表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者:
二つの国の対立
41/77

タクミ

シエラは、デクスを追ってスピードを出して飛びながら、ヤマトの南の端、タクミに到着していた。

言っていた通りに降りる時には、義朋に合図して着地に備え、義朋をきちんと降ろしてから、自分も着地出来た。

ホッとしたのは義朋も同じようで、ハーネスを外しながらも笑顔が出ていた。

「誠にかなりのスピードで、慣れて来ると爽快でありました。」

シエラは、頷いた。

「慣れるまでは怖いよね。オレも最初はデクスとアレクサンドルに腕を掴んでもらってて、それでも怖かったんだ。もう慣れたけど。」

デクスは、頷いた。

「飛べるのだから主は怖いなどと思わずで良いのにの。落ちても自力で這い上がれるのだし。こやつらは自分では浮くしか出来ぬから、必死になるのは分かるのだが。」

シエラは、少し不貞腐れた顔をした。

「それはそうだけど。」

アーサーが言った。

「あまり高く昇ったら息が出来ぬのではとそちらを案じました。それでなくても呼吸を確保するのが大変で。ゴードンは術を知らぬので寿康と私で術を掛け合ってなんとか。」

デクスは、苦笑した。

「我らは呼吸を確保しようと勝手に体が術を作るゆえそれは無くてな。主らの苦労が分からぬですまぬ。」

シエラは、そうだったのか、とそれを聞いて思った。呼吸が出来ないってどういう事だろうと不思議に思っていたからだ。

そういえば息苦しくなりそうだなと思ったら、勝手に楽になった感じがあった。

きっと、自分でも知らない間に術を使っていたのだろう。

自分の力を自分で知らない現状に、シエラはまずは自分を知らなければ、と強く思った。

全員がハーネスを無事に片付けたのを見て、デクスが言った。

「タクミの街が見えるが、あそこには入らぬ。河を挟んで対岸には今、ミマサカの軍が駐屯してこちらを見張っておるのだ。このままこの草原を抜けて、ミマサカに渡る事を考えようかと思う。」

義朋が言った。

「河の上を渡るのは丸見えになりますので、難しいですね。アレク大河を渡らなければ、誰もミマサカに入れぬのです。」

ゴードンが言う。

「三十メートル地下を走る地下道もあるには有りますが、恐らく兵士が見張っておるでしょう。橋も然り。どう致しましょうか。」

デクスは、息をついた。

「思ったほど簡単にはいかぬようよ。上から見たところ隙のある地上があったゆえ、そこを抜ければと思うておったがそこは地下道があるのでその出入口を見張る事で防いでいるようだ。」と、遠くミマサカの空を見た。「…とはいえ上空も網の術が張られておるし、難しい。」

アーサーが言った。

「そうなると、海しかないのでは。」

デクスは、首を振った。

「船では狙い撃ちにされよう。確かに海の上にはまばらにしか網の術が張られておらぬから…恐らく船から張るからだろうが、かなりリーリンシア寄りを飛ぶ事になるの。一旦リーリンシアへ渡るか。」

義朋は、頷いた。

「それが良いかと。上空をリーリンシアへ渡ってしまえば、あちらは他国なのでミマサカの兵も入る事が出来ません。ただ、リーリンシアの王がどうおっしゃるかですが…。」

デクスは、息をついた。

「リーリンシアと申したらアレクサンドルの方が良かったやもの。過去を聞いたらあれなら面識があるはずぞ。とはいえ、今は使者を遣わせる暇も余裕もない。そもそも使者すら行き着けぬ状況であるからな。仕方ない、出たとこ勝負で参るか。」

シエラは、教室に貼ってあった地図を頭に思い浮かべた。

まだ行った事がない、四十年以上前に出現したあの島に、これから行くのか。しかも、交流がミマサカでさえほとんどないのに。

「リーリンシアは、確か内政が大変なので落ち着くまではディンダシェリアとしか交流しないと宣言している島だね。地理で習った。」

寿康が頷く。

「栄進王も何度か使者を送ったらしいが、王のラファエル様に追い返されて無理だったとか。何でもディンダシェリアを通して欲しいととりつく島もないのだと聞いております。」

デクスは、ため息をついた。

「渡る前に良い情報をくれたものよ。まあしかし、とりあえず渡らせてもらうだけで良いのだから。追い返すというのならすぐにディンダシェリアへ向けて飛べば良いのだ。では、とりあえずタクミに入ってまた、飛び立つ準備をしようぞ。」

そうして、デクス、シエラ、義朋、寿康、アーサー、ゴードンの六人は、目の前のタクミの街の入り口へと向かって歩いたのだった。


挿絵(By みてみん)

タクミの街は、いつもと変わらない様子だったが、港にはいつもより船が多いと寿康が言った。どうやら、ミマサカへ行くはずの船は停泊したままのようだった。

それでも、ヤマト全土から河を伝ってやって来る船や、ここから出て行く船は動いていて、ヤマト自体は普通に回っているようだった。

海が目の前なので、潮の香りがする。

シエラは、海は久しぶりだったので、ウキウキと言った。

「わあ!最近はリゾートにも来てなかったから海は久しぶりだ!」

デクスが苦笑した。

「遊びに来ておるなら良いが、これからこの海を渡らねばならぬのだぞ。まずはミマサカからの網を避けて、ずっと南へ行き、そこから直角に西へと進路を変えてリーリンシアを目指そう。とはいえ、我はリーリンシアには行ったことがないのだがの。主らはどうか?」

デクスが言うと、義朋と寿康、アーサー、ゴードンは顔を見合わせた。

「…我ら、未だ島を見たこともありませぬ。現れたのが四十年前、それから龍信陛下も龍雅陛下もあちらから来ぬなら無理に交流せずとも良いと言って、使者すら遣わさずにおられました。栄進王は何とかして交流しようとしたようですが、しつこいと逆に突き放されたようで。」

デクスは、息をついた。

「誠に面倒なことよ。あちらから見たらミマサカもヤマトも同じだろうて。我らも面倒がられるやも知れぬな。ま、とりあえず島の上を通過させてもらえるだけでも良いのだ。歓迎されぬだろうが、行くしかないの。」

シエラは、途端に暗い顔になった。歓迎されていない…面倒な隣人ぐらいに思われているのに、通り道にさせてくれと頼みに行くのだ。

それでも、ディンダシェリアへ行くには、それしか方法はないように思われた。

「では、またハーネスを。」 デクスが言い、四人は準備を始める。「シエラ?疲れたか。まだ二時間も経っておらぬぞ?大丈夫か。」

シエラは、慌てて首を振った。

「疲れてない、大丈夫だ。ただ、歓迎されてないんだなあって。」

デクスは、答えた。

「国と国の間などそんなものよ。使者というのは敵国にでも命懸けで参るもの。その覚悟を持たねばならぬ。幸い、リーリンシアとは敵同士ではないのだから、まだマシよ。殺されはせぬだろうと思うて行けば良い。ただ、何かあったら主はこちらに構わず逃げるのだ。我は己の身は己で守れる。三人の命も我が責任を持つ。ゆえ、主はヨシトモと己の命を守るために、戦う事は考えずにまず逃げよ。主らだけでも、ディンダシェリアへたどり着くのだぞ。我もそのつもりでおる。分かったの。」

言われて、シエラは義朋を見て顔をしかめた。義朋は、そんなシエラを見返している。

飛んで行くからには、義朋には不利なのだ。何とか義朋を連れて、逃げ延びなければならないのだ。

「…分かった。オレ、頑張って飛ぶよ。」

義朋は、頷いた。

「攻撃は我が放ちますので。飛ぶことに専念して頂いたら良いので。」

シエラは頷いて、義朋からベルトを受け取って腰に巻いた。

これから、ここの誰も行ったことがない土地へ行くのだ。


デクスが先を飛び、シエラはその背を追った。

その下には、三人がまるでブランコにでも乗っているように座って、吊り下げられたベルトを掴んで浮いている。

三人はガッツリとくっついた状態で運ばれていて、三人乗りのリフトに座っているようだった。

その点、義朋は一人なので広々としていたが、回りに何もないのが心もとないようで、こちらもしっかりとベルトを握ってぶら下がっていた。

慎重にスピードを落として、デクスは振り返った。

「ここから西へ行く。もう大陸は遠いし、この高度だと誰にも見咎められぬだろう。」と、指差した。「あれがリーリンシアだな。」

見ると、向こうに島が見えた。

結構な大きさがあり、島と言ってもシエラが想像していたのとはまた違った感じだった。

「…結構大きいな。島って言うからもっと小さいのを予想していたよ。」

義朋が答えた。

「地図上では小さく見えますが、こちらの大陸に照らし合わせると端から端まで結構な距離があるようでした。」

デクスは、そちらへ向けて飛びながら、言った。

「…命の気は豊富。魔法には困るまいな。とにかくはどこかに行かねばならぬのだが、やはり城へ行って挨拶をした方が良いのだろうか。」

寿康が答えた。

「一応の礼儀でありますから。とはいえ、いきなりに城へ飛んで参るのは礼儀に反する恐れがあります。船で行くのと同じように、一度どこかに降りて誰かに城へ伝えてもらう方が良いのでは。」

地理で習ったのは、リーリンシアの王城があるのはシーラーンという山頂にある場所らしかった。

飛べばすぐだが、確かにいきなりそこへ降りるのは礼儀に反するかもしれない。

「ならばとりあえず、陸が見えたらそこへ降りよう。」と、急にスピードを落として止まった。「む!」

シエラも慌てて止まると、下に吊り下げられた者達が前後に大きく振られて必死にベルトに掴まるのが見える。

「何?!なんかある?!」

シエラが叫ぶと、デクスが眉を寄せて言った。

「…魔物の気配。かなりの数。しかも一個一個が大きい。翼竜の類いの気配ぞ。」

シエラが驚いてデクスの睨む方向を見ると、遠く点々と、何かの鳥のような影が近付いて来るのが見えた。

「…あれは、ディンダシェリアの魔物図鑑にあった、グーラでは!」

アーサーが叫ぶ。

シエラは、身を縮めた。グーラ…生物の授業で習ったが、確か集団で狩りをする頭の良い魔物。

しかし、確かディンダシェリアでは人と共存しているのだと…。

「は、話すしかないんじゃ!多分、話は聞いてくれると思うけど!めっちゃ頭が良いって習った!」

寿康が言う。

「ですが面識がないのに!とりあえず海に降りたら…。」

だが、デクスは首を振った。

「気取れぬか。海中にも魔物が居るぞ。かなり大きな個体のやつがな。」

言われて、思わず下を見る。

するとそこには、多くの背びれが見え隠れして、明らかにこちらを窺っているようだった。

「逃げ場はない。」

義朋が、腰から杖を出して、大きく戻した。

それを見て、皆が慌てて同じように武器を出したが、ゴードンの剣は役に立ちそうになかった。

シエラは、まさか魔物に囲まれる事になるとはと、固唾を飲んで近付いて来る影を見つめるしかなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ