初めての挨拶
「さぁ!ルシル様、とても綺麗にできました。これで殿下のお心も掴めること間違いなしですわ!」
自分の生い立ちについて、あれこれ考えているうちにエレナが着替えのすべてを済ませてくれたようだ。
「ルシル様、こちらに鏡がございます。ご確認ください。コルセットはキツくありませんか?」
エレナが鏡を目の前においてくれた。その鏡に映る自分の姿を見て目を見張った。あまりの驚きに、エレナが言った心を掴めるとかなんとかいう言葉は頭に入ってこなかったが・・・
鏡の中に映る自分は、ピンク色の胸元にキラキラひかるスパンコールをあしらったドレスを着て、瞳の色と合わせたような薄水色のイヤリング、どこから見てもお嬢様だったからだ。
「え・・・。これ、私?」
「すみません。何か気に入らない点でもございましたでしょうか?」
「とても素敵で、自分のようには思えなくて。エレナさんありがとうございます。」
「コルセットも大丈夫そうですね。」
エレナが最終チェックをしてくれていると、衣装部屋の扉をたたく音が聞こえた。
『ブレンダンでございます。ルシル様の準備はできましたでしょうか?お迎えに上がりました』
“トンットンッ”
「ブレンダンでございます。ルシル様をお連れいたしました」
『・・・・入れ。』
ブレンダンに連れられて、パトリック殿下の執務室へ訪れた。執務室は私が想像したよりも質素で、真ん中奥に執務を行うところであろう大きめの机と、手前に面会などで使うであろう応接用のテーブルとソファーが置いてあるだけであった。
目の前で一生お目にかかることなど無いと思っていた王子に会うことになり、人生で一番緊張していたが、「お初にお目にかかります。ルシルと申します。」と丁寧にドレスをつまみ上品に膝をおって優雅に挨拶をした。
その光景は美しく、パトリックとブレンダンは時間が流れていることを忘れ見とれているようだった。
「パトリック殿下?私、何か粗相をしてしまいましたでしょうか?」
どんなに優雅にお辞儀をしたところで、平民として育ったのだ。緊張もしていたし、粗相があったのではないか不安になり青くなった。
育ての父であるレイモンドは、貴族の方に挨拶する機会があるかも知れないと私にいつも挨拶の仕方を厳しく教えていた。その教えられた挨拶をしっかりしたつもりだったが、間違っていたのかもしれない。
「あ・・・いや。見事な挨拶だった。ルシル、私のわがままで、来てもらってすまない」
自分が粗相をしたわけではないとわかり少しばかり安心した。
「君は自分がフローレス伯爵令嬢だと知らなかったようだと、ブレンダンから聞いているが、間違いないか?」
「・・・はい。私は、小さい頃に捨て置かれてから下町で、平民として暮らしてきました。フローレス伯爵様とは1度もお会いしたことはありませんし、殿下には申し訳ありませんが、人違いだと思います」
失礼にあたるかもしれないと思ったが、自分が思っていることを正直に申し上げた。
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2021年6月15日に編集しました