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魔物

夕日も沈み切ろうとしていて、かなり視界が悪くなって来た。

「もうタキ高原に入るぞ。」

ライナンが、目の前に迫る丘陵を指差して言った。あれを越えたら、腕輪の地図上でタキ高原になる。

ここまで緩やかに登っていたのだが、傾斜が厳しくなって来るのに備えて、シエラは足に力を入れた。

すると、ほんの数メートル右に、急に閃光が走ったかと思うと、大きな穴が開いた。

「?!」

シエラが驚いて身動き出来ずに居ると、横からライナンがシエラを突き飛ばした。

「…メールキンだ!」

ええ!?

シエラは、転がった場所から慌てて立ち上がった。

見ると、目の前にあるライナンの背中の向こう、確かにスライドで見た通りの姿の生き物が五体、こちらを見て立っていた。

「杖を出せ!早く!」

言われて、急いでポーチから小さな杖を引っ張り出して、大きくした。誠二も、青い顔をしながら剣を構えている…剣なら最悪、魔法が出なくても斬り掛かれば何とかなりそうだ。

美琴が、杖を上げた。

「行くわよ!剣の人達は、前へ!斬り付けて怯ませて!回復と魔法技はこっちに任せて!」

「行くぞ!」

剣を握ったライナンがメールキン達に向かって駆け出して行く。

少し遅れて、誠二も剣を振りかざして走った。

「おおおお!」

誠二は、自分を鼓舞するように叫んでいる。

シエラは、必死に杖をメールキンに向けて言った。

「フォトン!」

火の玉が、辺りを明るく照らしながらメールキン目指して飛んで行く。

だが、メールキンの素早さは並みではなかった。

人なら絶対に避けられないようなフォトンを、あっさり避けてこちらへ向かって来る。

「うわあああ!」

シエラは、闇雲にフォトンを連続で放つ。

「うわ!」

あちらでライナンと誠二が、杖があちこち向いてあり得ない位置に飛んで来る火の玉を、メールキンと共に避けている。

「フォトン!」

美琴の声が、冷静に唱えたそれが、目の前のメールキンを捉えて横へと吹き飛ばし、シエラは尻餅をついた。美琴は言った。

「早く立ちなさい!死ぬわよ!」

メールキンは五体。

吹き飛ばされたメールキンが、あちらで首を振って立ち上がるのが見えた。

…一回当たっただけじゃ倒せないんだ。

シエラは、急いで立ち上がって杖を構えた。誠二とライナンが、必死に剣を振りかざしてメールキンの牙や爪が自分に届かないようにひたすらに暴れているように見える。

美琴は淡々とフォトンを放ち続け、時にシールドでメールキンを防ぎながら冷静に対応していた。

「フォトン!」

シエラは、必死だった。五体も居る…三体はライナンと誠二を囲み、魔物にしても厄介な術を放つこちらの二人には二体が近付いては離れ、回り込み、何とかして食い付こうとしている。

…魔物って、こんなに強いんだ。

シエラは思った。シエラのフォトンも、何度も当たっているがメールキン達は上手くかわして直撃を避けている。なので、致命傷は与えられずにいた。

「う…!」

誠二の背中に、メールキンの爪が当たるのが見える。

「誠二!」

シエラは、思わずそちらへ術を放った。

シエラのフォトンは、膝をついた誠二に噛みつこうとしていたメールキンの背に、もろに当たって穴が開いた。

『ギュオオオオ!』

メールキンが、断末魔の叫びを上げてどうと倒れる。

後ろから来ると思っていなかったらしいメールキン達は、それを見てシエラを振り返り、一気にシエラに向けて駆けて来た。

「うわ!」

シエラは、そのスピードに術が追い付かず、杖でメールキンを張り倒した。

それでもシエラを囲んだメールキンは、まるで仲間を殺された恨みであるかのように、今は他のもの達には目もくれずにシエラに飛びかかって来ていた。

「頑張って!」

美琴が外からそんなメールキンに術を放って、何とかしてシエラの囲みを破ろうとしている。

「この!この!離れろ!」

ライナンも、後ろから必死に剣を振り下ろしてメールキンに斬りかかっているが、そんなものには目もくれずに、ただシエラ一人にメールキン達四体は執着しているように見えた。

「う…!」

シエラの肩を、メールキンの牙が掠めた。その痛みに目の前が真下になり、自分の血が噴き出して来るのが視界の端に見えた。

「ダメよ!諦めないで!」

美琴の声がする。

シエラは膝をつかずに居ようと踏ん張ったが、メールキンの大きな口が目の前に見えた。

「ああ!」

美琴の、悲鳴のような声が聞こえる。

シエラは、もうダメだと思った。頭の中に、父母やジェンナの顔が浮かぶ。真実を知る前に死ぬのか…!

すると、目の前のメールキンの口の中に光が飛び込んだかと思うと、一瞬にしてその頭が吹き飛ぶのが見えた。

…え?!

自分は、何もしていない。

シエラが戸惑っていると、残った三体のメールキン達が、上を見上げてギャアギャアと声を上げた。

「…死ね!」

メールキン達は、次々に頭を吹き飛ばされて、その場にどうと転がって行く。

シエラが、へなへなとその場に座り込むと、聞きなれた声が言った。

「見に来て良かったよ。大丈夫?」

顔を覗き込んでいたのは、コンラートだった。


空から、男がもう一人降りてきて着地した。

「急いだ方が良い。他のメールキンも血の臭いにおびき寄せられて参るぞ。」

その顔は、デクスだった。コンラートは、頷いた。

「動ける?痛いだろうけど、もうちょっと我慢して。血は止める。」と、美琴とライナンを見た。「そっちの子も助けてやって。ここを越えて少しも行けば、遺跡だよ。」

そうして、シエラはコンラートに引きずられるようにして、言われるままにメールキン達の死体が転がる場所を後にしたのだった。


丘陵へと登り切ると、また開いた土地があった。

その遠く森の側に、遺跡は静かにあった。

メグミのそれとは違い、小さな石の小屋のような建物があるだけで、他は何もない。

促されるままにそこの中にある階段を下ると、そこには広い地下神殿が広がっていた。

「ここは、本当に古い神殿でね。」コンラートが、シエラを脇へと座らせながら言った。「本来神殿は地下にこうして静かにあったんだ。修道士や巫女以外を、阻む造りになってたのさ。」

言いながら、コンラートは治癒術をシエラに掛けてくれた。

温かい感覚がして、痛みがスーッと退いて行くのが分かった。

見る間に傷は無くなり、服が破れるばかりの状態になっていた。

「ありがとう、コンラート。」

シエラは、腕を動かしても痛みが無いのにホッとした。

あちらでは、デクスが誠二をうつ伏せにして同じように治療している。

誠二の方も、破れた服の間に見えていた傷が跡形もなく消えていた。

「デクスは神殿の術士だったからね。」コンラートが、微笑んで言った。「治癒術は、僕より知ってるよ。」

デクスは、頷く。

「跡を残さず治療するコツも知っている。普通は白い筋が残ったりするのだがな。」

確かに、近付いて見ても誠二の背中はすべすべだ。

誠二は、礼を言った。

「ありがとう。どうなるかと思ったが、あの攻撃を放ったのもデクスだったよな?」

デクスは、また頷いた。

「あれぐらいはな。メールキンでも何でも、口に術を放り込んで頭を吹き飛ばすのが一番早いのだ。どんなに硬い装甲でも、中は弱いもの。覚えておくが良い。」

コンラートが、言った。

「僕達は戦い慣れてるからね。君達はあんな大きさの魔物に出会ったのは初めてだったんじゃない?腕輪を見ていて、ヤバいと思って急いで飛んで行ったんだ。」

ライナンが、言った。

「オレ達が戦ってるのが分かったのか?」

コンラートは、頷いた。

「だって急に止まるしなんか変な動きをしてるんだもの。少くとも歩いてはないのは分かるよ。」

腕輪で見ていてくれたんだ。

シエラは、ホッと息をついた。こうしてここまで来たものの、じゃあ次はどうしたら良いんだろう。

「それで、デクスは落ち着いたのか?」ライナンは言う。「あっちでは仲間が九人亡くなった。みんな瓦礫の餌食になったんだ。」

それには、デクスが暗い顔をした。

「申し訳ないと思うておる。あの時は混乱して、記憶の放流と戦っておった。」

コンラートは、同情するように言った。

「みんなには可哀想な事をしてしまったけど、デクスには壮絶な過去があってね。それを一気に思い出したから、自分を抑えられなかったのも分かるんだ。」と、デクスを見た。「まず、それをみんなに話さなきゃ。」

デクスは、頷く。

「そうだな。お前達には聞く権利がある。」

四人は、ごくりと唾を飲み込んだ。

やっと、真実を聞ける。いったい、戒厳令まで出して、政府が何を隠したいと思っているのか。

デクスは、話し始めた。

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