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シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者: 環
二つの国の対立
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メグミの港

河の国境を越えると、軍の船が両脇を挟むようにして寄ってきて進み、船は誘導されてメグミ港へと到着した。

誰が見てもシエラなコンラートは、舵から手を離して術を止め、船は動力を失って停止する。

するとわらわらとミマサカの兵士達が乗り込んで来て、船を係留しようとロープを掛けて作業を開始した。

他の兵士がやって来て、四人を見回した。

「よし。写真と同じ顔だな。お前達には、まず城へ行って栄進陛下にお会いせねばならない。あちらでの話や、こちらを出ることになった事の顛末をお話せよとのことだ。ついて来い。」

四人は、頷く。

コンラートにもの問いたげな視線を向けた誠二だったが、鋭く睨まれて何も口に出さなかった。

ここは、黙って従うのがいいようだ。

なので四人は、そのいくらか地位のありそうな兵士について、船を降りてミマサカに上陸した。

コンラートは、龍雅の気配を近くに感じて落ち着かなかった。

恐らくは、あの神殿の中…それも、かなり地下に封じられているようだ。

龍雅の気配は、やはり弱まりつつあった。

いつも感じていたこれ見よがしに強い気が、今は波動も低く落ち込んで来ているようだ。

どうも、封印がおかしなことになっているように思えた。


そのまま、兵士達に挟まれる形で道を歩いていると、人だかりが出来て来ていた。

ヤマトから来た船に乗っていたということで、噂になり腕輪の通信で広まりでもしたのだろう。

皆に注目されるのは嫌いだったが、今はそんなことは言っていられない。

コンラートが仕方なくその視線に晒されていると、聞き慣れない声が叫んだ。

「シエラ!」コンラートは、ハッとした。そうだ、自分はシエラなのだ。「シエラ!待って、どこへ連れて行くの?!」

コンラートが見ると、それは誠二の記憶にもある、観測会で会ったジェンナだった。

「ジェンナ!」

コンラートはシエラならそうしただろう素振りでそちらへ走ろうとした。しかし、兵士がそれを掴んで止める。

「こら!戻れ、城へ行くんだ!」

コンラートは、兵士に言った。

「妹なんです!話をさせてください!」

兵士が困った顔をする。

しかし、先頭を歩いている、地位のありそうな兵士が言った。

「それを捨ててヤマトへ行っていたのだろう。戻れ。陛下にお目通りするのだ。」

言われて、コンラートの腕を掴んでいた兵士が、強引にシエラを押し戻した。

コンラートは、叫んだ。

「ジェンナ!大丈夫だから!すぐ帰るって母さん達にも言っといて!」

「シエラ…!」

人混みの中で、ジェンナの姿が小さくなって行く。

コンラートは、巧くやったかな、と内心思いながら、わざと暗い顔を作って、下を向いて城へと歩いた。

誠二は、それがシエラにしか見えなくて、目をこすった。

コンラート…オレの記憶を一瞬見ただけなのに。

完璧にシエラになりきるのは、長年側に居た自分でも無理だ。

美琴達も、顔を見合わせている。恐らく同じ感想なのだろう。

そして、四人は兵士に囲まれたまま、王城の門の中へと入って行った。


王城の中では、思ったより術士の姿がなかった。

誠二が知っている、イライアスの姿を見付けて、叫んだ。

「…イライアス!」

イライアスは、険しい顔のまま、言った。

「誠二。ヤマトへ行くなど無謀な事を。シエラもだ。残っていれば未来は約束されていただろうに。」

コンラートは言った。

「ショーン先生は?オレ、ショーン先生に話したい事があるんだ。」

イライアスは、首を振った。

「こっちが緊急事態なんで、ディンダシェリアのもの達は皆あちらへ帰ったんだ。とにかく、陛下の前へ。オレが付き添う事になっている。」

…ふーん、お前が自白の術を掛けるんだね。

コンラートは、内心思ったが、何も言わずに、代わりに戸惑った顔をした。

「イライアスが一緒なら、心強いけど…。」

シエラならこう言っただろう。何しろ、頭がお花畑だから。

コンラートの考えにも気付かず、イライアスはふんと微笑した。

「…相変わらず危機感がないな、お前は。」

だよね。僕もそう思う。

コンラートは、内心そう思いながら、イライアスと、地位のありそうな兵士と共に、城の階段を登った。


王の居間らしき場所まで来て、地位のありそうな兵士が言った。

「陛下。基明です。四人を連れて参りました。」

中から、若い男の声が答えた。

「入れ。」

扉を開くと、やはりそこは王の居間だった。

前回は龍雅と共に来たそこで、コンラートは栄進を睨んだ。お前がサディアスを封じたのか、ここで。

コンラートには、その部屋に残る封印の術の波動が読み取れたのだ。

それは僅かなものだったが、術に長けた者でも力があるものなら、どんな術が使われた事がある場所なのか、気取る事が出来る。

間違いなく、龍雅はここで封じられたのだ。

栄進は、じっと四人を見つめて、言った。

「戻ったか。本来なら、勝手に抜け出して敵国へ渡った者が帰るのを許す事などないのだぞ。それを、特別に許したのだ。お前達には、あちらの様子を話す義務がある。」

コンラートは、わざと戸惑ったふりをして答えた。

「お話って、何をお話したらいいんでしょうか。オレ達は、王城でも客間に居て、出るのは食事の時と、庭を散歩する時ぐらいだったんですけど…。」

基明という、ここへ連れて来た兵士が言う。

「コリンという、王代理と食事を共にしたりしていたのだろう。あれから何か聞いていないか。」

…そうか、セイジ達を操って聞いてたんだもんね。

コンラートは思って、答えた。

「はい。でも、あんまり重要な事はおっしゃいませんし。でも、そういえばミマサカが攻めて来てくれたら、って言ってたのは聞きました。コリン様はとても力を持っていて、だからこそ龍雅王も跡目にって思っていたんだとか。思い通りになったとか…。」

ライナン達は、ハラハラとした顔でそれを聞いている。

何しろ、言ってはいけないことなのではと思える事柄だからだ。

それでも、これはもう、誠二達が術にかかっているのを気取ってわざと渡した情報だった。

誠二達は、術にかかっていた張本人なので、それを知らないだけなのだ。

栄進は、見る見る顔を赤くした。そして、バンと音を立ててひじ掛けを叩いて、怒鳴るように言った。

「そんなことは知っている!その後ぞ!何か言うておったのではないのか!」

ライナン達が、身を縮めているのが分かった。

コンラートは、わざと怯えたふりをして言った。

「その後って…特に何も。オレ達は、それから、一緒に食事をすることもなくなってしまって。」

栄進は、ブンブンと首を振った。

「何かあるはずぞ!そうでなければお前達を戻した意味などない!」

まるで、駄々っ子のようだ。

コンラートは、そんな栄進を見て心の中で顔をしかめた。何やら、常の自分の姿を見ているようだ。もしかしたら、他から見たら自分もこんな風に見えているのかもしれない。

そう思うと、良い気はしなかった。

「そんな事、オレ達には国同士の事なんて分からないんですから、何か重要かなんてわかるはずないじゃないですか!」

すると、栄進はイライラとイライアスを見た。

「イライアス!こいつらの頭の中を、そっくり話させろ!そのうちで、重要なものだけ知らせよ!」

イライアスは、無表情のまま、頭を下げた。コンラートには、イライアスがそれをしたくないと思っているのが手に取るように分かった。

…もしかしたら、こいつは栄進に賛同してはいないのか?

コンラートは思ったが、基明が横から言った。

「では、こちらへ。私も立ち合う。」

イライアスは頷いて、コンラート達を見た。

「さあ、こっちへ。」

重苦しい話し方だ。コンラートは、怯える他の美琴、誠二、ライナンに頷き掛けて、そうして基明という男について、その部屋を後にしたのだった。


今度は階段を降りて、すぐのこじんまりとした部屋だった。

テーブルも無く、ただ椅子が数脚壁に並べて置いてあるだけで、どうやら使っていない部屋のようだ。

カーテンも閉じたままで、かび臭いそこへと入って行くと、基明という男が腕を組んで言った。

「どうする?手分けするか。オレがこっちの二人で、お前がそっちの二人。」

イライアスは、首を振った。

「一人一人見ないと、こちらが混乱するぞ。それとも基明殿は同時に理解出来るのか。」

言われて、基明は顔をしかめる。見た所、この男も術士のようだったが、イライアスほど強い力を持ってはいないようだった。だが、歳から見ても基明の方が上の立場のようで、こういう複雑な事になるのだろう。

「…だったら、お前がやれば良いだろう。オレは立ち合うだけにする。聞いてやるから、全部いっぺんにかけてみろ。さ、やれ。」

ライナン達は、コンラートにどうしたら良いかと縋るような目を向けて来る。

コンラートは、念を絞って放った。

『苦しむふりをして。実際は全然苦しくないけど、ボケッとした顔をして、聞かれた事には淡々と答えるんだ。もちろん、言っちゃいけない事は知らないで通すんだよ。』

三人は、目を丸くした。いきなり頭の中に声がしたので、驚いたのだろう。

「…では、そこへ座れ。」

コンラートは、戸惑った顔をした。

「え、ここへ?」

すると、基明が近付いて来て乱暴に皆の肩を押して床へと座らせる。

「ここへだ!ほら、座れ!」

…八つ当たるなよ。

コンラートは思ったが、そのままそこへ座り込んだ。

イライアスが、複雑は顔をしながら、杖を上げた。杖を使う時点で、コンラートはこの男が、いくら力が強いからと、他の術士とそう変わらない、と感じた。

そして、術が飛んで来る間合いを図って、自分も密かに術を放った。

杖から出た光は四人を包んだが、特に影響は感じない。だが、ここで平気なふりをしてしまうと、術が効いていない事がバレてしまうので、コンラートは頭を抱えた。

「あああああ!」

他の三人は、それを見て急いで同じように頭を抱え込んでうずくまった。

恐らく何でもないのに、どう反応したら良いのか分からなかったのだろう。

コンラートは、この術に掛かった者達が、どんな風にどれほど苦しむのか、天から見ていて知っていた。ウラノスは、あの術は人が作った最悪の術だと言ってそれを見降ろしていたものだった。天の存在は、そんなものを撥ね退ける力をウラノスからもらっているので、天の記憶が無かったとしても、自動的にその術にはかからない。

なので、これがもしシエラだったとしても、訳が分からない顔をしながら、一人平気でここで立ち尽くしていただろう。

…そろそろかな。

コンラートは、ある程度苦しむ動きをしてから、だらりと四肢を投げ出して床に転がってみせた。

ライナンも美琴も、誠二も同じようにぐったりと、目を半開きにして、口をだらしなく開き、床に転がった。

なかなかに、真に迫った様子だった。

基明が、自分が放った術でもないのに、得意げに進み出た。

「よし。お前達が聞いた、重要そうな事はなんだ。」

誰も、何も口を開かない。

恐らく、皆コンラートが口を開くのを待っているのだろうと思われた。

コンラートは、こんな抽象的な質問には、術下にある者が答えないのを知っていたので、黙っていたのだ。

イライアスが、ぶっきらぼうに言った。

「もっと具体的に問わないと答えない。」

基明は、ムッとした顔をしたが、言った。

「分かっている。」と、言った。「龍雅王をどうするのか、話していたか。」

コンラートが、淡々とした口調を心掛けながら、言った。

「…攻め込むにはリュウガが死ぬ方が好都合だ、とコリンが言っていた。早く封じを解いて殺したら、ミマサカの民を皆殺しにしても誰も文句は言わないのに、と。」

基明は、顔色をサッと変えた。赤い方ではなく、青い方にだ。

「…どういうことだ。コリンは龍雅王を助けたいのではないのか。話し合って龍雅がわざと罠にかかったのだと聞いているぞ。」

コンラートは、焦っている基明の声に内心笑いながら、答えた。

「龍雅王はまだ若い。まだまだ王座に居座るはずだった。死んでくれたら王座はコリンのものだ。龍雅王は、ミマサカを滅ぼそうとも支配下に置こうともしないが、コリンは全てを手にするつもりなのだ。」

イライアスが、基明の後ろから言った。

「…だったら、このまま放って置いたらコリンの思い通りということか。龍雅王は、このままでは死ぬとショーンが叫んでいたからな。だからあちらは、攻め込んで来ないのだ。龍雅王が死んだのを確認してから、全てを一気に滅ぼしにかかるつもりだろう。コリンには、その力があるんだろう?」

コンラートは、淡々と話すのが難しいな、と思いながら答えた。

「コリンは命に刻印を持つ、天の誠の神に選ばれた命なのだと聞いた。ニ、三日あれば、一人で二、三百万ぐらいの人なら消せると言っていた。だが、統治した後の労働力が要るので、まずは城を一気に崩落させてから兵士と術士を消して回ると。栄進は皆の前で嬲り殺しにしたいと笑っていた。」

術下でここまで詳しく話すかなーっとコンラートは思っていたが、少しは焦れば良いと思っていたので、わざと脅威になるようなことを言った。

基明は、ブルブルと震えていたが、イライアスが落ち着いた様子で、言った。

「…という事は、龍雅王が死んだらまずいという事だな。すぐにこちらへ攻め込んで来るのだ。だが、コリンはどうやって龍雅王が死んだと分かるんだ?こちらの封じの中なのに。」

基明は、それを聞いて何度も頷いた。

「そうだ!その通りだ。封じの中で死んでいても、誰も分からないだろう!」

しかし、コンラートは答えた。

「コリンは、常にヤマトの王城からこちらを探っている。神殿の地下に封じられていると言っていた。日に日に弱って来ているのを感じるので、恐らく封印がおかしなことになっているのではないか、と。そう待たなくて良いかもしれない、と言っていた。」

この距離を、探る事が出来るのか。

イライアスは、その力に恐れを感じた。恐らく、コリンという王代理は嘘を付いてはいない。大袈裟に言っているだけなら、龍雅が弱って来ている事実まで、知るはずがないからだ。

しかし、基明はもっと怖かったようだ。

「そ…そのような!」と、転がる誠二をいきなり蹴飛ばした。「お前は!何を聞いた?!シエラが言っている事は本当か?!」

誠二は、蹴られてかなり痛かっただろうが、全く表情を変えないのに成功していた。そして、転がった先で、言った。

「…シエラが言う通りだ。コリンは、王になるんだと言っていた。龍雅王には、死んで欲しいと。攻め込んで、栄進王を嬲り殺すために。」

基明は、見る見る顔色を青から土気色にすると、扉の方へと走った。

「…地下牢へ放り込んでおけ!」

イライアスは、そんな基明を無表情に見て、言った。

「親が戻って来たのを知っているのに、どうするつもりだ?もう廃人だぞ。」

基明は、駆け出して行きながら、言った。

「知らぬ!親には犯罪人として裁いているとでも答えておけ!」

そうして、そこを出て行った。

それを見送ってから、イライアスは言った。

「…で?お前はどんな術を使ったんだ、シエラ。」

コンラートは、それを聞いてやはり気取っていたか、と思いながら起き上がった。

イライアスは、そんなコンラートをじっと睨むように見ていた。

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