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シマネキヅキ~The World of SHIMANEKIDUKI~  作者:
二つの国の対立
36/77

防衛

その数時間前、デクスとアレクサンドルに引っ張られて、シエラは結構なスピードで飛んだ。

飛ぶことに関しては、もうかなり慣れて来ている。デクスから、飛ぶのは慣れるしかないと言われて、城でも階段を下りる時まで浮いて降りるように心がけていたら、結構慣れて来て普通に飛ぶのは問題なかった。

だが、スピードを出すのは違った。

デクスもアレクサンドルも、息をするように飛ぶので、恐ろしく速いスピードでも問題ないようだったが、シエラはまだ飛び始めて間が無いので、高い高度をそのスピードで飛ぶのは怖さがあった。

なので、シエラ自身の安心のため、二人がシエラを挟んで両手を掴み、そのまま三人で飛ぶという方法を取ってここまで来たのだ。

鉄道などでゆるゆると進む事に慣れているシエラにとって、それはかなりのカルチャーショックだった。

まさか一瞬で、ヤマトのタキからアレク大河まで出て来れるなんて、考えたことも無かったのだ。

段々と白んで来る空を背に感じながら、三人は高い位置を、大河を足元に地上を見下ろしていた。

「…やはりの。ミマサカ全体に網のように術を張り巡らせてある。修道士達を各地に配置してそれらに張らせて見張らせておるようよ。」

アレクサンドルが言う。シエラの目にも、脳の一定の場所に力を入れるようにすると、光の線のようなものが見えた。多分、これが術なのだ。

「その網から、上空に向けて光が立ち上ってますよね。きっとこれに引っ掛かったら地上の修道士に気取られる感じですか。」

アレクサンドルは、頷く。

「恐らくはの。これでは空からは無理ぞ。というて地上は…」と、もはや蟻のように見える、人の動きを見下ろした。「…兵が配置されておるの。まあ、全てを網羅するのは難しかろう。空に術士を割いている分、地上にまで術士が行き渡っておらぬのだ。地上は武力行使ということか。」

シエラは、それには答えた。

「ですが、軍にも術士が居ります。神殿の術士ほど、防御の魔法には長けてないかもしれませんが、攻撃術も知っていて厄介なのでは。」

アレクサンドルは、シエラを見た。

「うむ。神殿の術士達は主に防衛に長けておるからな。この網の術も神殿の術士達の得意なものぞ。とはいえ、軍の術士も同じ術が使える。あやつらは、皆神殿の術士から昇格した者達であるからの。」

シエラは、頷く。

その城の術士の学校に、自分は行きたいとか思っていたのだ。

まさか、栄進がこんなことをするつもりで居たとは、普通に生きている時には全く知らなかった。ただ、平和な日常がずっと続くものだと信じて、自分の進路の心配だけをしていたら良かったのだ。

今も、きっと皆は普通に生活をしていて、どうして軍が街にたくさん居るのかも分からずにいるのだろう。戦が始まろうとしているとか、自分たちの王がヤマトの王を捕らえているとか思いもせずに。

シエラがそう思って切なげに街を見下ろしていると、デクスが言った。

「帰りたいと思うか?」

シエラは、首を振った。

「ううん。あそこに居たら、多分何も知らずに生きていたんだろうなって思っただけ。今にも戦が起こりそうなのに…自分たちの、王のせいで。」

デクスは、息をついた。

「一般の民とはそんなものよ。いつなり巻き込まれて、犠牲になるのはいつもそのような者達。それを起こした者は、結局は己だけ逃れて生き延びるもの。我とて、そうであった。」

だが、それはデクスであってデクスではない。

シエラはそう言いたかったが、栄進がどう考えて居るのか分からないので、何も言えなかった。もしかしたら、栄進だってどこかの誰かに黒い心を植え付けられたのかもしれないのだ。

だが、この世界には今、創造主は居ないはず…。

「…あの、栄進陛下もデクスのように、律子みたいな存在に黒い心を植え付けられたとかないかな。」

それには、アレクサンドルは首を振った。

「それは無い。」すぐに答えたのに、シエラが驚いているとアレクサンドルは続けた。「黒い心と申すものは、不自然に植え付けられたとしたらかなり真っ黒に見えるもの。しかし、栄進からはそれが気取れなかった。いくら隠そうとも命の黒さは隠せないものなのだ。あやつの心の細かい所までは我には見えなかったが、あれの命の色は見えた。グレー掛かった色であったが、生い立ちを聞いてそのせいかと思うておったのだ。それが…やはり生い立ちのせいではあったが、まだ恨んで戦を起こそうとしておるなどとは、思わなかった。」

デクスは、南の方を指さした。

「あちらの方へと細かく見て参るか。どんな術で防いでおるのかよく見て置いた方が良いだろう。」

アレクサンドルは、頷く。

「では、我は北を。」と、シエラを見た。「主は、ここから下へ降りて地上の様子を遠目に探ってくれ。どんな風に軍を置いておるのか、しっかり覚えておくのだぞ。覚えられぬのなら、紙に書いても良いから。分かったの。」

シエラは、二人と離れるのは少し不安だったが、こちらはヤマトなのだ。なので、頷いた。

「わかりました。お気をつけて。」

そうして、デクスとアレクサンドルは、そこからまた一気に南北へと分かれて飛んで行った。

取り残されたシエラは、ゆっくりと下へと降りて行って、低空からあちらの街を探って凝視した。

…こっちへ来てこうして知ることが出来る機会を得たんだから、頑張って務めを果たさないと。

シエラは、ポケットから術のメモ帳を出して、それにせっせと今目の前に見えている、兵士達の場所などを書き記して行った。


コンラートに呼ばれた邦光が、後ろに数人の術士と兵士を引き連れてやって来た。

「コリン様。お呼びと聞きまして。」

コンラートは、邦光を見てから、スッと手を上げると、その数人が立っている場所に、半円を描く透明の膜を張った。

驚いている邦光に、コンラートは言った。

「…リュウガの結界が弱まってる。術が入り込んでるぞ。」

後ろについて来ていた、ローブを着た男が言った。

「コリン様は、だから回りに我らを遮断する膜を張られたのですね。」

コンラートは、頷いた。

「多分、あっちから確実に気の色を知っている者達を狙って放った術だろう。距離があっても細く力を絞って狙いを定めれば遠くまで飛ばせる。これまでリュウガの結界があるからここは大丈夫だと思ってたけど、さすがのリュウガも封じられてまで長く結界を維持するのは難しいみたいだ。むしろ封じられてるのにここまで結界を維持したのはリュウガの執念だろうね。ヤマトを守りたいっていう。」

それを聞いて邦光は、涙ぐんで言った。

「…早く陛下をお助けせねば。どんなお気持ちでおられることか。」

コンラートは、首を振った。

「封じられている間は意識が全くないよ。だから結界も崩れて来るんだからね。ここには僕の結界を張るから心配ない。でも、今はあっちの思惑通りになってると思わせた方がいいと思うんだ。」

邦光は、隣りに立つ男と顔を見合わせた。

「…どういう事でしょうか。」

コンラートは、椅子に座るように皆に手で合図してから、言った。

「まずは、そっちの人達の事を話してくれる?クニミツ。誰なの?」

邦光は、ああ、と慌てて言った。

「はい、申し訳ありませぬ。こちらの黒髪で黒い瞳の男は義朋(よしとも)、青い瞳は直秀(なおひで)、緑の瞳は寿康(としやす)、白い髪青い瞳は克重(かつしげ)、茶髪の二人はいずれも兄弟でアントニーとアーサー、そして最後のごつい体の男がゴードンです。使者として発つ者達を選別して参りました。」

コンラートは、顔をしかめた。

「名札が欲しいなあ。ま、覚えたけど。」と、まだ立ったままの一同に言った。「座って。」

全員が、言われるままに椅子へと座る。コンラートは、それを待ってから、言った。

「…今朝、朝食の席へ来たミマサカの子達を見て、術を気取った。最初は分からなかったけど、三人とも動きがおかしいし、何より一番の友達だった誠二が、シエラが居ないのに何も言わない上に興味もないようだったから、おかしいと思って探ったんだ。そしたら、別の誰かが背後に見えたよ。あいつらは、今意識が無いよ。他の何かに乗っ取られている状態さ。でもあの術はね、遠隔でやるととても疲れるんだ。何しろ、他の人の体を動かすからね。長くは扱ってられないみたいで、すぐに部屋へ引っ込んだ。今頃、部屋で寝てるんじゃないかな。」

義朋が、眉を寄せた。

「では、こちらの事をあやつらを使って探っておるということですな。すぐに捕らえるか、術を跳ね返したら良いのでは。」

コンラートは、首を振った。

「だから言ったでしょ。利用するんだよ。」眉を上げる皆を見て、コンラートは続けた。「リュウガは戦はしたくないって考え方だったし、僕も出来たら民を犠牲にしない方向で行こうと思ってるよ。どうしてもリュウガを取り返したければ、僕ならあっちを皆殺しにして取り返す事だって出来るんだ。でもそれをしないのは、リュウガの意思を尊重しようと思うから。でも、あっちから攻めて来られたら、迎え撃つしかないじゃないか。だから、今来てもらったら困るんだよね。僕ってあんまり我慢しないからさ、全部殺しちゃうし。」

邦光が、話しが見えなくて、顔をしかめたまま言った。

「は。それと、利用するのとどういった関係が。」

コンラートは、呆れたように言った。

「だからさ、攻めて来づらいように、あいつらにわざと間違った情報を与えたんだ。リュウガが一人であっちへ行ったのは、エイシンを引っ掛けるため。まんまとそれに引っ掛かったし、僕に力があるから、いつでも皆殺しに出来るけど、世間体があるから向こうから攻めて来てくれないかなあ、ってね。本当は僕とリュウガだったら、どう考えてもリュウガの方が力はあるんだ。でも、13歳のリュウガと比べたら、僕は出来る方だと思うよ。それで、ちょっと大きく言ったの。僕にはエイシンには全く同情の気持ちは無いから、攻めて来たらそのままエイシンを討つために城まで行くって。僕のが力があるからリュウガが僕に後を任せて行ったんだって。」

皆が、驚いた顔をした。

「それを、術にかかった奴らに話したと?」

コンラートは、フフフと笑って頷いた。

「うん。今頃あっちではどうしようと思ってるかなあ。多分ね、リュウガを捕らえてるし攻めたら勝てるとか思ってたと思うんだよね。でも、僕に力があるのを知ったから、しかも引っ掛けられたって思ったら、向こうじゃイライラしてるんじゃない?きっと攻めるに攻められないと思うよ?僕が居るから。いい気味だと思わない?」

臣下達は、顔を見合わせた。確かに偽の情報を渡すのは有益かもしれないが、やり方が龍雅と違うので戸惑っているのだ。

「ええっと…では、コリン様はこの先、どうしようと思っておられますか。」

コンラートは、急にスッと顔を真顔にすると、言った。

「…まず、君達に二手に分かれてディンダシェリアへ行ってもらう。シャルディーク…いやシャデル王に書状を持って行って話をして来てもらうためにね。その間、僕はこちらでヤマトを守る。もちろん、取り返し方も模索するけど、今はアレクサンドルの封じに守られてリュウガに命の危険はない。だから、とにかくミマサカがヤマトヘ侵攻して来ないように睨みを利かせておくよ。その間にシャデル王と渡りが付いたら、何とかなる。」

邦光は、不安げにコンラートを見た。

「シャデル王が栄進王の方を信じてしまったらどうなるのでしょうか。あちらは、こちらの争いに手を貸して来るとお思いですか。」

コンラートは、それには首を振った。

「いいや。シャデル王はそんな王じゃない。ただ、天の問題があってね。誤解があるからそれを解かない事には、もしかしたらあっちにつくんじゃないかって思うんだ。だから、どうしてもあっちへ行ってもらわなきゃならない。デクス達が戻ったら、早急に出て行けるように準備して。君達にも、全員無事であっちへ行って欲しいからね。リュウガから借りてるのに、誰も失いたくないんだ。」

邦光と、他の者達は頭を下げた。

それにしても、城の中にそんな術を掛けられた者が混じって居るとは、落ち着かない事よ…。

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