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あちらの思惑

龍雅は、結局シャルディークからの書簡には構い要らぬと書いて送った。

自分に扱えぬものなどないからと。

夜中に出発したその使者は、次の日の昼頃に、やっとリーマサンデまで到着した。

アーシャンテンダまで、結構な道のりをそのスピードで行けたのは結構早い方だったが、あちらではイライラとそれを受け取ったらしい。

すぐに返事を持たされて、使者が戻って来たのは更に次の日の朝だった。

こちらではシエラ達はデクスから着実に術を習い、基本的な治癒術も、攻撃術も一通りはマスターした。

デクスが付きっきりで教えた事もだが、コンラートが加わった事で、違う術が早く知りたいからさっさとマスターしろと、側でイヤほどせっついたからだった。

この早さで皆が皆、シエラだけでなく美琴やライナン、誠二もマスター出来たのは、奇跡に近い。術は使ってみなければ感覚が掴めないので、習得には何度も放つ必要があるのだが、普通の人ならばそう何度も、一日に放つ事など困難だ。

命の気の量が、決まっているからだ。

だが、ライナン達三人は、地から命の気を吸い上げられないものの、回復が異常に早い。粗削りな術しか放てないものの、それでも一般人に比べたら大層多くの術を放つ事が出来たのだ。

朝食の席で、コンラートが上機嫌で言った。

「今日からは新しい術を教えてもらえるね。僕、デクスの知ってる術の中で知らないやつは全部教えてもらおうと思ってるんだ~。」

デクスは、苦笑した。

「それはいくらでも教えてはやるが、主は少し皆を気遣う事を覚えねばならぬわ。結局あのペースでは兵士達はついて来られず、こやつらばかりに教える事になってしもうて。」

龍雅は、言った。

「兵士は後で良い。我が教えておるし、もう基本的な事は知っておるはずなのだ。主が教えておったのは、新兵達ばかりよ。本来、あれらの事は上司の兵士が教える事になっておるから。主はこれらを育てる事に尽力してくれたら良いぞ。…これから何があるか、分からぬからな。」

言われて、デクスは頷いた。確かにこれらに身を守る術を教えておかねば…。

コンラートは、バンを口に放り込みながら言う。

「それで?シャルディークは何を言って来たの?」

龍雅は、頷いて手にしていた書状をテーブルに置いた。

「一度会いたいと。自分は恐らく、こちらが知らぬ事実も知っているからとの。まあ、己の力に慢心しておるから出る言葉よ。この地上で己以上にものを知る人が居らぬと思うておるのだろう。加えて対面すればこちらの言葉の誠も分かろうと踏んでおるのだ。嘘など言うつもりはないが、しかしあれに腹の内を知られるほど力が無いわけではない。ウラノスにならいざ知らず、シャルディークに気取られるほど未熟ではないわ。」

龍雅は、フフンと鼻で笑った。

コンラートは、それでも真剣な顔で言った。

「会うの?記憶があるって明かす?」

龍雅は、顎に触れながら考える仕草をした。

「どうするかなあ。主は臣下にも、母の妹、マリーンの子であると申してあるゆえ、主はその立場を貫いて、何も覚えておらぬで通した方が良いだろう。叔母のマリーンは、少々精神に問題を抱えておったのだ。いろいろあってな…ひっそりと隠されて生きていた。なので、主がその子であって臣下が知らぬでもおかしくはない。しかも、主の人型はマリーンに似ておる。髪の色と目の色が同じでな。誰も疑っておらぬだろうが。謁見の間で会った時には、あまりに成長していて分からなかったと申した。実は前世の友であったと説明したら、あっさり納得しおったし問題ない。」

コンラートは、頷いた。

「そうだね。じゃあ、コリンで行くよ。コンラートの愛称だからおかしくないもんね。」と、皆を見た。「みんなもそれで通してよ?僕、サディアスの従兄弟なんだ。貴族だよ?フフ。」

ライナンが、納得出来ない風で顔をしかめたが、何も言わなかった。

シエラが言った。

「では、会われるんですか。」

龍雅は、しばらく考えていたが、首を振った。

「いつかは会うが、今は癪なので会いたくないと返す。精々やきもきするが良いわ。」

そうして、紙とペンを持って来させると、さらさらと返事を書いた。その文字はあちらのもので、龍雅があちらの文字も知っているのだ、と知らせるためのものだとシエラには分かった。

普通、自分のところの文字を使うものだからだ。

「さ、これを持たせてまた行かせよう。着くのは夜中か明日の朝よな。まあ、こちらはおっとり対応してイライラさせようぞ。」

まるでゲームだ。

だが、龍雅にはサディアスとして、シャルディークには何某か心の中にあるようで、最初から仲良くしてやろうとは思っていないらしい。

ただ、龍雅はシャルディークと争うつもりはない、と以前言っていた。つまりはギリギリのところまで、イライラさせようという魂胆なのだろう。

戦って殺し合おうなどとは、思ってはいないのだ。

そんなこんなで、その日もまたシエラ達は、デクスと術の勉強に努めたのだった。


ショーンは、その頃アーシャンテンダに飛んで、シャデルの側に居た。

あの遺跡の崩落事故の後シャデルに報告すると、デクスの気配が大きくなったと思っていた、と眉根を寄せていた。

だが、あいにくその時サラデーナでは水害が起きていて、シャデルは国を離れるわけにはいかなかった。

なので仕方なく栄進に指示をして、デクスを探せと言ったが、デクスの気を知るものがシャデルのほかに居ない。

ショーンですらその気をはっきりとは知らなかった。何しろ、初めて見た時にはもう封じられていて、そこから感じ取れる微かな気配では、シャデルのように遠くから気取るのは難しかったのだ。

姿をくらましたデクスに、シャデルはこちらからではどうすることも出来なかった。ようやく水害の後始末を終えてみると、デクスはヤマトの王、龍雅に発見されて保護されていた。

龍雅は術に長けた男らしく、自信があるのか捕らえたデクスから話を聞くのだという。

だが、デクスは術に長け話術も巧みだった。

嘘をつかずに己を良く言う事など、デクスには簡単な事ではないかと思われた。

暗く、お互いの顔も満足に見えない中で、ショーンとシャデルは向き合っていた。

「…恐らくデクスに言いくるめられておるな。」シャデルは、険しい顔をして言った。「力のある王は、己に出来ぬ事などないと思うておるだろうし、まして騙されるなと思うてもおらぬだろう。主は刻印持ちだと言うが、地上に降りて来ると天の記憶は無うなるゆえ。それがウラノスの仕業だと気付きもせぬだろう。ウラノスは、そやつを成長させるためにデクスという試練を与えておるのやもしれぬが、デクスはあまりにリスクが高すぎる。このように隣り合った大陸で…こちらへの被害を考えると落ち着かぬ。」

ショーンは、頷く。

「ラファエルが、枷が白くなったと言って来てから二十年ほどでしょう。いくらなんでも酷い事にはならないかと思うんですが。」

シャデルは、首を振った。

「ウラノスなら分からぬ。刻印持ちがこれ程多く降りているこの大陸で今この時、デクス一人を放てば何人もの命が一気に成長すると思うておるのやもしれぬし。まだ黒い命を内包しておったのは、封じられていた時でも気取れたのだ。我のように誰かが何千年も籠められるようなことは、もう二度と。」

ショーンは、今訊くべきか、と迷ったが、しかし聞いておかねばと、口を開いた。

「陛下。」シャデルが顔を上げる。ショーンは続けた。「アレクサンドルの事なんですが、龍雅という王は、クロノスが時を巻き戻した事を、やってはならないことだ、と断じていました。それから、アレクサンドルが長く地上に居る事も…。地上に居る期限は皆平等で、それを違えたら地上が乱れると。アレクサンドルは、すぐに天へ戻るべきだと。」

シャデルは、眉を寄せた。そして、息をついた。

「…それが正論ぞ。そやつは正しい。クロノスがやったことは、地上の皆がやり直すことも出来るのだと思うてしまい、事に真剣に向き合わぬようになるという、危険を孕む荒業ぞ。それに、アレクサンドルほど地上に留まっている命も、またおらぬ。我ですら、体の時を越えて地上には留まれぬ。」と、自分の手を見た。「だからこそ…主とて一度オオクニヌシの天へ戻り、再び戻ったのだろうが。」

ショーンは、頷いて自分の手を見た。若く新しい体…大国主がそれが正しいと本当に思うのか、と訊ねたが、ショーンは正しいと思った。だから戻って来た。記憶を持ったまま。

「…アレクサンドルは、天へ戻るべきだと思いますか。」

シャデルはしばらく考えたが、渋々という風に頷いた。

「…戻るべきぞ。あれは長く生き過ぎた。シマネキヅキは我らが見るゆえ、あれにはオオクニヌシのもとで待ってもらい、ウラノスと何とか和解した後に再び天から見下ろせば良いのだと申したい。だが、今あのミマサカでは、エイシンが信仰が無くなるのは民の心の行き場を失くすと危惧しておるのだろう?あの地は、強い信仰心に支えられて回っておるのだとか。こちらは神が姿を現さずでも信仰心はなくならぬが、あちらにはあちらの国の在り方がある。国が乱れるのは、あやつも困るだろうし、その土地その土地のやり方にまで口を出すつもりはない。ゆえ、強く言えぬでおるのだ。」

ショーンは、目を丸くした。では、シャデルはアレクサンドルを残そうとは思っていないのか。

「…陛下が良いと思う方向へ進めた方が良いかと思いますが。エイシン王の事は、まだよく知らないのでしょう。オレも傍に居りますが、若くてあまり考えは深くない。毎日父王がやっていた通りの政務をそのままなぞる形ですし、リュウガ王とは対等に口を利いてはおりますが、力関係は絶対的にリュウガ王の方が上であるようです。何しろ、リュウガ王はオレ達から話を聞いたら、躊躇う様子もなくあっさりと理解してそれに対しての考察を述べておりました。エイシン王とは雲泥の差です。」

シャデルは、ショーンを見た。

「リュウガとはそれほどに出来た王か。会って話したいと思うのだが…あちらも我の事など知らぬし、他国の王と会おうという状況ではないのだろうの。デクスが何を言うておるのか分からぬし、もし我を悪う言うておったら、リュウガは我を良くは思うまい。」

ショーンは、首を振った。

「リュウガ王は刻印を持っているようで、こちらの偽りを見抜きます。陛下やラファエルと同じなんです。陛下に悪い所などないのに、デクスが付け入る隙などないはずです。」

しかし、シャデルは首を振った。

「ある。」ショーンが驚いていると、シャデルは続けた。「今、主が我に問うたことよ。我はアレクサンドルが生きる事を許しておる。デクスが生きるのは許さぬのにの。それはデクスが黒い命でからであるが、あちらにはそれが分かるまい。アレクサンドルが生きるのは、世の理としたら間違っておるのだ。時を巻き戻したことすら、我のせいとなっておるやもしれぬ。楽観は出来ぬ…ゆえに、会って話すよりないと思うておるのに。」

使者は、まだ戻らない。恐らくは距離があるので、早くて夜中、普通なら明日の朝になるだろう。

ショーンは、ため息をついた。

「陛下なら、飛んで行く事も出来るのに。」

シャデルは、首を振った。

「それは出来ぬ。面識もないのに、それではあまりに非礼であろう。せめて、あちらが我が我だと知ってくれておったなら…天で、会っておるのなら、話しも聞いてくれようが。」

ショーンとシャデルは、灯りも着けていない部屋の窓から、遠くヤマトの方角を眺めた。あの向こうに、龍雅が居る。だが、その距離以上に、会うのが難しい…。

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