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短くなってしまい、申し訳ありません。
何の屋台があるのだろうと、周りを見渡していると心臓が跳ねた。ほんとに突然。心臓が今にも突き破って出てきそうだ。誰かに引っ張られているかのように俺の足が動く。ぐっと、引き寄せられる。気づくと走っていた。人の波をかき分けて、汗をかきながら俺はどこかに向かっていた。猛烈なスピードで動かされていた足が急にゆっくりになる。心臓がバクバク鳴っている。走ってきたから、もあるがそれとは別な不思議な感情。ゆっくり、ゆっくりと足が前へ前へと踏み出す。足が前へ踏み出す度に、バクバク鳴っていた心臓が落ち着きを取り戻す。その代わり、8割の脳が異常を知らせる。なぜこんな所にいるのか、と。残りの2割が靄のかかった夢のことを考えている。どうしようもないほどこんがらがって、もうほどけないんじゃないかというぐらいに絡まったコードみたいに、思考がまとまらない。元居たクラスメイトの所に戻ろうとする脳。ここにいろという、体。パンクしそうだ。そんな時、風が吹いた。春を象徴するかのようなさわやかな風。まとまらない思考をすっとほどいてくれるような風。何も解決していないけれど、とりあえず脳と体は喧嘩をすることをやめてくれた。とりあえずここはどこなのか、と前を向く。
「・・・・っ」
俺は目をこれでもかというほど見開く。前にいるこの少女は現実なのだろうか。この黒髪の少女は。風にそよぐサラサラの髪の間から、綺麗なピンクの瞳が見えた。ここに咲いているどの桜よりも鮮やかで優しいピンク。思考が一つにまとまった。俺は、この子を、桜を、探しに来たのだと。ずっと探していたのだと。
「桜・・・っ」
気づくと、名前を呟いていた。その時のおれは、相手が自分と同じ記憶を持っていると勝手に勘違いしていた。前世の記憶なんて持っている人なんてそうそういないだろう。だから、桜が何事もないように俺の方も見ることをせず通り過ぎて行ってしまったことがショックでショックで、そこから動くことができなくなってしまっていた。文字通り、根が生えたかのように立ち尽くしていた。
お読みいただきありがとうございました。