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シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者:
二つの国の対立
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ミタマニシ2

ショーンは、早速部屋に入って上階を窺った。

部屋は二十、端から三つ目にみんな集まっている。

ショーンが気を凝らしてじっと探っていると、どうやらその中に知っている気が混じっていた。

術士の中でも上位に位置する男、元経(もとつね)だ。

元経は神殿の術士から最近城の術士に昇格した男で、ショーンも最初何くれとなく指導した、それは勤勉で優秀な男だった。

その努力が認められて、ショーンがミマサカを離れる前に将軍お抱えの術士になっていた。

…元経に聞けば、恐らくいろいろ分かるな。

ショーンは思った。だが、正面から行って素直に話すとは思えない。

ショーンは、そのまま上階の動きに気を付けながら、じっと夜が更けるのを待った。


端から三つ目の部屋に集まっていた気配が、各部屋へと帰ったのは夜中の零時前だった。

将軍は気を読むと恐らく成政(なりまさ)、それほど重用されていない普通の男だった。

術の腕もそこそこなので、恐らく元経を連れているのだと思われた。

成政には用はない。

ショーンは、迷わず端の部屋に居る、元経の方へと窓から出て飛んだ。

空には相変わらず網の術があるが、目視出来る低空にはない。

地上から術が届く範囲以上に、皆で網を張っているようだった。

そんなギリギリの位置に張っているので、力を消耗するのか頻繁に術士が入れ替わり、皆一生懸命術を放っている。

この中に、その意味を知る者が何人居るのかとショーンは思った。

ただ、王からの命令をこなすのに必死なように見えたのだ。

窓のカーテンの隙間から中を覗くと、元経は寝台に横になり、もう眠っているようだった。

そっと窓を開いて中へと滑り込むと、ショーンは元経を覗き込んだ。

「…誰だ!」

元経は、急に起き上がって声を上げた。

…まあ気取るわな。

しかも、自分の今の姿は髭面の一般人のオヤジだ。そんなオヤジがいきなり入ってきて顔を覗き込んだら誰だって声を上げるだろう。なのでこれは、想定の内だった。

ショーンが手を上げて術を放とうとすると、元経はそれに対して防御の術を放とうと急いで手を上げる。

それもショーンが教えたものだったので、防げるとはショーンは思っていなかった。

だが、元経はショーンが術を放つ前に、行商人の姿のショーンを暗闇の中で凝視して、目を見開いた。

「…ショーン殿?」

ショーンは、チッと舌打ちをした。気を探ったか。

「元経殿?!どうかなさいましたか?!」

その時、扉の向こうから何人かの声がする。

全部丸ごと昏倒させるのかとショーンがうんざりしていると、元経は声を上げた。

「…気のせいであった!騒がせてすまぬ!」

ショーンは、驚いた顔をした。

扉の向こうでは、何やら悪態を付きながら戻って行く数人の気配が、遠ざかって行くのが分かった。

「…どういうつもりでぇ。」

ショーンが言うと、元経は答えた。

「私もお話したかったからです。お戻りになるのを待っておりました。」

ショーンは、怪訝な顔をした。

「別に戻って来た訳じゃねぇ。エイシンの行動ってのがよく分からねぇし、何が起こってるのか確かめに来たんでぇ。」

元経は、頷いた。

「私から自白の術で何かを聞き出そうたなさったのでしょう。私はそんなことをされずとも全て話します。実は、戻って来られても我ら術士はショーン様と会ってはならぬと王から申し渡されていました。我らが、全てを知っているから。」

ショーンは、術を放とうと上げていた手を、降ろした。

「…話を聞こう。」

元経は、頷いた。

「私は、あの日イライアスに呼ばれ、陛下がヤマトに狙われている、と聞かされました。龍雅様が栄進陛下を消し、ミマサカを制圧しようと考えているらしい、と。あちらに逃げた封じられていた男がそそのかしたのだと言われました。俄には信じられませんでした…龍雅様は、そんな男の甘言に惑わされるような王ではない。おかしい、と思ったのです。」

ショーンは、頷く。確かに龍雅がこちらを制圧したいのなら、もっと早くにしていただろう。それこそ、戦の直後なら簡単だったはずなのだ。

元経は続けた。

「おかしいとは思いましたが、ヤマトに潜入させている部下から情報が入ったと。単身で油断させて討つと、城を飛び立ってこちらへ向かっていると言うのです。あの力には敵わぬから、殺すのではなく封じる、とイライアスは言いました。殺さぬのなら、と、私も他の術士達と共に王のお部屋の近くに待機していました。そこへ、情報通りに龍雅様が単身、いらしたのです。」

いくら油断しているといって、制圧しようとしている城へ単身で来るだろうか。

ショーンは、眉を寄せた。友だと思っているからこそ、単身で来たのではないのか。それともそれを、逆手に取ろうとしたのだろうか。

「…で、封じたんだな?」

ショーンが言うと、元経は頷いた。

「はい。ですが龍雅様は、ただデクスという男の引き渡しは待て、とおっしゃっただけでした。これからディンダシェリアへ話に行くと。おかしい、と思いましたが、すぐに命令が下り、もしこれが陰謀なら封印を解こうと考えて、封じました。神殿の地下には、既に龍雅様を封じておく場所が作られてあり、私はそこで知りました。これは、最初から栄進陛下の陰謀だったのだと。」

ショーンは、眉を寄せてそれを聞いていた。栄進は、敵対行動を取っていない龍雅を一方的に封じたのだ。

元経は、下を向いた。

「…隙を見て封じを解こうと思いましたが、見張りの人数は十人。とても全ての術士を説得出来ませんでした。それどころか、陛下は封じを解いた時に身動き出来なくなる事を知っていて、その隙に龍雅様を殺してしまうつもりなのだと他の術士から聞きました。もう遅いのだ、今さら術を解いても殺されるだけだ、と。」

元経の苦悩が、その声ににじみ出ている。

ショーンは、同じような術士はたくさん居たのだろうと思った。こんなことをしたら、戦になるのだ。アレクサンドル信仰の根本は平和。助け合ってお互いを認め、共存繁栄するのが教えの中心にある。

それに、真っ向から反しているのだ。

術士達は、皆神殿の出だ。そうやって教えられて育った者達の苦悩は、計り知れなかった。

「…そのうちに、こんなことは間違っていると言う術士達は、封じている部屋にも入れなくなりました。表の警備に立たされていると、アレクサンドル様が…」元経は、顔を歪めた。「アレクサンドル様が、来られたのです。何でも、栄進陛下は龍雅様を封じさせた後、他の術士にアレクサンドル様まで封じさせようとしたらしいのです。さすがに栄進陛下に忠実な術士でも、神に術を放つなど躊躇って…術は反れて、逃げておられたとか。アレクサンドル様は、何を思ったのか龍雅様の封印をご自分で強化し、空高く昇って行かれました。栄進陛下は激昂されていたそうでしが、術士達にはアレクサンドル様を捕らえるなど動揺で手元が狂ってとても無理なのです。」元経は、息をついた。「やはり神に逆らう行為なのだと知ったその場に居た術士達は、皆こうしてメグミから遠く離れた土地へ送られました。下位の術士達は、何も知りません。皆国を守るのだと、術を放って見張っております。私は、どうしてもこの事実をディンダシェリアのショーン殿に知らせたいと思いましたが、僻地に居てはそれも叶わず…悶々としておりました。」

アレクサンドルは、逃げたのだ。

ショーンは、そう思って聞いていた。元経は、嘘を言ってはいない。全て真実を話している。ならばアレクサンドルも、恐らく何とかしてこれをシャデルに知らせようとしているはず…。

「…ショウタは?知ってるのか。」

元経は、首を振った。

「知りません。ショーン殿の代わりも務めていて学校に缶詰めでしたから。戦になるかもということで、ディンダシェリアから留学生達に帰還の要請があったのですが、その理由すら戦になりそうだから、ではなく、ただデクスが近付いているかも知れないから、に変えられて伝えられておりました。翔太殿は留学生達を取りまとめて、ディンダシェリアからの命令なのでと国を出ようとしていましたが、そこで私もこちらへ異動命令が下っていたので、それからの事は分かりません。」

翔太とは、まだ会っていない。

ショーンは、翔太の事が気になった。

ディンダシェリアのライアディータが自分達の故郷なので、行くとしたらライアディータの王城だ。

ライアディータの王は、アークというライナンの長と、前の王のリーディスの妹、ナディアの息子で今年六十歳になったサイールだった。最近ではその王子のディークが政務を執り行う事が多いが、シャデルから連絡は行っているだろうか。

「…ショウタは何も知らねぇから、戻るかも知れねぇな。無事にミマサカを出たら、こっちとしては戻って欲しくはねぇんだが。巻き込まれたら面倒だからよ。」

元経は、下を向いた。

「はい…。こちらのことで煩わせてしまいまして、申し訳ありません。」

ショーンは、首を振った。

「仕方がねぇよ。巻き込もうとしてるのはエイシンでお前らじゃねぇし。だが、その様子だと封印を解くのは難しそうだな。アレクサンドルの封印は強い。本人でなきゃ解けねぇ。だからこそ、リュウガ王を守るために自分で封じたんだろう。何とかするには、アレクサンドルを探すしかねぇ。まあ、あいつなら何とかしてディンダシェリアまで来るだろうから、あっちで待ってりゃいいんだろうけどよ。」

元経は、顔を上げた。

「こんな術の最中です。空ばかり注視させてるのは、デクスやアレクサンドル様を警戒してのことではありませんか。いくらアレクサンドル様でも、網をくぐって渡るのは不可能です。網より上はかなりの高さまで気取りますし、撃ち落とす事が出来る術なんです。地上は兵士達が見張っていますし…無理ではないかと。」

ショーンは、じっと虚空を見つめて眉を寄せた。

「…いいや、抜け道はある。」と、窓を見た。「オレは、アレクサンドルを探す。お前はここでエイシンの命令に従ってるふりでもして、身を守れ。オレに会ったとは口が裂けても言うなよ。なんか知らんがエイシンのやつ、オレに来い来いあっちへ打診して来てて気味が悪いんでぇ。何をさせるつもりか知らんが、今のを聞いて戻る気にはなれねぇ。オレまで封じられたらさらに面倒なことになる。また連絡に来るから、それまでここでおとなしくしてろ。」

元経は、訴えるように言った。

「そんな!何もせずにこのままこんなところで待つだけしか出来ないなんて。」

ショーンは、首を振った。

「軍の動きぐらいは見えるだろうが。聞きに来るからしっかり頭に入れてまた教えてくれ。中の事は中に居ないと分からねぇんだよ。お前は潜入捜査だ。分かったな。」

元経は、渋々頷いた。

「…はい。では、将軍からさりげなく逐一話は聞いておきます。成政殿なので、どこまで知らされるか分かりませんけど。」

確かに、成政は無能扱いされている将軍だ。

とはいえ、他の将軍達とそれは仲が良く、対人関係には長けていた。

成政なら、自分に知らされなくても他の将軍から聞く事は可能だろう。

何しろ、人と人との繋がりだけで将軍になったと言ってもおかしくはない奴なのだ。

「…よし。お前は成政をうまく言いくるめて自分も状況を把握したいと思わせろ。そしたらあちこちから聞いて来るさ。」

元経は真剣な顔で頷き、そうしてショーンは、また窓から自分の部屋へと帰ると、荷物をまとめて出発の準備をしたのだった。

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