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連絡

シエラが打ち込んですぐに、ライナンから返事が来た。

『遅いぞ。昨日から話したい事があって待ってた。昨日ならまだ会って話せたかもしれないが、今は無理だ。兵士達も親もピリピリしてて家から出られない。そっちはどうだ?』

シエラは、返信した。

『こっちはオレは一人だよ。父さんも母さんも今は病院。昨日、神棚に手を合わせる合わせないで父さんと喧嘩して部屋に籠ってたからどっちにしろ会えなかったと思う。何か情報はあるか?』

ライナンは答えた。

『父親が術士じゃなくて兵士だから、家に帰って来ない。母親だけ家に居る。多分交代勤務だから、帰って来られたら母親に話すだろうし、それを盗み聞き出きると思うが、まだ帰って来ないんだ。そっちは、その様子だと何も情報はないな。』

シエラは、通信なのに首を振った。

『何もない。夕方になれば多分、父さんか母さんかどっちかが帰って来ると思うから、もしかしたら何か聞いて来るかも。そしたらまた連絡するよ。』

ライナンは、答えた。

『こっちもコンラートに連絡してるとこだ。あっちはまだ応答がない。もし何か分かったら連絡する。美琴の親父が神殿の清掃のお抱え業者に務めてるから、何か知ってるかもだしな。あっちも家に缶詰めらしいから、親父も仕事に行ってないらしいし、あまり期待はできないけど。それから、このやり取りは毎回消せよ。もし何か確認されたら面倒だから。あれが原因で国全体が厳戒態勢になってるのは確かだし、オレ達はもしかしたら見張られてるかもしれない。用心しろよ。』

シエラは、言われて俄かに緊張した。言われてみたらそうなのだ。あんなことがあって、もしかして故意にやったかもしれないと警戒されて見張られている可能性もあるのだ。

『分かった。すぐに消すよ。』

そうして、通信は終わった。

シエラは、急いでライナンとのやり取りを消しながら、どうして正しい事を知ろうとしているのに、コソコソ隠れていなければならないのだろう、と沸々と怒りが湧き上がって来るのを感じていた。あのデクスが知っている事を、余程知られたくないのだろうと思ってしまう。何しろ、国を挙げて隠そうとしているのだ…あの男が、逃げたというだけで。

シエラは、何とかしてデクスの話を聞かなければと思った。だが、これだけ外に兵士が配置されていると、それもままならない。何しろ、自分はまだ何も術を知らないのだ。

…台座に登れたら、ウラノスに術を聞けるのに。

シエラは、思って眉根を寄せた。今は家を出ることすらままならない。もし遺跡までたどり着けたとしても、そこにも後を片付けようとしている兵士が居るだろう。

前の形のままならいざ知らず、今は底が抜けた状態で、台座は丸見えだ。瓦礫には埋まっているが、無理に登ったとしても、ウラノスが光り輝いて出て来たら、間違いなく皆の注目を浴びてしまうだろう。

どこか、他に台座が無いんだろうか。

シエラは、思って今、消したばかりのライナンのチャットに、急いで書き込んだ。台座は他に無いんだろうか。そこへ行けたら、もしかしてウラノスに何か聞けるんじゃないだろうか。

『台座は他に無いの?コンラートから何か聞いてないか?』

すると、すぐに既読になって、ライナンから返信が来た。

『そうか、お前は刻印がある命だったな。台座って、オレもあの時初めてあれが神を呼び出す台座なんだって聞いたんだが、同じような遺跡があちこちにあるのはコンラートから聞いた事がある。テンレイ山脈の方へ南西に行った所にあるテン、南南西の海岸にある町のミタマニシ。それからヤマト国のタキ高原にある町のタキ、北東の海岸にあるアマハラの四つだ。ここから一番近いのはテンとヤマトのタキだな。』

シエラは、そんなにあるのか、と目を丸くした。だが、ここメグミの郊外にあるあの遺跡よりも、他はかなり遠くにあるようだった。

『他には封印はないって?』

ライナンは答えた。

『他にはあんな封印はされていなくて、誰でも地下へ入り放題で、特に問題もないし、ただ廃れているから崩れるかもしれないから、あまり入らないように、という注意書きはあるらしい。でも、どこでも地元の人達のデートスポットとか、肝試しスポットになっているようだ。』

シエラは、考えた。そこへ行けば…というか、コンラートはもしかしたら、デクスを隠すために、もうそのうちのどこかに行っているかもしれない。

『そこへ行きたいと思っているんだ。もしかしたら、コンラートはデクスが居るし、どこかの遺跡に隠れてるんじゃないかなって思うんだけど。』

ライナンは、それを聞いて食い気味な返事を寄越した。

『そうか、それに気付かなかった!行くならオレも行くぞ。監視されていて身動きが取れないが、何とか抜け道はあるはずだ。考えるから、時間をくれ。あ、これも全部消せよ。じゃあな。』

シエラは、一方的なライナンに眉を寄せたが、願ってもないことなので、それ以上チャットを打つのはやめた。

そうだ、自分で考えて動かなければ何も始まらない。ライナンだっていくらか術を知っているようだったし、それを教えてもらいながら旅をしたらいいんだ。このまま、ここで閉じ込められて監視されたまま、無駄な時を過ごしているなんて、政府の思うツボなんじゃないか。

シエラは、決心していた。抜け出す方法が見つかったら、絶対に街を出て遺跡へ向かおう。

挿絵(By みてみん)

だが、部屋へと帰って壁に貼ってある、地図を見て顔をしかめた。

テン…ミタマニシ…そして、ヤマトのタキ…アマハラ。

テンもタキも、結構な距離があるのだが、しかしミタマニシとアマハラに比べたら、まだ近い方だった。

ここまで行き着くには、かなりの距離を移動しなければならない。バスも今は動いていないだろうし、船も止まっているだろう。

そうなると、移動手段は歩くしかない。

いったい、何日掛かるんだろう。

シエラは、眉を寄せた。そんな距離を歩いて旅などしたことが無い。小学校の修学旅行で行ったのはタクミだったが、アレク大河を船で一直線で、一日で着いた。

中学の時の修学旅行では、ヤマトへ国外旅行だった。メグミから川をトキワ方面へと向かい、さらに首都のタキで一泊してから、タキ高原を越えてマキ山脈へ出て、スキーをした。

ヤマトは、ミマサカより自然が残っているような感じで、おっとりとした雰囲気の国だったのを覚えている。

それでも人口は、ミマサカより50万人ほど多いらしい。

そんな国なら、紛れる事が出来るのでは?そもそも、ヤマトではこんな風に戒厳令が出されていないのではないだろうか。

もし、ヤマトへ入る事が出来たら、タキでもアマハラでもどちらでも行けそうな気がする。

シエラが、思いついた事をライナンに話そうと腕輪を開いた正にその時に、ライナンからのチャットが現れた。

『シエラ、コンラートの居場所が分かった!あの夜の内に、ヤマトへ飛んでタキの郊外にある遺跡の地下神殿へと潜んでいるらしい。あっちはこっちみたいに厳戒態勢じゃなく、何事も無かったような状態らしいから、ヤマトへ行こう!』

シエラは、頷きたいが顔をしかめた。行こうと言って、行ける距離でも状況でもない。

『どうやって?歩くしかないんじゃないのか。』

ライナンからは、少し間があってから、返事が表示された。

『貨物船は動いているようだ。何とか港まで出て、それに乗れたらヤマトに入れるんじゃないかってコンラートが言ってる。』

荷物に潜むのか。

シエラは、ドキドキとして来る胸を押さえた。見つかったらどこへ行こうとしたのか聞かれて、自白の術を掛けられるのではないか。

それに、ここを出て港までどうやって行けば良いんだろう。父親は通りに出ただけで兵士に寄って来られて、病院まで軍の車両で連れて行かれたのだ。扉を出る事自体が今は難しい。

『家を出たらすぐに兵士が寄って来るぞ。父さんがそうだった。軍の車両で病院まで連れて行かれた。』

ライナンから、矢継ぎ早にチャットが入った。

『地下の下水道を通ろう。どこの家の地下からも出ている。方角は真っ直ぐ東だ。腕輪で確認しながら進めば港まで行けるはず。』

『調べたら、夜中の0時ぴったりに出る貨物船がある。それに乗れるようにそれぞれ家を出て港へ向かうんだ。』

『光の魔法の呪文を教える。腕でも髪でもカバンでも良いから光らせて、視界を保て。』

『オレは10時に家を出る。』

もう、決定事項のような感じだ。

シエラは、慌てて送った。

『待てよ、準備もなく旅をするのか?急過ぎないか。』

ライナンからは、怒ったように通信が来た。

『あのな、グズグズしていたら地下道だって兵士に見張られるかもしれないんだぞ!貨物船が動かなくなったらどうやってヤマトへ行くんだ。船無しで大河は渡れないぞ。食料だけ縮めて持てるだけ持って来い。後はオレが持って行く。美琴にも持って来させる。』

シエラは、どんどん進む話に戸惑った。そもそも自分が言い出した事だったが、実際に実行するとなると腰が引けたのだ。

『美琴さんも?じゃあ、オレも誠二を連れて行ってもいいかな。』

誰かに側に居て欲しい。

シエラの甘えに気付いているのかいないのか、ライナンは答えた。

『連れて来い。足手まといにならないなら良い。とにかく早くヤマトへ逃れるんだ。もしかしたら、オレ達がまた城へ呼ばれて、そこから出られなくなる可能性まであるんだからな。』

城へ拘束される…。

シエラは、身震いした。城からなど、絶対に逃げられない。真実があると知っているのに、中身を知らないまま城で年老いて死ぬなんて嫌だ。

『分かった。じゃあオレも10時に家を出る。』

シエラは、思い切ってそう書いた。

ライナンからは、お決まりの文言が返ってきた。

『じゃあ港で落ち合おう。よくカップルが夜景を見に来る脇のレストルームの辺りで。このやり取りは消せよ。じゃあな。』

通信は、それで途切れた。

シエラは、誠二にも連絡した。来ると言ってくれるかどうか不安だったが、誠二も思うところがあったようだ。

すんなりと、状況を聞いて返事が返ってきた。

『行くよ。なんでカイラが死ななきゃならなかったのか、あいつの葬式にすら参列できない状況になんでなってるのか、オレは知りたい。』

シエラは、ハッとした。

そういえば、カイラの葬式の話は聞かない。

誰も家から出られないのだから、身内だけが神殿に行くのを許されているのだとしたら、合点が行く。

『カイラの葬式の話は父さんからも聞いてない。』

誠二は答えた。

『うちは母さんが家に居るから、話は聞いた。今は誰も家から出てはいけないらしい。とても危険な状況だからだそうだ。昨夜が通夜で、今葬式をやってるんだってさ。オレ達には、一言も無しに。』

それを聞いた誠二は、憤っていたのだろう。そこまでして政府が隠したいと思っている事実を、誠二も暴きたいと思っているのだ。

『10時に家を出て西へ。光の魔法の呪文を教える。レストルームの辺りに集合だ。腕輪を見てたら地図で現在地が出るから、地下に居てもだいたい分かるだろう。縮んだて持っていける食料があったら持って来てくれ。後はライナンが持って来る。』

誠二からは、一言、分かった、と返信が来て通信は終わった。

シエラは、誠二でさえしっかりとした意思を持って行こうとしているのに、特別な命だと言われた自分が怖がっていてはいけない、と気を引き締めた。行かなければ…行って、隠された何かを知らなければ!

シエラは、キッチンで親に分からない程度の食料を集め、それを小さくしてポーチに詰め、夜に備えた。

今夜は、親が早く寝てくれる事を心から願った。


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