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Remain  作者: 安達ユウヘイ
1/1

Suicide Club

不定期に投稿します。

主に登場人物の会話ばかりです。

「皆様、こんばんは」


 広い屋敷、赤の絨毯。やけに雰囲気がホラー映画チックで落ち着いていられない。部屋は暗く、照明も自分の前にろうそくが一つ、寂しく明かりを作っている。




「今日はお集まりいただきましてありがとうございます」




 円卓のテーブルで隣の人との感覚が大きい。手を広げてもぶつかることはない。テーブルには男3人、女2人。そして1人異様な雰囲気を醸し出している男がテーブルの中央に立っている。このクラブの主催者だろう。テーブルの前に座っているのは女性であることはわかるが、顔のつくりまでははっきりとはわからなかった。主催者の顔もわからない。




「ここのルールは、先日お送りしたはがきに書いている通りです。他言無用の自殺クラブへようこそ」


 私の名前は緒方。そう、ここは自殺クラブ。死にたい人々が集まる場所。これを見つけたのは偶然にも本屋だった。行きつけの本屋の裏道。そこに貼られていた。




「死にたい人。ご連絡を」


 080から始まる電話にかけてみたところ、男の声が流れた。今思い出したが、この主催者の声だった。


「もしもし」と低い声を聞くと、「あの死にたいんですが」と狂ったことを言った。ただ、それに対しごく当たり前のように、




「わかりました。住所を教えてください」と言われ、そのまま住所を教えた。もう、個人情報だ何だより、死にたさを選んだのだ。


「改めてルールを確認しましょう。名前も知らない人が個々に集まっています。ここにいるのは合計で、ええ、私も含めて6人ですね。本来ならもう1人いらっしゃる予定だったのですが・・・致し方ないですね」




 死ぬのが怖くなったのだろう。そんなやつはこんなところに来る必要などない。もうここにいるのは、決心がついた人間だけなのだから。




「今、眼の前にある、ワイングラス。中に毒が入ったワインを予め準備させていただきました。時間になったら皆で飲み、死ぬのです」




 ただ、ここで私は怖くなり始めていた。明るさのせいだろうか、雰囲気のせいだろうか。


 携帯電話が揺れたような気がした。携帯電話が「明」を表しているような気がした。




 あいつからか?「俺、今日死ぬから」なんて格好つける文章を送り、興味を惹かせようとしたから返事が来たのだろうか。もうそんなのは必要ない。


「ただ、一つ。毒ではなく、睡眠薬が入っています。それを当てた方は恐縮ですが、死体の処理をお願いしたいと思います。そして、その方は一ヶ月後の自殺クラブの主催者となるのです」




 周りの人間は主催者に頷くわけでもなく、ヤジを飛ばすわけでもない。手が震えている・・・グラスの中の液体がチャプチャプと音をたてるまで動き回っている。


「ではお時間のようです。皆様、グラスを持って」


 男女6人がグラスを持ち、高く上げた。




「乾杯」


 主催者の冷たい声とともに一気に静けさが包む。


 静かにグラスを口に寄せ、液体を飲み込む。


 少し時間が経っただろうか。何秒?何分?もうわからない。眠気が来た。


 毒、睡眠薬、どちらなのかは次でわかるはずだ。




____


 私はハズレを引いたようだ。起きてしまったのだ。眼の前にあったろうそくはもう半分以上減っている。




「ああ、やってしまった」


 誰に聞かれるわけでもないのにこの状況に絶望した。




「やばい。やばいぞ・・・」


 周りを見渡す。うつ伏せのまま、眠っているような男、力がなくなったせいか、床に倒れている女。


 今から私は『こいつら』を処分しないといけない。




「主催者は、俺か」


 一気に現実味を帯び始めた。


「落ち着くためには、座るか・・・ああどうしよう」


 死体なんて処理したことなんて、もちろん一度もない。独り言が増える。




「簡単に死のうなんて、思わなければ・・・」


 その時、ドンドンと扉から音が鳴った。思わず、椅子から立ち上がり、扉の方を見た。ドンドンとまた鳴った。




 警察か?でもここは山奥だ。人の出入りなどわからないはずの場所。でも、近くに公園がある。そこの関係者?わからない。最近公園がテレビに映っていた。ニュース?マスコミ?もうわからない。




 ドンドン。まだ誰かいる。


「誰ですか」


 状況を打破するために、見えない来訪者に聞いた。


 扉が、キィと音をたてながら開いていく。


 そこには、ボサボサの髪をした、男がいた。




「あのぉ、すぃません」


 雰囲気にあっていない。


「え、あの、え」


「予約をしている石田です」


「いやいや、予約って」


「遅れて、申し訳ありません。もう午後の部終わりました?」


「いやあのそういうのじゃないんですよ」


「終わってるかぁ」


「聞いてる?ね。聞いてる?あと石田さん?これ名前言っちゃいけないルールなんですよ」


「ああ、そうなんですか。私、初参加なもんで」


「そうですよね。普通は初参加で終了ですからね、あまり連続で参加するようなもんじゃないですからね」


 石田と言った、目の前の男はやっとこの状況に気づいたのか、顔色を強張せた。




 倒れている人間を見て、それを指した。


「え、皆さん、死んでるんですか」


「ええ、私1人だけハズレを引いたんです」


「いいなぁ、僕も仕事休んで来ればよかったなぁ」


「何、死ぬ前に仕事してんですか」


「引き継ぎがうまくいかなくって」


「未練タラタラじゃねぇか。仕事、ちょっと投げ出すと迷惑だろうなって思ってんじゃん」




___


「皆さんの死体、どうするんですか」


 問題はそれだ、死体をどう処理するかだ。焼く?粉々にする?思いつかない。下手をすれば、殺人で逮捕だってありえる。




「そこが問題なんです。幸いここは山奥。埋めるしか・・・それか海にドボンと」


 石田は、ええそんなと言った。


「仕方がない。もう参加したからには」


「だめですよぉ。殺人なんて」


「あのこれ自殺クラブですから。あんた、どうしたもんか、よくわかってないね」


 石田は頭を掻いて、いやぁと笑った。




「いいですか。ここにいるのは何らかの理由で死にたい奴らばかりだ。そして、私もその1人」


「え、格好つけですか」


「なんなのさっきから。いいじゃん。ちょっとドラマの主人公ぽくやらせてよ!」


「あの、私、石田も死にたい理由、ありますからぁ」


「鼻につく。その言い方。鼻につく」


「理由、ありますから。ビコーズです」




 終始、鼻につく。


「で、死にたい理由はなんですか」


 石田は目線を下げた。はぁとため息を付き、また顔を上げた。


「あまり話したくはないのですが・・・」


「何でしょう」


「親に自慰行為を見られました」


「しょうもね。普通にしょうもね」


「私のビックマグナムを見られました」


「死のうとしてた人間が股間自慢するんじゃないよ」




___


「それにしても参った・・・」


「どうしました?」


 石田が聞いてきた。聞いてくる顔も鼻につく。




「いや、死体の処理だけでなく、一ヶ月後に自殺クラブを開催しないといけない」


「ああ、じゃあ私、一番乗り」


「いやあの、予約制じゃないんですよ。まあ、予約制なんですけどね」


「ほら美容室とかだとすぐ人気の人だと予約できないから」


「自殺クラブですからね。これ。あとナチュラルに一番乗りって言っちゃだめだから」




 私は思わず、はぁとため息を付いた。これからずっと『死』を意識していかないといけない。


「次の自殺クラブは、私が主催者です」


「そんな」


 石田はショックを受けたような顔をした。いや、はがきに書いとったやろがい。




「でも、この機会でわかった気がします。私は生きたいと」


「なるほど。なぜ、このクラブに参加したんですか」


 石田は真剣な顔で聞いてきた。




「しょうもないことですよ。借金です」


「借金・・・いくらですか」


「4000万です。友人に騙されて・・・。仕事もきつい、いつまで経っても終わらない返済。そして、見つけたんです。このクラブを」




「考えましょう」


 石田ははっきりと大きな声で言った。


「石田さん・・・そこまで考えて」


「このクラブを発展させる方法」


「聞いてた一連の話」


「日本、いや世界一の自殺クラブを目指しましょう」


「とんでもねぇ。あと、俺恥ずかしいじゃん。黄昏て『生きたい』って」


「はい、鼻につく感じでした」


「てめぇなんだ」


「あと臭い感じ」


「何が臭いだ」




___


 石田がカバンからスマートフォンを取り出した。


「最近はスマートフォンとSNSが発展してますからね。ツイッター、フェイスブック、インスタグラム。死んだ人間の写真をインスタグラムで上げればいいんですよ」




「恐ろしい。世紀末のSNS感半端じゃない」


「インスタ映えとかどうですか」


「死体にはハエがたかることはあるかもしれませんけどね」




 死体がゴロゴロある部屋でそんなインスタグラムなど恐ろしくて寒気がする。絶対に幽霊が出ていいねをもらう。


「フェイスブックとかだと本名でやり取り出来ますからね」


「このクラブの醍醐味、全消しじゃねぇか。匿名性が一番いいところでしょ。SNSなんてだめですよ」


「ツイッターのアカウント持ってます。ちなみに私、石田は持ってます」


「まあ・・・一応。持ってはいますけど」


「フォローしてもらっていいですか」


「何ついでにフォローしてもらおうとしてんだ」


「いいじゃないですか。お願いしますよ。私フォロワー11人しかいないんですよ」


「懇願すんな。ひっつくな。もっと重要な場面で懇願しろ」


「フォローしてくれなかったから自殺したと遺書に書きます」


「脅しじゃん。ナチュラルに脅してきてんじゃん」




___


 石田は腕を組んで、うーむと唸りながらクラブの発展を考えた。


「やっぱり服装ですかね。明るい服とか。それだとインスタ映えしますもんね」


「いやいや、見なさいよ。みんな私服。あなただけですよ。スーツなの」




 石田は周りを見渡す。ジャージで来ているもの。何らかのキャラクターのティシャツを着たものいろいろだ。


「そういうもんですかねぇ。私だったら黒いマントを着て、参加者の前に出ていきますね」


「楽しんでんじゃないよ。こっちは切羽詰まった状態なんだよ」


「こうマントを広げて、『吾輩は猫である』」


「なんで夏目漱石なんだよ。名作を駆り出すんじゃないよ」


「悪の組織っぽくないですか。『吾輩は猫である。名前はまだない!』」


「ばか、ご主人に名付けてもらいなさい」




 そうですかぁ?と石田はまた腕を組んで考え始めた。


「もういいです。辞めます。自殺クラブ、終了」


「え!どうしてですか」


「どんだけ驚いてんだよ」


「じゃあ、私はどうやって死ねば」


「じゃあ、あんたがやりなさいよ。主催者の権利やっからよ」


「待ってくださいよ」


 石田の声かけも気にせず、カバンを持って部屋を出る。そこで石田に声を掛けられる。




「じゃあ、最後、お願いが」


「・・・なんです」


「ツイッターフォローしてください」


「しねぇよ」

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