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聖女判定

 私は今日この日が来ることをずっと覚悟していた。


 聖女判定が行われるのは年に一度、初代聖女の生誕祭の日と決められている。各地の教会で一斉に判定が行われるこの日は国民にとって特別な日だ。王都の大聖堂では貴族の判定が行われることになっている。

 王族の方々も列席され厳かな雰囲気の中、両親の期待を一身に背負った妹が祭壇に上っていく。祭壇の上に置かれた水晶に手をかざすと、眩いほどの光を放ち辺りを真っ白に染め上げた。

 この日、妹は100年ぶりとなる聖女に認定された。


 この国では建国以来聖女の加護によって様々な恩恵を受けてきた。聖女はいついかなる時も国の誉れであり宝であった。10歳を迎えた王国の子供たちは皆、聖女であるかどうかの判定を受けることになっている。6年前の私も両親の期待を背負い大聖堂の祭壇に上がった。だが、水晶が光を放つことはなかった。その瞬間両親の期待は当然のように妹に移った。

 というのも我が侯爵家は初代聖女の血筋を引いており、何代かに一人は聖女を輩出してきた家柄であったからだ。その血筋のお陰で条件付きではあったが第一王子との婚約が幼少の頃に決められた。その条件とは、もし当代に聖女が現れた場合は私との婚約は白紙にするというものだった。

 だが妹が生まれた時、誰もが確信した。妹が聖女であろうことを。何故ならば妹の容姿が初代の聖女に瓜二つだったからだ。そんな妹には初代聖女の名が付けられた。

 それでも私の判定の日まではもしかしたらという期待もあり腫れ物に触るような扱いを受けてきた。だがその期待が破られた時から私の存在は空気になった。

 だから私はずっと妹が10歳を迎える生誕祭の日が来ることを恐れていた。いや、待ち望んでいたのかもしれない。これでポール殿下との仮初の関係に漸く終止符が打てるのだから。


 妹によって水晶が眩い光を放った瞬間、私の隣にいたポール殿下は私の手をぎゅっと握った。これがお別れの合図なのだろう。漸く全て終わりにすることが出来る。私は安堵の吐息を漏らした。



 判定後屋敷に戻った私をお父様は執務室に呼んだ。きっと婚約の話だろう。執務机の前のソファに向かい合わせに座るとお父様が口を開いた。


「やはりカサンドラが聖女であった。今までお前には辛い役目を背負わせてしまった。すまなかった」

「いいえ、お父様。お気になさらないで下さい」

「条件があのままならお前の婚約は白紙になるだろう。だが、案ずることはない。お前の嫁ぎ先は王家が責任をもって探して下さる。もし王家が当てにならなければ私が探してきてやる」

「ありがとうございます」


 父は小さく返事をした私に満足そうに頷いた。





 私が受けていた王太子妃教育は妹のカサンドラが受ける事になるだろう。誰に言われた訳でもないが私は王宮に通うことを止めた。

 何もする事がなくなった私は部屋にこもり気味になったが、それを咎める者はこの侯爵家にはいなかった。そっとしておいてくれる気遣いに感謝する。

 妹が生まれてからというもの妹が聖女認定されるまでの間という暗黙の了解の元に続けてきた殿下との関係を終わりにすることが出来れば、私は呪縛から解放される。

 お父様も仰っていたし、きっと殿下との婚約解消は速やかに進められているだろう。妹の手を取るポール殿下の姿を想像したら胸に痛みを覚えた。

 決して好きになるまいと心に蓋をしてきたのに、今更湧いてきた感情に戸惑いを覚えた。僅か10歳の妹に嫉妬するなど自分は何て浅ましい人間なのだろう。

 私は頭の中の情景を振り払うようにきつく目を閉じた。





 そんなある日、侍女のアンが殿下から先ぶれがあったと伝えにきた。二時間後にはこちらにお見えになると言う。今日はカサンドラの聖女の儀式の打ち合わせで皆出払っている。


「カサンドラ宛ならお断りしないと」

「いいえ、お嬢様宛でございます」


 アンが腰に手を当てて口を尖らせている。私は小さくため息を付いた。


「分かったわ」

「さぁ、お支度を致しましょう。せっかくお美しいのですから綺麗になさらないと」


 久々に張り切るアンに苦笑する。





 玄関ホールでお待ちしていると執事の案内で殿下が入って来られた。久々に見たお顔は相変わらず女性ならば誰しも憧れる美丈夫であった。恭しくカーテシーをした私は殿下をサロンにご案内するとソファを勧めた。


「本日はお越し頂き光栄でございます。皆不在のため私のみのご挨拶で申し訳ございません」

「ケイティ。挨拶などいいからこちらにおいで」


 殿下に愛称を呼ばれて胸が高鳴る。あぁ、いけない。この方を好きになっては……。だが、お側に歩を進めた私は殿下に手を引かれて倒れ込むように抱き留められた。


「私のケイティ。会いたかった」


 会いたい? 耳元で囁かれた言葉に困惑する。これまで殿下と私は割り切った関係だった。甘い言葉を口にするようなことは1度足りとて無かったのに今になって何故……。


「殿下?」

「殿下じゃないポールだ」


 そう言われた殿下は私に回していた腕を更に強めた。服の上からでも殿下の体温が感じられて顔が熱くなる。


「ポール様」

「ケイティ。来るのが遅くなってすまない。何も心配は要らないよ。大丈夫、全て私に任せてくれ」


 私の髪を撫でながら話す殿下。本当にあのポール殿下なのだろうか? 今までとあまりにも違う態度に戸惑いつつも、先程からドクドクと音を立てている胸の鼓動が、殿下に伝わってしまうのではないかとハラハラする。何をどうお任せするのか正直よく分からなかったが、私はこくりと頷いた。

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