城の地下牢
四人は、イライアスに連れられて地下牢へと歩いた。
途中、すれ違った兵士に同情したような目を向けられたが、四人は気にしていなかった。四人の方から見ても、兵士達は愚かな王に従うしかない哀れな人達に見えていたからだ。
そのまま地下牢の入り口まで歩いて、そこで見張りの兵士達にまた、同情の視線を向けられながら、その前を通り過ぎ、地下牢への階段を降りて行った。
牢の前まで来て、イライアスは言った。
「ここへ。ここなら中と外で話していてもおかしくはない。ただ、聞かれたらまずいので、小声で話せ。」
コンラートは答えた。
「別に気配で分かるし平気だよ。今は声の届く距離には誰も居ない。」と、イライアスを見つめた。「それで、リュウガの様子は?」
イライアスは、息をついた。
「ショーンが言うには、アレクサンドル様の術の下、オレ達術士が放った封印の術が、どうやら皆の力を合わせた状態ではなく、一人一人が掛けたような状態でかかって龍雅王をじわじわ締め付けて行っている状態らしい。もって二週間。つまり、コリンが気取った弱々しくなって来ている、というのはあっているということになる。」
コンラートは、眉を寄せた。確かに封印の術はそんなに何重にも掛けるものではないのだ。ということは、早くその術を解かなければまずいことになる。
「…術を引き取る形で中の封印だけ解く事は?」
イライアスは、頷く。
「やってみた。だが、オレの分は引き取れても、他の術士達の分は掛けた本人でなければ引き取れない。本人以外がやるとなると、アレクサンドル様の封印を破り、その上で中の封印を破るしか方法はない。他の術士達は、今ミマサカ中に散らばって空の術を掛けている。急に皆を集めるのは無理だし、王の命令でもなければそもそも勝手に術は解けないのだ。」
コンラートは、厳しい顔でイライアスを睨みながら、言った。
「…僕があんなことを言ったから、多分リュウガが死んだら大変だって今頃エイシンが命じてる可能性はあるけど、間に合わないかもね。二週間なんて言ってるけど、それは命を確かに落とすまでの時間だ。もしかしたらもっと早く死ぬかもしれない。現に、今だってリュウガの気配は小さくなりつつあるんだ。天へ昇ってしまったら、手遅れだ。」
そうなったら、またサディアスが転生してくるまで待たなきゃならない。
コンラートは、眉を寄せた。転生して育ってくるまで、王として縛られてヤマトを守るなんて真っ平だ。
イライアスは、言った。
「お前の力はどのぐらいだ?アレクサンドルの封印が解けるか?」
コンラートは、顔をしかめた。
「そうだね、ギリギリかな。僕はアレクサンドルより力はあるけど、封じの術となると強力だから、破るのにかなりの力が要るんだよ。封印というのは、個人個人の掛け方があって、それに合った解く術を使わないと簡単には解けない。僕はアレクサンドルの封印を解く術を知らないからね。それがあれば、簡単なんだけど。」
イライアスは、はあとため息をついた。
「解く術までは教えてもらえてないのだ。なので、各々術を引き取るしかない。アレクサンドルはヤマトに居るんじゃないのか?ここへ呼ぶわけにはいかないのか。」
コンラートは、首を振った。
「アレクサンドルはヤマトに今居ないよ。とにかく、僕でそれが解けるのかやってみないと分からない。ここから神殿の地下へ行けるの?」
イライアスは、頷いた。
「オレ達が使う抜け道がある。だが、危ないぞ。確かに術士はミマサカ中に散らばっているが、神殿にはまだ術士が多く残っている。龍雅王の回りには特にな。」
コンラートは、鋭い目をイライアスに向けた。
「全部殺せば問題ないよ。大丈夫、声を上げる暇もないからさ。」
イライアスは、慌てて言った。
「待て、中には龍雅王を封じた奴らも居るんだぞ。死んだら術を引き取れないじゃないか。」
コンラートは、眉を寄せた。
「別に僕がアレクサンドルの術を破れさえしたら、そいつらの術なんか簡単に破れるよ。」
イライアスは、それでも食い下がった。
「こいつらはどうするんだ。お前が術に長けてるのは分かったが、この三人はそうじゃないだろう。皆殺しにして、どうやってその後龍雅王とこいつらを連れて逃げるつもりだ。無理だ。」
コンラートは、イライラとイライアスを見た。
「あのさ、手伝う気はあるの?そうだね、こいつらはここに置いて行く。おバカになったふりをしてたら命までは取られないんだからさ。僕はリュウガを連れてヤマトへ戻らなきゃならないんだ。」
イライアスは、首を振った。
「廃人になったと知れたら面倒だから、栄進陛下はこいつらを殺すかもしれないぞ!お前、どうしたんだよ。そんな奴じゃないと思っていたのに。友達が大事なんじゃないのか。」
コンラートは、じっとイライアスを睨み付けていた。ライナンも誠二も美琴も、どうしたら良いのか分からずに黙ってその様子を見ている。
コンラートは、しばらく黙ってから、言った。
「…分かった。じゃあ、君がそいつらを逃がして。ついでに君も逃げるといいよ。ヤマトには行けないだろうから、今は警備が薄いディンダシェリアへ。あっちに行けば、シャデル王が何とかしてくれると思うよ。ショーンと顔見知りなんだし。」
イライアスは、目を丸くした。
「え、それで、お前はどうする?」
コンラートは、ふんと鼻を鳴らした。
「君の姿を借りるさ。」目をますます見開くイライアスの前で、コンラートは見る間に黒髪でとび色の瞳の、イライアスの姿へと変化して行った。「ついでに記憶ももらうね。」
愕然としているイライアスの頭を、イライアスの姿になったコンラートは片手でガッツリ掴んだ。
…ああ、あれか。
誠二が思いながら同情した面持ちで見ている前で、イライアスは驚愕の表情のまま、膝をついた。コンラートは、手を離して頷いた。
「…イライアス。孤児か。一般人にしては、力があるよね。君もそろそろ循環に入らずに転生できるクチかなあ。」
イライアスは、ゼイゼイと肩で息をしながら、言った。
「お前…シエラじゃないな。チラと見えたぞ。お前はコリンか。」
コンラートは、クックと笑った。
「そう、術に掛かりながら僕を探るなんてすごいじゃないか。でも、外れ。僕はコンラートだよ。コリンじゃない。」と、誠二達を振り返った。「僕はサディアスを助けに行く。君たちはほとぼり冷めるまでディンダシェリアに居て。多分、今頃シエラもあっちに着いてる頃だ。高見の見物をしていたらいいよ。」
誠二は、心配げにコンラートを見た。
「一人で大丈夫か?オレ達は何の力にもなれないが、イライアスなら一緒に行けばそれなりに助けになるのに。」
自分達を放って行こうとしたコンラートを、気遣う視線にコンラートは驚いた。自分達だって、命が危ないのに。
コンラートは、フッと笑った。
「…誰に言ってるの?平気だよ。僕は封じられたりしない。来ると分かってたら避けられるからね。サディアスみたいに甘くないし、歯向かう奴は殺す。心配しないでいいよ。君たちは自分の事を考えたらいいさ。とにかく、イライアスと一緒に行って。」
そうして、今イライアスからもらった記憶を頼りに、コンラートはイライアスの姿でそこを出て行こうとした。
「待て。」イライアスはまだ膝を付いたまま言う。コンラートは足を止めた。「服を変えよう。オレはそんな服は着ない。バレるぞ。」
コンラートは振り返ってニッと笑うと、上着を脱いでイライアスに放って寄越した。
「早く。ロープだけでいい。」
そしてイライアスからローブを受けとると、それを身にまとって、コンラートはそこを出て行った。




