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観測会2

コンラートについて階段を降りて行く。

ここへ入るのは、四人にとって全く初めての事だった。

いったいどうなっているのかとワクワクしながら、不安も半分、コンラートのトーチに照らされる足元を見ながら降りて行くと、そこには、広い空間が広がっていた。

あちこちに同じようなトーチが立てられてあり、明るいそこには、十人の男女が居て、話しながら待っていた。

コンラートが来たのを感じて振り返った彼らは、コンラートが近付くのを黙って待った。

コンラートは、言った。

「お待たせ。連れて来たよ。」と、四人を振り返った。「新しい仲間だ。シエラと、誠二。それからカイラとジェンナ。」

背の高い男が進み出て、言った。

「オレは大雅(たいが)。同じ学校だよな?見たことがある。」

シエラは、自分に言われているのだと視線で知り、頷いた。

「うん、四年だよね?よろしく。」

相手は、頷く。

「同じ歳なんだぜ。仲良くやろう。オレは魔法に対する考え方が危ないとか言われて、授業は受けられてないんだ。ただ、攻撃魔法が習いたいって希望動機に書いただけなのに。」

シエラは、驚いた。そういえば、大雅をクラスで見ないからだ。

「授業じゃ、攻撃魔法は教えてくれないよ。治癒術ばっかり。」

シエラが答えると、大雅は頷いた。

「知ってる。後から知ったよ。選考基準を知ってるか?」

シエラは、首を振った。

「ううん。何も聞かされてない。」

大雅は、息をついた。

「何でも、杖とか剣を使わなくても術が出せる力がある者、らしいよ。」

シエラは、びっくりして大雅を見つめた。

「え、魔法って杖とか剣を使うの?」

それには、コンラートが答えた。

「ディンダシェリアではみんな杖か剣を使って力を収束させるんだよ。だから誰でも結構術がつかえるんだ。手から直接出せるなんて、滅多に居ない。結構な集中力が要るからね。あの授業に出てるのは、だから始めからそこそこ力のある人達なんだ。君たちは出てるの?」

シエラは、戸惑っている三人を見て、頷く。

「全員出てるよ。」

誠二は、言った。

「でもまともに扱えてるのはシエラとカイラだけ。オレとジェンナは治癒術もまともにかけられない。」

コンラートは、頷いた。

「それでも直接出るんだからすごいよ。なかなか居ないんだよ?」と、皆を見た。「ここに居る子達だって、誰一人手から直接出ないよ。杖か剣を持って来るように言ってあるから、みんな持ってる。」

言われて、全員がポケットから小さくしたそれらを取り出して、大きくして見せた。

誠二は、顔をしかめた。

「知らなかったから、何も持ってない。そもそも家にもない。」

コンラートは、笑った。

「最初はどっちが良いか分からないから、みんなに借りて決めたら良いかって思って何も伝えてないからね。合う方を使えば良いと思うよ。慣れて来たら、その辺の棒でも杖代わりに出来るんだよ。要は力が収束すれば良いわけだからね。ただ、木の棒だと一発で使えなくなる。魔法の勢いで砕けるからね。」

金属が良いのか。

シエラは、心に刻んだ。知らない事ばかりだ。

「じゃあ、始めようか。悪いけど新人達に術の扱いを説明している間、みんなは前回教えた風の魔法でも練習してて。」

言われて、大雅達は頷いて、広い空間の更に奥の方へと移動して行った。

コンラートは、四人に向き直った。

「じゃあ、僕の杖を貸すから、順番に簡単な術からやろうか。注意点は、心を乱さないこと。そのまま術に反映するから波動が乱れてどこに飛ぶか分からないよ。」

どこに飛ぶか分からない…。

それを聞いて、四人が体を固くする。

コンラートは、杖を大きくして、それを誠二に手渡した。

「じゃあ、初歩の炎の術、フォトンを飛ばしてみよう。」と、10メートルほど離れた位置にある、瓦礫を指した。「あそこに向けて、僕が言う通りに唱えてみて。」

誠二は頷いて、言われるままに杖をそちらへ向け、深呼吸してコンラートに続いて術を唱えた。

「フォトン!」

すると、杖の先から炎の玉が3つ連続で飛んで行き、瓦礫に命中してそれを砕いた。

「!!」

誠二は、自分でやったのに呆然とそれを見ている。

コンラートは、手を叩いた。

「すごいすごい!君って結構攻撃向きの力を持ってるね。綺麗に真っ直ぐ飛んだし、玉が大きいよ。最初はピンポン玉ぐらいにしかならない子が多いのに。」

だとしたら、結構な力だ。何しろ、バスケットボールぐらいの大きさがあった。

誠二が顔を赤くして頷くのに、次はシエラに杖を渡した。

シエラが、緊張して杖を握ると、コンラートが言った。

「じゃ、同じ所に。やってみて。」

シエラは、頷いて誠二のやったように、一生懸命叫んだ。

「フォトン!」

すると、大きさはバレーボールくらいだが、物凄い速さでフォトンは5つも、同じ場所に着弾し、そこに穴を開けた。

誠二ほど大きくはならなかった、とシエラが落胆していると、コンラートが言った。

「…君は恐らく、すごい力を持ってる。お手本のような。」

シエラが驚いていると、コンラートは続けた。

「これがフォトンの本来の姿だ。あの大きさ、あの速さ、玉の数。そして同じ場所。一番に威力が出る力加減なんだよ。敵にとって、同じ場所にダメージを受けるのが一番厄介だ。それを瞬時に出せるから、実はフォトンって結構使える術なんだ。でも、慣れないと上手く同じ場所に着弾させられない。ぶれるからね。君の玉は、全く同じ場所にぶれる事なく着弾した。完璧だよ。最初からそれが教えられなくても出来るのは、生まれながらに才能を持ってないと無理だ。君は特別な命なんだよ。」

言われて、シエラは頬を赤くした。才能がある…イライアスにもショーンにも言われた事だった。だが、実感がなかったのだ。

それから、カイラとジェンナも同じように術を放ち、カイラは野球ボールぐらい、ジェンナはピンポン玉くらいの術を放って、それぞれの特性がなんとなく見えた。

コンラートが言うには、カイラは対象が近い方が恐らく力を放てるので剣で前衛向きらしい。ジェンナは戦い向きではないので、後衛向きで杖で仲間を回復するのに向いているということだ。

誠二とシエラは、どこでも守れるマルチな能力を持っていて、練習すればかなりの戦力になるとのことだった。

そうやってしばらく、フォトンと風の術をひとつ、教えてもらって代わる代わる放っていた四人だったが、コンラートが杖をジェンナから受け取って、頷いた。

「今日はこの辺で。みんな上手く出来るじゃないか。練習すればもっと上手くなるよ。筋が良いから。」

言われて、カイラとジェンナが嬉しそうに視線を交わす。

シエラは、言った。

「もっと教えて欲しいな。時間はあるし。」

コンラートは、笑って首を振った。

「あんまり根を詰めても良いことないよ?君は大丈夫だけど、後の三人は体の命の気が減ってきてる。良い機会だから、ひとつ教えておくね。」と、コンラートは指を一本立てた。「まずは、術を扱う人には二種類ある。ひとつは、体の命の気を使って術を放つ人。これは普通はみんなそうで、僕たちの国ではそれを術者っていう。もうひとつ、その土地の命の気を吸い上げて術を放つ人。これは生まれ持つ能力で、努力でなんとかなるわけじゃない。それを、僕たちの国では術士っていう。特別な能力の証さ。」

誠二が、言った。

「こっちでは術を使う人はみんな術士って呼んでるな。」

コンラートは、頷く。

「そうだね。だから最初は戸惑ったよ。でも、考えたらこっちでは術を使える人は限られてるから、特別な能力の持ち主ってことになるからそうなのかなって理解しているよ。あっちでは術が使えるのは当たり前だし、それをたくさん学んで知ってる人はみんな術士なんだ。更に無尽蔵に術が使える人を術士って区別してるんだ。何しろ、体の命の気が失くなったら人は死ぬからね。普通の人は、そんなにガンガン術を放つのは危ないし、そのためにこっちでは規制しているのかもしれないな。」

カイラとジェンナは、身を震わせた。ということは、あまり術を放ち過ぎたら、自分達は死んでしまうのだ。

「…気を付けなきゃ。」

カイラが言うと、コンラートは頷く。

「まだ分からないみたいだけど、今はかなり減ってるよ。勝手に補充するから、時間が経ったら回復するけど、回復術をかけてもらったらすぐだ。」と、シエラを見た。「君は、いくらでも大きな術を放てる体質だよ。地から命の気を吸い上げて使ってるからね。自覚はないみたいだけど、見る人が見たらすぐ分かる。体の気が少しも減らないからね。」

シエラは、だから才能がある、と言われたのだとやっとわかった。自分は、生まれながらの術士なのだ。術さえ覚えたら、イライアスの馬鹿にされる事もなくなる…。

「…オレだけでも教えて欲しい。」シエラは、食い下がった。「早く覚えて、術士に近くならなきゃ。」

コンラートは、眉を寄せた。

「そんなに急がなくても、まだ時間はあるよ。まだ五月だろ?新学期が始まったばっかりなのに、これから一年掛けて学んで行けばいいじゃないか。急いでも良いことないよ。」

ジェンナが、脇から助け船を出した。

「シエラは、ショーン先生に城の術士官学校へ来ないかって誘われたから…焦ってるんです。」

コンラートは、驚いた顔をした。

「え、城の?いきなりかい?」

シエラは、頷く。

「何も学んでいないのに、すごく心配で。一緒に誘われてる、イライアスはもう神殿の術士だし…。」

コンラートは、その綺麗な顔を険しくした。

「…そう。もう、君は見つかってたんだね。」シエラが、なんの事か分からずに居ると、コンラートは続けた。「わかったよ。そういう事情なら仕方ないね。まだ早いかなって思ってたんだけど、今日はみんなで面白い事をしよう。」

「え?」

面白いこと?

訳が分からない四人に構わず、コンラートはあちらで術の練習をする皆に呼び掛けた。

「おーい!集まって!今日は実践しよう!僕がみんなに回復術を掛けるから、こっちへ来て!」

十人が、わらわらと集まって来る。

シエラ達は、顔を見合せて何をするんだろうと首を傾げたのだった。

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