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シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者:
二つの国の対立
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メニッツの台座

シャデルは、デンシアの城から一番近い場所、メニッツの台座へと向けて飛んだ。

そこには、湖底にあった台座を引き揚げて作った新しい神殿がある。そこを守っているのはアンバート達で、今は人型をとってウラノスに仕えている。

そこにウラノスが出て来るという事実はシャデルも懸念していたが、しかしウラノスは表立って地上を荒らしたりは絶対にしない。

ウラノスの中のルールは絶対で、地上の事は地上の者が行う、となっていて、ウラノスが直接に手を出して何かをすることは絶対に無かった。

加えて、理不尽な事を吹き込むこともまた無かったので、アンバート達がウラノスに何かをそそのかされると言うような事も、シャデルは懸念していなかった。

ウラノスは、嘘を言う事もあるが、それによって地上がどうにかなるのなら、決して口にはしなかった。

あくまでも、地上の事は地上が決める、がウラノスの信条なのだった。

こうしてウラノスと対抗していても、ウラノスのそういう所を信じている自分に、シャデルは矛盾を感じて顔をしかめた。

信じている神に、なぜに逆らうのかということなのだ。

シャデルが考え込みながらメニッツに到着すると、アンバートの長であるアイテールが人型で寄って来た。

「シャデル王か。珍しいの、ここのところウラノスと行き違いがあったとか申してこなんだのでは無かったか。」と、シャデルの姿をとっくりと見た。「お?そういえば主、体を改めたか。新しいの、まだ若いではないか。そろそろ良い歳のはずなのでは。」

シャデルは、アイテールの言い方に困ったように笑った。思えば、城の臣下達は皆知っているが、メニッツだけは命の気の管理を任せていて別世界のようになっていて、アイテールはここ数十年の動きを知らないのだ。

シャデルは、二十年前にショーンと共に大国主の天へと一度戻っていた。

ウラノスの枷が黒くなりつつあると知った時、老いた自分では地上の乱れを正す事が出来ないと思ったからだ。

それを聞いたクロノスが、ウラノスを案じて自分は間違っていたとウラノスの天へと、こちらが止めるのも聞かずに戻り、それから会ってはいなかった。

クロノスが案じられたが、自分はすぐに地上へ戻らねばならない。

なので、クロノスの事は確かめる事なく地上へと生まれ出た。

時を同じくしてショーンも自分の娘、リリアの子として転生し、リリアとリリアナに育てられて今がある。

リリアナは、あれから変わらず幼女のままだ。

ショーンは、次に死ぬ時はリリアナと共に行こうと思っている、と言っていた。

なので今は、シャデルは若い十八歳の姿だったのだ。

すると、クロノスがミマサカに居るのが分かり、実は先に地上へ降りていた事実を知った。

そして、ラファエルから枷の色があれからすぐに白くなった事実を聞かされ、ウラノスが黒く染まらなかった事を知ったのだった。

シャデルは、言った。

「…いろいろあっての。違う神に頼んで記憶をそのままに戻って来たのだ。ところで、最近はウラノスに会ったか?」

アイテールは、首を振った。

「いいや。ついぞ出て来ぬようになって。年に一度の祭りの時も、台座で呼んでも出ては来ない。ただ、相変わらず日時を申しておいたら、その日は晴れるのだがの。」

やはりウラノスは、思うところがあるのか。

シャデルは思いながら、アイテールと共に歩き出した。

「台座の所へ参りたい。出て来ぬやもしれぬが、聞いてはおろう。我はどうしてもウラノスと和解せねばならぬ。それには、我の話をまず聞いてもらわねばならぬ。」

アイテールは、神妙な顔をした。

「主らの間の事は分からぬが、神と仲違いなど壮大な事よ。話すが良い。」

言われて、シャデルは台座の間へと足を進めた。


大きな真新しい神殿の奥、巨大なウラノスの立像の前に、古い台座は鎮座していた。

シャデルは、その立像を見上げてから、意を決して足元の台座へと登った。

全く何の変化もなかったが、シャデルは話し始めた。

「…我は主に話さねばならぬ。」シャデルは、言った。「長く無礼を働いて来た。思えば我には甘えがあった。主と誰より長く来た自信があったし、多少のことは許されると。だが、地上での平等と不干渉を強く守る主のこと。アレクサンドルの事は許せぬ事であったのやもな。我も、最近になって主があれほどにアレクサンドルを天へ戻そうとした意味が分かって参った気がする。ただ、平等を謳うのにあれの事は不平等だと思うたのだ。あの時点ではの。」と、息をついた。「…しかし、主から見たら絶対的に取り決めている地上での命の平等を、脅かす命は地上へ置いてはおけぬわな。それは分かる。アレクサンドルは、天へ戻っても良いと申しておるのだが、今の状況がの…。ミマサカの王のエイシンは、信仰こそが民を支えておるのだと申すのだ。何でもこちらの信仰と違い、あちらでは姿を現さずでは不具合が出るらしい。なので、内政に口出しを出来ぬし、現にアレクサンドルは生きている。なので、無理に天へと今さら我から申せぬのだ。残りの生をこちらで穏やかに遠くシマネキヅキを見守って過ごさせて、アレクサンドルにはそこそこで天へ昇らせるべきだった。アレクサンドルが居るとエイシンに知らせねば良かったと思うておる。今となっては、シマネキヅキが乱れてしもうたのはデクスのせいではなくアレクサンドルが戻ったせいでは無いかと思えて来ているぐらいぞ。あちらの状況が見えぬから、まだ分からぬのだがの。」

淡々と、自分の胸の内を話していると、自分は誰かに頼られる事ばかりで、こうして対等に話を聞いてもらえる存在に長く会っていない事に気付いた。天に居た時は、お互いに切磋琢磨できる意識の高い命が居たのだが、地上へ降りてしまうと、皆に頼られてそんな相手は居ない。思えばこの台座は、ウラノスが地上へ下した自分の命達の、そんな孤独な戦いを支えるために与えた救済の場所だったのだろう。

シャデルは、今更にそんなことに思い当たって、項垂れた。もっと、穏便なやり方があったかもしれないのに。これほどに長く生きていて、一時の感情に突き動かされて己の正義を信じて疑わなかった。

もう少し、考えれば良かったものよ。

シャデルがそう思って下を向いていると、静かに静まり返った中で、聞き慣れた声がした。

『…愚痴る前に真実を見よ。』シャデルは、ハッとして顔を上げた。すると、そこにはウラノスがシャデルを見下ろして、浮いていた。『我には迷いはない。だが、主らは惑う。主のように長く学んだ命すら感情に飲まれて見誤る。命など、地上にあっては後悔ばかりぞ。何も見えておらぬからな。今の主も同じ。過去の己の考えに凝り固まるでない。我がデクスの何を助けたのかよう見て判断するのだ。地上の乱れを正すが良い。アレクサンドルの事は、それからぞ。』

シャデルは、久しぶりに見たウラノスに何か親に会った感覚になって、感情の波が押し寄せて来るのを感じたが、グッととどまった。今、感情に流されてはならぬと言われたばかりなのに。

「ウラノス、我は…」シャデルは、一度口を閉じて、自分を落ち着かせた。そして、続けた。「すまぬ。あの創造主廃止の前の、主の事を思うたら、またあれを忘れて我らの成長のために誰かに理不尽な何かを仕掛けておるのではないかと、考えてしもうたのだ。だが、後々よう考えたら主は間違っておらぬ。アレクサンドル個人の事を思うと確かに哀れなのだが、しかし天へ戻ってから循環に入る前に話し合っても良かったのだ。」

ウラノスは、息をついた。

『だからアレクサンドルの事は後で良い。今は、安穏としておる場合ではないぞ。我が何某か謀る事は、あの話し合いの時からあり得ぬ。それは信じるが良いぞ。だが、地上と申すのは我が何かせぬでも動くもの。地上には、善良な命ばかりではないからの。このままでは主が危惧した状況になろうとしておる。転生し直しておったのは結果として良かったのだ。こちらの大陸にまで波及して来ぬ間に、あちらの真実を早う知るのだ。今は主しか、どうにか出来る者は居らぬだろう。これ以上我を失望させるでないぞ。』

シャデルは、訴えるように言った。

「真実とは?いったいあちらで何が起こっておるのだ。少しでも教えてはもらえぬのか。」

ウラノスは、首を振った。

『主らしゅうないぞ、シャルディーク。我は地上の者達が起こした事を同じ地上の者に話す事は無い。主が死んで天に居るなら申すがの。だが…』と、縋るような目の、シャデルを見て息をついた。『…ヤマトの事を知るが良い。主はあまりにヤマトの事を知らなさ過ぎたのだ。早急にの。』

シャデルは、何も言えぬと言いながら、助けてくれようとするウラノスに、心からすまなかったと思った。なので、項垂れて言った。

「時を巻き戻したり、本当にすまぬ。我ら、地上でのルールは守らねばと今、思うておる。」

ウラノスは、首を振った。

『時を巻き戻したのは主ではない。その選択をしたのもの。クロノスの事は、もう許したのだ。あれは、誰より若く未熟な命であるしな。それによって起こる弊害を正して更に成長するためにと己から地上へ下りた。主らのようにサッサと記憶を戻せずに四苦八苦しておる。主も、我に許しを乞うと言うのなら、あれによって起こっている現状を正して元の平穏な状況に戻すが良い。今も言うたように、全てはそれからぞ。地上を平穏に戻した後に、また話そう。』

ウラノスは、そう言い終えると、スーッと消えて行った。

シャデルは、そんなウラノスを見送って、決意していた。

地上を平穏にしなければならぬ。デクスの事も知り、そしてアレクサンドルの事も考えねばならぬ。そして何より、ヤマトの事を知らなければ。

シャデルは、行き詰っているような気持になっていたが、目標が出来た気がして、前向きな気持ちになりながらデンシアの城へと戻って行ったのだった。

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