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開戦

その数時間前、まだ夜も明けない時間に、栄進達は会合の間に集まっていた。

臣下達の顔は、一様に怯えている。

中には、激しく憤っている者も居た。

一人が、言った。

「神殿を攻撃するなど…!神への冒涜、あってはならぬことです!あの、先の戦でも神殿だけはどちらの国も手を掛けなかった。それを…!明らかな宣戦布告でありまする!」

こちらがあちらの王をそこに封じていた事実は、どうでも良いらしい。

栄進は、言った。

「どちらにしろ、これは確かにミマサカへの冒涜ぞ。すぐに討って出る。全土から術士、兵士をアレク大河へ向かわせよ。そこから一斉にヤマトへ攻め入るのだ。」

それを聞いた、将軍の一人が跳ねるように立ち上がり、神殿を崩された怒りのためか、真っ赤な顔で言った。

「は!早急に!国民にもこの事実を告示せねば!」

告示などしなくても、神殿が崩れた事実は皆、もう知っているだろう。

夜中にも関わらず、多くの人が神殿前へと詰め掛けていた。今も、恐らく集まっているはずだった。

「良いきっかけになりました。」重臣の一人が、落ち着いた様子で言う。「どうやって皆の士気を高めてあちらへ攻め込むのかと、考えあぐねておりましたから。神への冒涜は、何よりの理由になりましょう。我が国の国民は、皆信仰に厚い。政策に間違いはありませんでした。」

基明が、額から脂汗を滲ませながら言った。

「ですが、陛下だけはどちらかに潜まれるべきです。」栄進が眉を寄せると、基明は続けた。「あやつらは飛べる。真っ先に陛下を狙って参りましょう。そうなれば、いくら兵士が頑張ってももはや勝ち目はない。陛下が生きておられれば、いくらでもこちらは戦えるのですから。」

それには、他の臣下も頷いた。

「そうです、基明の言う通りだ。あちらは陛下を目指して来るのでしょう。居なければ立ち往生するはず。その隙を突く事も出来るかもしれませぬ。封じの術は、皆扱えるのです。片っ端から封じて、後で殺せば良い。陛下、陛下はメグミを密かに離れて逃れてください。それが、皆のためなのです。」

栄進は、厳しい顔をしながら臣下達を見た。

「王が居らぬで皆の士気は上がるのか。あちらに攻め入るのに?」

基明が、首を振った。

「そうではないのです、陛下。王が生きておられねば、皆の士気が下がるのです。今は、なるべく遠くへ、あれらが居るとも思えない場所へと逃げるのが一番です。そうでなければ、この土地はヤマトとなってしまう。ミマサカではなくなるのです。」

栄進は、基明を見た。

「王が不在であれば、王城を占拠されて国を乗っ取られてしまうのではないのか。ここから離れることなど出来ぬ。国を捨てろと申すか。」

「それでもでございます。」重臣の一人が、言った。「この国がここに生まれたその時から、王であられたお血筋の末は、栄進様お一人なのです。ここで、栄進様がお命を落とされてしまっては、その大切なお血筋が消えてしまうのです。あなた様さえ生きておられたなら、我らそれを希望に、もし占領されたとしても、蜂起の時を力を蓄えて待つことが出来まする。あなた様を失ってしもうては、ミマサカという国そのものが消えてなくなってしまうのです。」

栄進は、重臣からの言葉を聞いて、躊躇いながら基明を見た。基明は、頷く。

「術士と兵士をお付けいたします。ここは我らに任せて、どうかお逃げください。もしヤマトに押し負けても、栄進様はお若いのです。龍雅王も、いつかは亡くなりまする。この国のために、お逃げください。」

栄進は、目の前の重臣を見た。

高成(たかなり)、主の息子の良高(よしたか)を連れて参る。」と、基明を見た。「主もだ、基明。」

しかし、基明は首を振った。

「今の我では足手まといになりまする。この傷は、外科医が居らねば無理だと陛下が先ほどおっしゃっておったのではありませんか。私はこのまま、こちらで城を守って参ります。」

栄進は、それでも首を振った。

「主を連れて参る。ディンダシェリアへ一旦逃げる。良高に、随時連絡させるゆえ。ディンダシェリアに入ったら、通信が出来ぬようになろうが、必ず何とかして連絡を入れよう。それまで、持ちこたえるのだぞ、高成。」

高成は、頭を下げた。

「はい。必ずや。陛下こそ、必ずや生き延びて、我らの国を取り返し、この地を統治なさいますように。」

恐らくはこれで今生の別れとなる。

栄進にも、高成にも分かっていた。

コリンと龍雅が居るヤマトに、今のミマサカの力で対抗出来るはずはない。

全ては、判断を誤った自分のせいなのだ。

良高は、父の高成を見た。

「では父上、私は陛下をお守りし、必ずやまた、こちらへ戻ります。父上にも、ご武運を。」

高成は、頷いた。

「父は大丈夫だ。主は陛下とも歳が近く、長くお仕え出来るだろう。頼んだぞ。」

良高は頷き、足を引きずる基明を見た。

「基明殿、まずは傷口を縛りましょう。固く布を巻いておけば、感染も防げるはず。手早く準備をして、車でディンダシェリアを目指しましょう。」

基明は、頷く。

「すまぬ、足手まといであるのに。ここに残って術を放つぐらいは出来ように。」

栄進は、首を振った。

「共に参るのだ。あちらでなら治療出来る。さあ、行くぞ。」

そうして、臣下達に頭を下げられて見送られながら断腸の思いでそこを出て、栄進と基明、良高は秘かに車に乗ってメグミの王城を後にした。

兵士達は、それを確認した将軍達によって命じられ、神殿を襲撃された怒りと共に、夜明けを待たずにアレク大河を渡ってヤマトへと攻め入って行った。


ヤマトの王城では、戻った龍雅に臣下達が諸手を上げて喜び、出迎えていた。

しかし、龍雅は難しい顔をしながら部屋へと向かい、居間の椅子へとどっかりと腰を下ろした。

公紀が、その前に膝をついた。

「陛下、ご無事で何よりでございます。コリン様が参られるとお聞きした時にはどうなることかと思いましたが、やはりお任せして良かった。」

しかし、コンラートは首を振った。

「別に僕が助け出したんしゃないよ。もう少しでヤバかったんだけど、シャルディークが来たから。」と、隣に立つ、シャデルを見た。「アーシャンテンダ大陸のサラデーナの王だよ。」

公紀は、シャデルに深々と頭を下げた。

「この度は我が王のためにご足労頂きまして誠にありがとうございます、シャルディーク陛下。」

しかし、シャデルも首を振った。

「王としての我はシャデルと申す。これらはかなり古い友であるから我をシャルディークと呼ぶが…」と、ショーンと顔を見合わせた。「…そうであるな、シャルディークで良い。シャデルとしての我は、主らに手を貸せぬ。国としてヤマトに肩入れすることは出来ぬからだ。ただ、こちらの王が理不尽に捕らえられて戦が起こりそうだと聞いて、阻止するために参っただけなのだ。後はサディアスが何とかしよう。」

龍雅は、公紀を見た。

「公紀、軍に国境の警備を強化せよと伝えよ。恐らく、栄進はこちらへ攻めるより他、己の身を守る方法がないゆえ攻め込んで来るだろう。それに、我らはあちらにこちらを攻める口実を与えてしもうた…神殿の地下に封じられていたゆえ、神殿を崩して逃げ出したのだ。ミマサカの民は、何が起こっておるのか知らぬから、ヤマトが神殿を攻撃したのだと思うだろう。あちらは信仰に厚い。まずいことになりそうよ。」

公紀は、何がなんだか分からないようだったが、慌てて頭を下げた。

「は!では早急にそのように!」

そうして、転がるように出て行った。

シャデルは、眉を寄せて龍雅を見た。

「…やはりあちらは攻めて参るか。」

龍雅は、頷く。

「それしか栄進を守る方法がないからの。これまでのミマサカなら、ヤマトに栄進だけでも差し出して許しを乞おうとしたかもしれぬが、神殿を攻撃されたとなれば神への冒涜と一気にヤマトに対して反感を持とう。あちらの民を殺さぬためとはいえ…崩して逃げたのは、まずかったやもしれぬ。あの時は、まだ頭が完全に働いておらぬで、誰も殺さずに逃げることしか考えておらなんだ。だが、戻る道すがら思ったのだ。あれらを押し退けてでも出れば良かったかと。」

コンラートが、ブスッとした顔で言った。

「出口から出る選択をしてたら、僕なら殺してたよ?押し退けるなんて無理じゃないか。こっちが怪我をするんだからね。僕が殺さない方法を選んだ結果を見たでしょ?シャルディークが来てくれてなかったら、今頃仲良く並んで封じられてたんだよ。僕はその後殺されてたかもしれない。アレクサンドルの封印がなかったはずだからさ。何もかも良いようになんか、土台無理な話なんだよ。」

ショーンも、頷いた。

「あの場合、あれしかなかったんじゃないですか。リュウガ陛下、ここは最低限の犠牲で済むように、二十年前と同じく陛下が追い返す方向で行くしかないのでは。」

シャデルが、眉を寄せてショーンを見た。

「その戦の事は聞いたが、かなりの数の民が一瞬で犠牲になったと聞く。最低限ではないぞ。」

龍雅は、暗い顔をして頷いた。

「その通りよ。あの時は、殺すつもりなどなかったが、まだ若かったゆえ、力の加減が分からなかった。結果、多くの民を殲滅してしもうた…なので我は、せめて父を亡くした栄進の世話をして、あちらの国の立て直しを図ろうと…。」

龍雅は、黙り込んだ。

恐らく、龍雅にとって多くの民を消し去った事は、重く心にのし掛かっているのだろう。そのトラウマから、栄進を世話して、戦が起こらぬように、平和に過ごせるようにと尽力してきたように見えた。

栄進が、今も龍雅を恨んでいるなど、思ってもみなかったのだ。

もしかしたらと思った事はあったかも知れないが、大量虐殺の記憶から逃れるために、考えないようにしていたのかもしれない。

しかし、コンラートは言った。

「あっちから攻めて来たんだ。サディアスは何も悪くないよ。でも、今回もどうしても戦いたくないなら、エイシンだけを連れて来たらいいじゃないか。あいつを殺してそれで終わり、たった一人の犠牲で済むよ。」

シャデルとショーンも、顔を見合わせた。

ショーンが、言った。

「…確かにそうだと思います、陛下。」龍雅が顔を上げると、ショーンは続けた。「エイシンを断罪することで戦は終わる。このままでは、民達は殺し合う事になるのです。たった一人の王を処刑すれば、それでこちらも許す事が出来るでしょう。王城へ行って、エイシンだけを捕らえて参った方がいい。」

龍雅は、悩んだ。栄進を連れて来て、そして処刑などして自分はそれで良いのだろうか。もっと他に道はないのか…。

「…栄進は、連れて参る。」龍雅は、言った。「だが、話し合うためぞ。あれの言い分も聞きたい。」

コンラートが、立ち上がって言った。

「まだそんなことを言ってるの?!あのね、あいつは自分の心を隠してしまうんだよ!これまで騙されて来たのに、まだ信じるつもり?!封じられたんだよ?!それで和解したって、あっちの方が若いんだから、またサディアスが年老いた時に攻めて来るぞ!僕はいつまでもヤマトには居ないからね!」

シャデルは、黙っている。

ショーンは、重苦しい空気の中、言った。

「…とにかく、まずはエイシンをこっちに連れて来ることからでしょう。コンラートの意見は分かる。オレもその通りだと思う。だが、リュウガ陛下はそうじゃないんだろう。こっちの話し合いは置いといて、とにかく戦を止めなきゃならない。エイシンを連れて来よう。」

シャデルが、ショーンを見た。

「我らは共には行けぬ。」ショーンが驚いた顔をすると、シャデルは続けた。「分からぬか。これは内政干渉ぞ。元々はサディアスを助け出すためにここへ来た。これ以上は、手を出せぬ。」

ショーンは首を振った。

「ですが陛下、あちらの城は…、」

「良い。」龍雅が、それを止めた。「シャルディークの言う通りぞ。シャルディークはサラデーナの国王であるし、主はライアディータの国民であろう。両国を巻き込む事になる。ここは我と、コンラートで行く。コンラートは、我の従弟ということになっておるから。」

シャデルは、片方の眉を上げた。

「コンラートは、こちらで生まれたのではないのか。」

コンラートは、首を振った。

「便宜上そうしてるだけ。僕は生きながら天に昇ってたから、そのまま降りて来たんだよ。誰からも生まれてないし、強いて言うなら本当はサラデーナ国民だ。そこで生まれたからね。コリンって名前も、サディアスが適当につけただけだよ。デクスを連れて、最近ここに来ただけさ。」

ショーンは、そうだったのか、と思った。コンラートは、ショーンから自分の本心を隠していたのだ。確かにそれぐらい、コンラートならやってのけるだろう。力は自分よりずっと上なのだ。

「…ならば、我は国へ戻る。」シャデルは、言った。「こちらの事は見ている。とはいえ、距離があるゆえ何かがあってから来るには遠い。しかし、サディアスなら己でなんとかするだろう。」

龍雅は、険しい顔で頷いた。

「世話を掛けたな、シャルディーク。我は己の責務は己で果たすつもりよ。」

シャデルが頷いて、後ろ髪を引かれているショーンを促して其処を出て行こうとすると、公紀が転がるように入って来た。

「陛下!」

龍雅は、明けて来る空を背に公紀を見下ろした。

「どうした?」

公紀は、必死に叫んだ。

「み、み、ミマサカ軍が!河を渡って、一斉にこちらへ進軍して参ります!それこそ一斉に、対岸からヤマトへ上陸しつつあると…!」

龍雅は、弾かれたように立ち上がった。

「参る!」

…遅かったか。

シャデルも、ショーンも思った。

戦は始まってしまったのだ。

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