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ようやく動くことができたのは、花見の時間も終わり夕方になってからだった。というか、夕方までの記憶がない。確か、桜に会ったんだった。多分彼女は俺のことを知らない。というか、他人の空似だったのかもしれない。でも、あんな綺麗なピンクの瞳なんてそうそういないはずだ。それにしても、この桜の木でかいよな。俺のちょうど横に立っているのは、刻印伝説のあの桜だ。優に5メートルはありそうだ。思わず見上げる。ん?ん?んっ?
この桜光ってないか??そんな、桜ビームっ!みたいなのじゃなくてほんのり、淡ーい感じで光っている。柔らかい、暖かそうな光。なぜ光っているかなんて、わからない。まあおそらくライトアップだな。この桜、県外でも有名だもんな。ライトアップだとわかっても、その光に触れてみたくなる。少し、冷たい風が吹いた。風によって桜がひらひらと舞い落ちてくる。踊りながら落ちてくる花びらでさえ、淡く光っているようにみえる。俺は、桜の花びらを掴もうと手を伸ばした。掴んだ!握っていた手のひらを開くと、そこに花びらは無かった。あれ?絶対つかんだと思ったんだけどな。それから何度も掴もうと試してみたが、一度も開いた手の中に桜の花びらがあったことはなかった。ふと、我に返って辺りを見回すともう誰もいなかった。というよりは、すっかり暗くなっていた。
「ヤベェ、家帰んなきゃ。」
家族に連絡しようと、スマホを取り出した。すると、驚くほどにメッセージが届いていた。なんでだ?俺、そんなに人気者だったっけ?トークルームを開くとその理由が分かった。
「そういや、花見の途中で失踪したんだったわ。」
思わず一人で呟いてしまう。もう今年の学校生活は終わったようなものだ。絶対に頭おかしい判定か、ヤバいやつ判定を受けてしまっている。溜息をつく。今日は不思議な一日だった。朝から、前世の夢を見て、おそらく桜に出会い、刻印伝説の桜がライトアップされる時間まで、記憶がなく立ち尽くしていた、今までの俺の人生の中で一番おかしな日だ。腹も減ったし、家に帰らなければ。俺は、家へ向かって走り出した。しかし、今日一番のおかしな出来事は、この後起こることになる。
「なんだこれ?」
その日の夜、湯船につかっていると、心臓のあたりに星型のあざの様なものがあることを発見した。明らかに今まではなかった。しかも、水色で淡く光っている?触ってみる。でこぼこしているわけではない。そこだけが熱いとかいうわけでもない。心臓の所にあざがつくようなことはしていない。かといって、体には何の異常もない。ま、いっか。異常ないんだし。おそらく、その時の俺は非常に疲れていた。そりゃそうだ。3時間近く突っ立ってたんだから。その日、俺は自分の部屋で別途に倒れこんだ瞬間に眠ってしまった。
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