、ここエリストラ国では地位を保つにはある程度の貯蓄が必要だ。借金が多くなれば必然と爵位を剥奪される。剥奪となれば、いくら伯爵家だったからと言って、平民になれば暮らしてはいけないだろう。
「詳しい概算はまだ調査中ですが、間違いなく剥奪が免れないほどの負債は抱えているようです。それと、そのフローレス伯爵から令嬢とぜひ婚約をと推薦する旨の手紙が届いております。」
フローレス伯爵から届いたと言われたそれを受け取り、開封した。中身は、何度となく伯爵本人からも言われている、令嬢であるミシルとの婚約を催促する内容だ。
この私、パトリックも結婚は王家の人間としてしなければならないことは分かっている。しかも、適齢期の女性で婚約者がまだいないものの中で、身分などを考えるとフローレス伯爵令嬢が最適と考えられていることも、理解はしている。
今年で27歳。結婚適齢期を大きく過ぎている。女性に興味が無い訳ではないが、国の安定などを考えるとなかなか踏み切れずにズルズルとこの年まできてしまった。また、妃になるという栄光を得たいという女性は多くいるが、家柄や、教養なども鑑みなければならず、妃候補を選ぶことすら難しい実情もある。
フローレス伯爵令嬢との婚約は外面だけ見れば問題ないが、フローレン家の内情を考えると妃として迎え入れるのは不向きだろう。
そういえば、興味深い話を聞いたことがあるな。フローレス伯爵の娘は双子で、1人は悪魔だったと。
何年前だったか?ひょっとしたら十何年前になっただろうか。フローレス伯爵家で悪魔が生まれたと話題になったな。あの時は特になにも感じていなかったが、数年後に死んだと報告されていたな。
死んだ人間は屋敷内にいる訳がない。おそらくフローレス伯爵家のことだ、どこかに捨てたのではないか・・・
であれば、伯爵の息がかかったあの娘よりも手駒として使いやすいのではないか?
「ブレンダン、悪魔の子の話を覚えているか?あの悪魔の子もフローレス家の人間だったよな。」
「そうでしたね。だいぶ前に亡くなっていると報告されたようですが。」
「その悪魔の娘を婚約者として迎え入れよう。同じフローレスの娘だ。」
その発言が本気なのか、ブレンダンはあまりのことに驚きを隠せない様子だった。
「殿下、本気でそのようなことを思っておいでですか!」
ブレンダンは突拍子もない発言についつい声を大きく批判した。
「ブレンダン、落ち着け。本当に婚約者にする訳ではない。フローレス伯爵の動向もみたい・・・手ごろで使い勝手のいい駒ができると思えばいいのだ。きっと捨てられてどこかで生きている。探して欲しい。」
そうして探し出されて連れてこられた悪魔こと、ルシルが今、目の前にいる訳だが。
「うむ。合格だ」
ルシルは、いきなりの合格という言葉に意味が分からず首をかしげていた。
「あ・・・あの、私何もしていないのですが、何に合格したのでしょうか?」
「今日からルシルを、私の婚約者にするということだ。よろしく頼む」
あまりにも急なことで驚いたようでルシルは、こちらを見たまま床に座り込んでしまった。
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2021年6月15日編集しました!