出会い④
「被告人、匹見ヒキヤを強制わいせつ罪により懲役20年の刑に処す!」
裁判長は判決を下した。冷酷に、そして冷徹に。
恐ろしいほど静寂に包まれた法廷内。そんな中、俺は言葉を失っていた。
今にして思えばあまりにも唐突な出来事だった気がする。
硬直してしまった首の筋肉をめいっぱい曲げて、俺は後ろへと振り返った。そこには涙を流しながら傍聴席に座る家族の姿があった。
親父、そしてお袋。ももちに至っては涙や鼻水やらで顔がくしゃくしゃになってしまっている。
ここで始めて俺は気付いてしまった。
自分の犯した過ちの重さ。無責任さ。無秩序さ。
そのどれもが言い表しようのない深淵となって、俺を闇の底へとゆっくりと、またゆっくりと引きずり込んでいった――。
「――見、おい匹見!」
「え……?」
視界の真ん中に橘先生がいた。
俺はあたりを見渡す。そしてここが職員室だと認識する。
「裁…判……長は?」
「裁判長? 匹見、お前は一体何を言っているんだ? いきなり大声で叫び出すから、これにはさすがの私も驚いたぞ」
「え、でも確かに俺は強制わいせつ罪により懲役20年って裁判長から……」
「プッ、あははははは!!!!!!」
俺の真横で転げんとばかりに爆笑する城ヶ崎。
笑いすぎて咽せたらしく嗚咽までし出す。
その城ヶ崎を見て橘先生はやれやれと肩を落とした。
どうやら俺が今見た情景は被害妄想によって生み出された幻覚だったらしい。
あまりに鮮明すぎて自分でも幻だと信じられない。
「城ヶ崎よ、タチの悪い冗談はするものではないぞ。匹見はこう見えて中々ピュアな心の持ち主なんだ。あまりイジメないでやってくれ」
「はぁーい。あ、でもパンツ見られたのは本当ですからね?」
「……匹見お前」
「ちょ、待ってくれ先生! 俺は無実だ!」
先生の俺を見る目が若干死んでいる。
「はいはいヒッキーは黙ってて黙ってて」
「この状況ではい分かりましたっつって黙れる奴がいるならそいつはもう人間じゃねえぞ! つかヒッキーて誰だよ、まさか俺か……?」
「橘先生ちょっとお話があります」
「おい無視すんな!」
俺という存在を完全否定した城ヶ崎の目は真っ直ぐに橘先生を射抜いていた。
それは横でギャーギャー騒ぐ俺が馬鹿らしく思えるほど真剣な眼差しだった。
「橘先生はこの菟月高校の部活動委員会の副会長も兼任していますよね?」
「あぁそうだが。それがどうした?」
「私が今日ここに来たのは他でもありません。橘先生に新しい部の開設の申請をしに来ました。そして橘先生にはその部の顧問になってもらおうと思います」
「なるほどな。確かにこの菟月高校で新規の部を立ち上げたいとなると副会長以上の権力者、つまり私か、会長であり校長でもある――君の親に話を通さないとまず実現不可能だな。まぁあの人がそれを許すとは思えないが。実際はどうだったんだ?」
「……あいつは関係ないです」
初耳だ。まさかこんな奴の親がこの高校の校長とは人生何が待ってるか分からねえ。
「実の親をあいつ呼ばわりとは。残念だがその要求には応えられないな」
「どうしてですか!」
橘先生の一言によって職員室の空気が険悪な雰囲気へと一変した。
数人の教師がちらちらとこちらを伺っている。揉め事なら他所でやってくれとでも言いたげだ。もちろん俺も同じ気持ちだ。
そんなことなど御構い無しに橘先生はまたもやタバコに火を付け一服し出す。
未成年の前でこうも堂々と喫煙する人物が教師とは俺には心底思えない。
「部の開設には条件が3つあるのだよ。1つ目は願書の提出。2つ目は複数の生徒による声明」
「なぁんだ簡単じゃん」
「早計だな、私は3つあると言ったはずだぞ。まぁ言わずとも一番厄介なのが3つ目だ。それはだな、3人以上の教師による推薦だ」
「さ、3人……」
詰んだな。こればかりは俺にでも分かる。
親が校長でしかも部の開設に反対だったってことは、その下で働く教師が許可など出すはずがない。左遷という未来が待ってるに他ならないからだ。
かつて俺の親がそうだったように。
遠い昔の記憶に触れ、柄にもなくつい握り拳に力が入ってしまった。