瞳の色
「お嬢様。私がエレナと申します」
一瞬お嬢様とは誰のことかわからず、ルシルは戸惑った。しかし、向けられている目線からみるに自分のことだと分かり慌てた。
「お嬢様だなんてやめてください。私はルシルと申します」
自分よりも綺麗で、指先まで整っているエレナにお嬢様と言われるとルシルは立場が逆ではないのかと恥ずかしくてたまらなかった。
「では、ルシル様。まずは入浴をしましょう」
言うが早いか、エレナはルシルの背中を押し、浴槽に連れていき、着てきた服をすべて脱がせた。
「・・・っ!!自分で入れますっ!」
人に入浴を手伝ってもらうなんて今までの人生で1度も経験したことがなく、驚きと恥ずかしさで戸惑った。
「ルシル様、体の隅々まで綺麗にするように仰せつかっていますので」
恥ずかしがる私をよそにエレナはあれをあれよと体を綺麗にしていった。
「では次は化粧をして、ドレスに着替えていただいて、髪をセットしていきます」
入浴後は恥ずかしさにも諦めもつき、されるがまま、身を任せていた。
そもそも、捨てられたのはこの容姿のせいだと聞いたことがあるのだ。どんなに手をつくしたって綺麗になるわけがない。エレナが一生懸命用意してくれているが、そんなことを思っていた。
私は自分の生まれや、生い立ちについて、詳しくは知らない。だが、育ての父に自分は双子であり、妹がいると聞いたことがある。
妹は生まれたころから麗しい海を深くしたような青い瞳と、ふわふわと愛らしいブロンズの髪をもって産まれてきた。
エリストラ国では、“双子は見分けることができない程そっくりに産まれてくる”言われていた。
しかし私はその説を覆すと言わんばかりの容姿で産まれてきてしまったのだ。
一般的な茶色の髪と瞳は色を抜いたかのような薄水色。双子の妹と似ても似つかない容姿だったのだ。
両親は、産まれて間もないからだと思っていたようだが、3歳になっても髪の色も瞳の色も変わることがなかった。
問題は髪の色よりも瞳の色だった。この国では瞳の色の濃さが貴族の血筋の濃さであり精霊の力の濃さと言われている。精霊の力と言っても昔と異なって、現在は小さい頃に絵本などで出てくる程度の存在になっているが、昔は人々の卑しい心を癒したり、特殊な力で国の安定を保ったりとなくてはならない存在だった。
時代を重ねると共に精霊の力が弱まり、現在では特に姿どころか力すらも感じられなくなってしまったが・・・。
しかし、貴族階級のものはこの国の礎のために力を貸したと言われる精霊の瞳と同じ色をもって生まれる為、色の濃さは貴族の中でのステータスを化していた。
ところが、わたしの瞳は平民よりもさらに薄い水色。今までいろいろな人に関わってきたが青色という人は居たがここまで薄い色の瞳の持ち主に会うことはなかった。
次第に、周りの貴族から「双子でこんな違いが起きるわけがない。双子と言っているが、本当は精霊とは反対の悪魔の使いなのではないか。」と言われるようになり、両親は「お前の様な容姿の子は、我が一族の人間ではない」と下町の路地に私を捨て置いた。
今、考えるとなぜ私を拾ったレイモンドがルシルの経緯を知っているのか、疑問でしかないが、聞いた当時の私は幼く、そんなことは考えもなかったし、今までは父の作り話だと思っていた。
こうなってみると父の話は本当のことだったのではないかと考えざるを得なかった。
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2021年6月15日に編集しました