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シャルディーク

「シャルディークは、サラデーナの王だよ。」コンラートは、遠い目をした。「歳は六十くらいなんじゃないかな。だって僕が最後に会ったのが四十年前で、その時にはまだ二十代だったからね。でも…病かなんかだとかで、十年ほどディンメルクのアーティアスという王があっちとこっちを兼任していた時期があった。それが二十年前、でも今は元気になったとかでまたシャデルが王座に就いてるって聞いた。あ、シャデルが今回のシャルディークの名前なんだけどね。」

龍雅は、頷く。

「あのショーンという奴がシャデル王に会ってくれと言うておったからそうであろうなと思うた。シャルディークが噛んでおるとは面倒な。あやつは何を思うて此度の事を見ておるのだ。あやつらの真意が分からぬ。」

コンラートは、眉を寄せた。

「シャルディークは、前からウラノスにでも意見を言う奴だったじゃないか。自分が正しいって信じてるから、ウラノスすら間違ってると思うだと思うけど、誰のお陰で力を持ってると思ってるんだろう。なんか、あやつはもう我の命ではない、とかウラノスが言ってたけど。」

龍雅は、窓の外の沈み始めた日を見つめながら、言った。

「…あやつもなあ…何か知らぬが、ウラノスに命の大切さが云々と講釈を垂れておったわ。だが、ウラノスから教えられて生きて来たのに、それが何ぞ。あれを育てようといろいろ試練を与えておったのは知っておるが、何もあやつだけの事ではない。我だって、他の世界に降りて数多くの困難と戦った。もちろん、記憶の無いままにな。世界は、1072あったのだ。ディンダシェリアはそのうちのひとつでしかない。たまたまそこに、大国主の命が混じっていて問題になっただけで。我の方でも我一人が成長するために多くの命が犠牲になったわ。だが、あれは問題を提起したか?せぬだろう。命が失われたのは、己が上手く立ち回れなかったからよ。あやつが言うのは、己のことばかりぞ。我だって、生きて欲しかった命もあった。だが、そやつらもまた命の循環に戻り、新しく幸福に生きておるわ。それを見て、命とはそういうものだと思うたのだ。そやつらも、そうやって命を磨くのだ。我らに追い付き、そしてまた、他の命に助けられて成長する存在へと向かう。持ちつ持たれつぞ。」

難しい事だったが、シエラには何となく分かった。

龍雅達刻印持ちの命の成長のために失われた命も、またそれによって成長し、同じように刻印持ちを目指し、後に再び次は他の命に助けられて成長する。

皆が皆、刻印持ちとなる日を目指して。

「…でも、今は何が起ころうとしているのか、知らなければなりません。」シエラは、言った。「この土地が乱れる事があってはならないと思うので。」

龍雅も、同意して頷いた。

「その通りぞ。栄進は刻印を持ってはおらぬから、我が何とかせねばならぬ。あやつには荷が重い…もし、シャルディークが何か考えておるのなら、栄進には防ぎようがない。あちらはアレクサンドル、こちらはデクスを守ろうとしておる状況ぞ。」

それには、デクスは言った。

「我は別に命は惜しくないゆえ。諍いのもとになるのなら、天へ参る。刻印があるのなら循環には入らぬし。そう皆、憂いてくれなくとも良いのだ。」

龍雅は、苦笑した。

「アレクサンドルも、同じようなことを。」と、額に手を置いた。「困ったものよ。アレクサンドルは悪い命ではない。だが、恐らく利用されておる。あれらはそのつもりはないのやも知れぬが、本人が良いと申しておるのに、回りが死ぬのを許さぬのだ。どうも回りが意地になっているように感じるの。」

美琴は、言った。

「アレクサンドルは、どうして生きようとしていたのに、今は死ぬとか言っているんですか?本心でしょうか。」

龍雅は、チラと美琴を見て、答えた。

「我には嘘は通用せぬ。あれは誠に死んでも良いと思うておった。ただ、このシマネキヅキを見守りたいと思うておっただけなのだ。天へ行ってもそれは出来ると、本人も思うておったようだった。前は刻印が無かったようだが、今は大国主の刻印があるようであったしな。ただ、大国主とウラノスの諍いで、天へ行ってもこちらの世界を見ることは叶わぬと、回りが申しておった。ここは、アレクサンドルが作ったとはいえウラノスの世界であるからな。その理由で、留められておるようであったな。」

コンラートが、ずっと何かを考えているようだったが、言った。

「ねえ、栄進王にデクスを探すって言ったよね。どうするの?見つけたって言うの?」

龍雅は、ソファに座り直して頷いた。

「デクスと主らを見つけ、話を聞いたと申す。栄進をデクスに会わせて直接話を聞いてはどうかと提案してみるつもりよ。」

コンラートは、更に言った。

「でも、シャルディークはどうするつもり?あっちを探らなきゃ、栄進王を説得出来ても根本的に懸念は消えないでしょ?でも、普通の人が会おうと思って会える立場じゃないし、それが出来るのはサディアスだけだよ。ショーンがシャルディークに会ってくれって言ったら、断ってたけど。」

龍雅は、それを聞いて険しい顔をした。

「…あれは恐らく記憶を持っておろう。我の顔を見たら、我が誰か分かる。こちらが記憶を持っておらぬふりは出来る。実際、我はつい今朝までは何も知らずであったしの。一度、ただの龍雅であるふりをして、あれと話して参った方が良いか。だが…今のシャルディークがどうであるか。まあ、我を捕らえようにも捕らえることは出来ぬが、まさかそこまで落ちぶれてはおらぬと思いたいがの。」

ライナンが、言った。

「焦らすのも手かもしれませんよ。」皆がライナンを見ると、ライナンは続けた。「相手にされないと思ったら、あちらはどうにかして会おうとあの手この手を使って来るはずです。あちらが敵だと認定しているデクスを、見つけたと聞いたら尚更です。あちらにしたら、デクスがこのように温厚ではまずいのではないですか?すぐに引き取りたいと思うのでは。それなのに、こちらが会わないと取り合わなかったら、何か行動を起こして来るはずです。それがまた情報になるかもしれない。」

美琴が、驚いたようにライナンを見た。

「珍しいわね、あなたがそんな冴えた事を言うなんて。確かに、私もそう思うわ。直接会ったところで、あちらの王が優秀だったらボロは出さないと思うし…。」

コンラートも、龍雅を見て言った。

「確かに、それが良いかもしれない。シャルディークに、サディアスだって知られるのは遅い方がいいかも。多分、ただの王だと思ってるから、油断してると思うんだよね。何しろ、天にはシャルディーク以上の命なんて居なかったんだから、サディアス以外にはね。」

シエラは、改めて龍雅を見た。

龍雅は、確かに落ち着いた風貌で、そして伝わって来る気はそれは清々しく真っ直ぐで、任せておけば大丈夫だと思わせるような、安心感がある。

天での龍雅の様子は知らないが、それでもそれが、かなり優秀だったのは予想出来る。

コンラートが、誰かを褒めることなど聞いた事が無い。

どうも、コンラートはウラノスにべったりで、他の命が褒められるのを極端に嫌うようだったのに、それでも龍雅を褒めているのだ。

「…シャルディークには負ける気はせぬが、しかし我は、争いたいのではない。あれがこちらの話を聞いて、何をしようとしておったのか胸の内を話してくれたら、お互いに納得できる道が探せるはずぞ。だが、確かに素直に話してはくれぬだろうの。まして、我がサディアスであるのを知れば、余計にな。我はあれよりウラノスに近い考えを持っておる。それを知っておるから、ウラノスと対抗しておるのなら、我に手の内を明かさずでおこうとするはずよ。」

美琴が、頷いた。

「ならば…。」

龍雅は、頷き返した。

「しばらくは様子を見よう。デクスと主らが見つかって保護しておる事実は知らせる。明日の朝にでもの。」と、声を上げた。「侍女!」

すると、扉の向こうから、侍女が入って来て、頭を下げた。

「陛下。お呼びでしょうか。」

「そろそろ食事を頼む。客人と一緒に食すゆえ、準備を。それから、これらに部屋を準備せよ。」

侍女は、それを聞いてまた頭を下げ直した。

「はい、陛下。」

そして、出て行った。

コンラートが、立ち上がって伸びをしながらウキウキと言った。

「わー!良かった、お城の生活だ!潜伏生活って、碌な物が食べられないって思ってたから嬉しいなっ。」

それに、龍雅は呆れたように笑った。

「大した物は出せぬが、楽しむが良いわ。そういえば」と、龍雅はハッとしたようにコンラートに迫った。「主、盗品の服を着ておるのであったな。脱げ、我が服ぐらいいくらでも与えるゆえ!どこの工場から盗ったのか言え!金を持って行かせておくから!」

コンラートばかりか、全員がその、盗品の服を着ていたので、もじもじと体を居心地悪げに動かした。コンラートは、迫って来る龍雅に両手を前に出してそれを防ぐようにしながら、首を振った。

「別にたくさんあったし向こうは気付いてないよ!多分、アウトレットだよあれ!箱にたくさん投げ入れるように入れてあったんだよ?わざわざそんなのを選んだんだからね!きちんと畳んで袋に入ってるのは盗ってないもん!」

これはアウトレット品か。

確かに、あちこち縫製が甘い所があって、デクスと共に飛ぶ練習をしている時も、脇を上げたら脇の下に穴が開いてると美琴に言われた。

美琴の服にも、裾のレース部分がほつれている所があった。

つまりは、正規品で出せないものを、まとめてあった箱から盗ったのだろう。

「欲しいと言うて貰った物ではなかろうが!明日、我がやむにやまれぬ事情で借りたと申して金を持って行かせるゆえ!とにかく、全員我が与えた服に着替えて、その服を渡すのだ!食事の前に、早うせよ!」

全員が、追い立てられるように居間から出されて、待ち受けていた侍女達に、部屋へと案内される。

皆、着ていた服よりずっと良い生地で縫製の服に着替えて、そうして盗品の服は、回収されて行ったのだった。

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