行く先
翌日、ショーンにも相談しておこうと魔法講義室の横の、準備室へと足を向けると、そこにはイライアスと、ショーンがなにやら深刻な顔をしながら向き合って座っていた。
シエラは、邪魔をしたのか、と、バツが悪い気持ちになったが、もう入ってきてしまっているから何も言わずに出ていくわけにも行かず、言った。
「あれ?あ、何かお話し中ですか?じゃあオレ、出直して来ます。」
イライアスは、首だけこちらを向いて、フンと鼻を鳴らした。
「城へ行く話なら無しだぞ?お前じゃ務まらない。」
シエラは、ムッとした。
「確かにオレは術士じゃないよ。だから、神殿の術学校に行くべきなんじゃないかって、相談に来たんじゃないか。」
すると、ショーンはそれにあっさりと頷いた。
「そうだな。いきなり術士官学校は確かにオレも焦り過ぎた。お前もちょっとは身を守る術を習っておかないとって、焦っちまってよ。」
シエラは、あっさり言われてしまうとそれはそれで面白くなかった。
「…ショーン先生は、攻撃魔法が身を守るって知っておられるんですね?治癒魔法だけじゃ無理だって。」
ショーンは、頷く。
「そりゃそうだ。治癒魔法を扱う術士ってのは後方支援であって自分の身を守るのはシールドぐらいしか教えられてねぇ。相手を倒せなきゃそこから出られねぇから、仲間に攻撃魔法で倒してもらうのさ。だが、お前がなんでそれを知ってる?」
シエラは、そこは濁すように言った。
「それは…オレだっていろいろ調べて考えてます。」
イライアスは、言った。
「どちらにしろ今のお前じゃ戦うなんて無理。神殿へ行ってそっちで治癒魔法を教えてもらえばいい。そのうちに、考え方も変わって来るだろうしな。今はお子様過ぎて無理なんだって。自分が怪我をするだけならいいが、回りを殺しちまう。」
シエラは反論したかったが、魔法の扱いもまだ知らなくて、攻撃魔法の危険性もいまいち分からないので何も言えなかった。
「もういいイライアス、分かったっての。」と、ショーンはシエラを見た。「魔法ってのは、能力もだが何より扱う者の心の強さも必要なんでぇ。誰かに頼ろうとしているうちは、まず戦うなんて無理だ。士官学校ってのは軍人を育てるための場所だ。確かにイライアスが言うように、まだお前にゃ無理だ。力の加減によっちゃあ、一発で何百人も死ぬ危険な術もある。そんな時に心がぶれたら一発アウトだからな。オレも、神殿から始める事を進めるよ。」
シエラは、言われて何も言い返せない自分に腹が立った。でも、ライアディータじゃ子供の頃からいろんな術を習うって聞いてるのに。どうしてオレだけはダメなんだよ。
「…術が使える知り合いに話を聞いて決めます。」シエラは、言った。「それで出来そうなら城へ行きたいって言うかもです!」
「え?お前、ちょっと待て…」
ショーンがまだ何か言っていたが、シエラは振り返らずにそこを出て行った。
イライアスが、それを見送ってから、言った。
「ほら、お子様でしょう?」と、呆れたように続ける。「あいつにはまだ無理なんですって。」
ショーンはイライアスを睨んだ。
「お前の言い方が悪いんでぇ。」と、立ち上がった。「ちょっとショウタと話して来る。お前、次の授業を頼んだぞ。」
イライアスは、手を振った。
「はいはい。学校でのお遊びなんかオレで充分だ。ショーンさんは城に集中してくれたら良いですよ。」
ショーンはそんなイライアスを背に、城へと向かったのだった。
翔太は、ショーンと交代で城の学校で術を教えていた。
みんなかなり術に長けているので、呪文と注意点さえ教えたら後は勝手に練習してくれる。
なので、城での勤務はかなり楽だった。
四十歳を過ぎても体はよく動く。時々ショーンが悪い所を細々と治してくれるので、この体もまだまだ使えそうだ。
このシマネキヅキにディンダシェリアから派遣されてから十年、翔太はあちらの大陸でもいろいろなことがあったのを知っていた。
翔太が異世界からこちらの世界に迷いこんだのが二十年前、あの頃はいつ何が起きるのかと、毎日気になりながら、王立劇場で芝居を続けていた。
十年後にライアディータの王であるリーディスが亡くなり、跡はリーディスの妹の子であるアーロンが継いだ。リーディスは、生涯独身で子が居なかったからだ。
アーロンは、リーディスの妹アディアの夫である、アークの子で、大変に出来た男だった。
サラデーナの王であるシャデルに教えを乞い、現状を理解して共に動いているので、足並みに乱れはない。
そんな時に、翔太はアーロンから頼まれ、こちらへ術を教える講師として派遣されることになった…翔太も、その時点まで何も知らなかったのだが、その時に、幼い子供が一緒に居た。
それが、ショーンだった。
…まさか、そんなことになっていたなんて。
翔太が考え込みながら皆が術の練習をするのを睨むように見ていると、ショーンの声がした。
「ショウタ、話があるんでぇ。」
翔太は、ハッとしてショーンを見た。
「ショーン。どうした、何かあったか?」
ショーンは、息をついた。
「シエラだ。あいつを急いでこっちへ連れて来ようとしたんだが、イライアスの奴、何も知らねぇからあいつじゃ無理だと突っぱねやがって。確かにあいつじゃまだ早いんだけどよ。」
翔太は、眉を寄せた。
「じゃあどうするんでぇ。バラバラだと管理が難しいからひとまとめにするんだって言ってたんじゃなかったのかよ。一般企業にでも就職されたら厄介だぞ。せめて大学院にでも行かせられねぇのか。」
ショーンは、息をついた。
「特にやりたい事があるわけでもねぇのに、それは選ばねぇだろ。それより、仕方ねぇから神殿の学校へ入れるかってな。あいつは意地になってここへ来るかもとか言ってたが、来たら来たで恐らく付きっきりで指導しなきゃヤバい。まだ術の扱いを教え始めたばかりだからな。」
翔太は、息をついた。
「あっちの国じゃあ子供の頃から息をするように簡単に術を放ってるってのによお。なんだってアレクサンドルは、ここをこんな風にしたんだよ。」
ショーンは、術を放つ訓練生達を見ながら、答えた。
「危ねぇからに決まってるじゃねぇか。ライアディータでも年に数回は暴発事故で命を落とす奴らが居るのは確かだ。小さい頃から何が危ないのか感覚で知ってるとはいえ、子供は無謀だからな。アレクサンドルのやり方は間違ってねぇ。こっちの人口を見たら分かるだろうが。あっちの10倍は居る。扱えるもの達が扱えないもの達を守る事でこうなった。一般人は不便だからテクノロジーを発展させてそっちも出来る。至れり尽くせりなんだよ。」
翔太は、息をついた。ここが、天で手本にされていた世界だと昔聞いた事がある。ここが、魔法とテクノロジーの融合されたバランスの良い世界なのだということなのだろう。
「…それでも、この世界を作った力には敵わねぇ。」翔太が言うと、ショーンは眉を寄せる。翔太は続けた。「とにかく神殿でも何でもいい。あいつを管理しやすい場所に入れるしかねぇだろ。お前が感じるとかいう、面倒な気配の正体は分かったか?」
ショーンは、首を振った。
「まだ分からねぇ。巧妙に隠してやがる。何とか暴いてやらねぇと…何かが動き出してるのは確かだ。」
翔太は、頷いた。
「お前達が大きな犠牲を払ってまで備えたんだろうが。必ず見付け出せ。」
ショーンは頷いて、しっかりとした目で翔太を見た。
翔太は、昔のショーンを思い出し、その目に頷き返したのだった。