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タキ中心部

その後は、デクスに術のいろいろを聞いてみたり、美琴にヤマトでの生活の事を聞いてみたり、それなりに会話を楽しんで見る間に一時間は過ぎ去っていった。

途中からでも、遠くにそびえたつ王城は見えて来ていた。全て五階建て以下の建物の中に、幾つもの高い塔を有した石造りの建物はかなり目立った。

回りには、緑色の何かがいろいろ見えていたので、どうやら王城の回りには庭のような敷地があって、低い塀に囲まれているらしい。

見えて来てからここまで、結構な時間が経って、それは大きく迫って来ていた。

「もう到着するわ。」美琴が、窓の外を見ながら言う。「出口に行っておきましょうか。」

これから、その城へと向かうというのに、美琴は落ち着いている。

ライナンが、気遣わし気に言った。

「ほんとについて行かなくて大丈夫か?オレだけでも一緒に行こう。」

だが、美琴は首を振った。

「駄目よ。何かあった時のために、私だけで話をつけて来る方が良いわ。」

美琴は、結構頑固だ。

他の四人が美琴とライナンについて席から立ち、出口の方へと黙々とついて来るのに、気付かないようにライナンが言った。

「話をつけるって、女一人でまず、門番が通してくれるのかよ。オレも行った方が絶対良いって!」

美琴は、ドアの前でライナンを振り返って睨んだ。

「ちょっと、聞き捨てならないわね。女だからなんだってのよ?あなたそんなに男尊女卑な考え方の人だった?」

ライナンは、慌てて手を振った。

「違う!お前、自分の事を考えてみろよ。まだ二十二の若い女なんだからな。王に会いたいってそんな女が言って来て、門番がまともに取り合うと思うのか。」

美琴は、首を振った。

「平気よ!タキ中等学校でお会いしましたって言うから。ヤマトでの教師って、結構地位があるの。激務だけどかなり競争率が高くて、優秀でないとなれないんだから。その教師が言うんだから、一応話は通してくれるはずよ。後は、陛下が会ってくださるかどうかってところ。」

列車は軋む音を立てて、ゆったりと停止した。

目の前で開くドアに、二人が出て行くので、それを追ってシエラも誠二も、コンラートもデクスも列車を降りた。

そこは、大きな駅で、ホームが五本ほど並んでいて、間違いなくターミナル駅だと分かる。

人も多く、その間を抜けて慣れないように歩く、田舎者の自分達も、目立つ事は無く、誰も気にも留めていないようで、通り過ぎて行った。

降りたのは良いが、どこをどう行って出たら良いのか目を白黒させていると、美琴が慣れたようにライナンと共に前を歩くので、四人は慌ててそれを追った。美琴自身は、ライナンと言い合うのに一生懸命で、後ろから来る四人が必死なのには気付かないようだった。

スーツケースを引っ張りながら歩く人も多く、それを避けて美琴を追うのは難しい。

だが、美琴はライナンと言い合い真っただ中で、こちらが叫んでも気付くかどうかも分からなかった。

「見失わぬであれを追わねばの。あの二人は誠に夫婦ではないのか?歩く息がぴったりと合っておるのだがの。」

確かに、後ろから見た二人は、人を避けるタイミングから、歩く歩幅までぴったり合っていて、あれだけ言い合いに集中しているのに見事の一言だ。

コンラートは、肩をすくめた。

「ああいうのって、どうせ結婚するんだと思うよ。僕の見て来た経験上だけどね。あまりにも近過ぎて、お互いの重要性に気付いてないってヤツ。だから他の相手だったらうまく行かないんだよ。気付いたら、すぐ結婚だよ。」

さすが、コンラートは長く生きているだけあって、幾つもああいうカップルを見て来ているのだろう。

あくまでも、本人は全く経験が無いようだったが。


結局、そのまま外へと出て、言い合いは美琴が勝利したようだった。

駅を出た目の前には大きな広場があって、中央に大きな噴水があり、たくさんの人が行き来していた。

その向こう側には、少し丘になった場所に城が美しく建っていて、それはそれは美しかった。

「美しい建物であるな。街並みが計算されていて他とよく合っておってまるで絵のようよ。ヤマトとは、芸術のような国よ。」

デクスが感心したように言う。

美琴は、別に自分が作ったわけでもないのに誇らしげに胸を張った。

「でしょう?だから絶対ここに住みたいと思ったのよ。移住する人は案外多くて、ヤマトの人口はミマサカより五十万ほど多いの。この街並みは、今さらミマサカでは真似られないものね。」

ライナンは、まだ言い争いで負けたのを引きずっているらしく、不貞腐れて言った。

「お前はヤマト国民じゃないだろうが。何自慢してるんだよ。」

美琴は、赤くなった。

「うるさいわね!3ヶ月でも住んだ事があるんだからあなたよりヤマトのことは知ってるわよ。」

デクスが割り込んだ。

「もう良いから、止めぬか。して、ミコトは一人で参るのだな?」

美琴は、頷いた。

「ええ。そこのカフェで待っててくれたら良いから。時間が掛かるかもしれないし、観光してきてもいいけどその時は腕輪でどこにいるのかチャットしてね。」

デクスは、顔をしかめた。

「チャットとは何か?我は前のデクスの時の細かい記憶が途切れ途切れでよう分からぬでの。」

シエラが言った。

「文章で通信する機能なんだ。大丈夫、オレがやるから。」

すると、美琴は頷いて、歩き出した。

「じゃあね。」

何の迷いもなく去って行く後ろ姿を見送りながら、ライナンは言った。

「…なんだよ。龍雅王ってそんなに信用出来るって言うのかよ。」

誰かに答えを求めているような言い方ではない。

どうやらライナンは、無条件に龍雅王を信頼する美琴に、不満を持っているようだった。

コンラートは言った。

「まだ二十代で即位したばかりのエイシン王とは違って、リュウガ王は三十代の革新的な王なんだって聞いてるよ。しかもかなり良い男なんだってさ。」

ライナンは、ますます眉を寄せる。

誠二が、コンラートをつついた。

「それ以上刺激するなよ。」遠く、美琴が脇の兵士が居る小屋に到着したのが見えた。「お、話を始めたぞ。」

美琴は、何かを兵士に言っている。

兵士が二人出て来て、美琴から話を聞いて、一人が腕輪で何やら通信して話しているようだ。

五人が固唾を飲んで見守っていると、兵士の一人が通信を終えて、そして脇の小さな通用口を開いて美琴を招き入れた。

美琴は、兵士の一人に付き添われ、中へと入って行った。

「…なんかあっさり入って行ったな。」

誠二が言う。

コンラートが頷いた。

「中で詳しい用件を臣下が聞くんだと思うよ。その後陛下にお伺いして、会ってくださるなら御前に出られる、って感じじゃない?」

ライナンが顔をしかめた。

「用件って、あいつ何を言うつもりだろうな。」

「そのままじゃない?」コンラートは、涼しい顔で言った。「どうしても会いたいなら、インパクトのある用件の方がいいもんね。」

つまり賭けだ。

「…観光などせずにここで待っておった方が良いかもしれぬな。最悪すぐに拘束されようし。」

シエラは、頷く。臣下がある程度ミマサカの事情を知っていて、見つけたら送り返すようになっているかもしれないからだ。

「僕は、会えると思うよ?」コンラートが、伸びをしながら言った。「リュウガ王って、自分を頼って来た民を放って置けない性格みたいだから。ミマサカから何を言って来ていても、まずは話を聞くと思う。ミコトはそれを知ってるんじゃないかな。」

それはそれでライナンは気に入らないようだったが、シエラはホッとした。美琴が、うまく話してくれたら龍雅王は助けてくれるかもしれない。

期待が膨らむのを感じたが、こんなところでずっと立っているわけにも行かず、五人は美琴に言われたカフェへと入って行ったのだった。

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