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出会い②

 ところでだ、俺はどうして放課後、職員室なんかに呼び出されてるんだ。


「あの、もう帰っていいですか?」

「駄目だ」

「…………」


 俺はてっきり今朝のことを他の生徒がチクって呼び出されたのかと思っていたが、どうやら別件らしい。


 いや、別件なんて回りくどい言い方はやめだ。もはや俺自身察しはついている。


「何度言われても作りませんから、友達なんて」

「もう一度考え直せ匹見。今ならまだ間に合うぞ」


 橘先生はそう言うと、タバコに火をつけ喫煙しだした。

 いくら職員室が喫煙OKとはいえ、こう生徒の前で堂々とタバコを吸う行為はどうかと思う。


 つか副流煙がクセぇ……。

 あからさまに嫌な顔をしてやるが御構い無しのご様子だ。


 このロクでもない教師――橘先生の本名は橘 ユラギ。女教師で29歳独身。そして俺の担任の先生だ。


 来年で三十路を迎える訳だが、あまりにも闇が深すぎるのでここでは触れないでおく。

 容姿端麗なのにどうして毎度の合コンに失敗するのか。いつか聞いてみたいものだ。殺されないのなら。


「……7年。これは私が教師になってからの年数だ。その中で匹見、お前のような奴も幾人か見てきた。そしてそいつらは卒業後、あるいは在学中に人知れずみんな自殺してしまった訳だが」

「おいやめろ。あいや、やめてください」

「なぁ匹見。何故私がここまで君のことを心配しているか分かるか?」


 俺に訊かれても皆目見当もつかん。

 なので仕方なく黙っておくことにした。


 橘先生は自前の銀色の灰皿の中で喫いかけのタバコをすり潰した。

 灰皿の表面には何本も擦り付けた形跡があって、もちろんタバコの残骸がひしめき合っていた。


「匹見、君の目は死んでいるのだよ」

「堂々と言ってくれますねオイ。確かに俺の目は死んでる。自分で言ってて少し悲しいですけど、でも誰かに迷惑をかけてる訳じゃないしよくないですか?」

「いい加減分かってくれ。私はな、その歳でそんな目をしている子供を放っておけるほど薄情者ではないのだよ。ましてや私は君の担任の教師だ。高校1年のこの時期に友達の1人や2人作っておかないとこのままズルズル引きずって、結果1人も友達ができないまま高校を卒業。最悪人生を卒業することにもなりかねんぞ」

「……俺の青春は俺で決めますよ。橘先生も俺なんかの心配より婚活の方に力を入れたほうが」

「ん?お前今なんつった?」

「何も言ってません」


 やはりこの闇はどこまでも深いようだ。

 職員室を後にした俺はいつも通り1人で帰宅した。


 家に帰ると、先に帰っていた妹がリビングのソファーで悠々自適に寛いでいた。


「あ、お兄ちゃんおかえり〜。そろそろ仲のいい友達1人くらいはできた?」


 妹の名前は匹見 百道(ももち)。14歳。俺の2こ下で、中学2年生だ。容姿はまぁそこそこ良い方だと思うが、こいつも性格に難ありだ。


 ももちは中学の体操服の上着であるジャージを上下に着ていた。これは俺の影響だ。

 中学の頃は俺も家の中ではジャージを着ていたので、妹もそれを真似して今ではすっかり部屋着=ジャージに染まってしまった。


 ……ちょっと待ってくれ。俺は一体いつから実の妹からも人間関係で心配される痛い兄に成り下がってしまったんだ?


 俺ってそんなに友達いなさそうなオーラ出てるのだろうか。まぁ、別にそれはそれでいいんだがな。実際いねえし。


 とりあえず妹に心配されると家の中ですら肩身がせまいので適当な嘘をついておく。


「馬鹿言え。俺くらいの人間になればもう10人はいるっつーの。対人コミュ力マックスの俺を舐めんなよ」


 言ってて死にたくなる。


「ふーん。そっか、ならいいんだけど。ももちはお兄ちゃんのことが心配で心配で堪らないんだよ? ほら、お兄ちゃんってどうしようもないくらい死んだ目してるでしょ? そのくせ性格は人一倍捻くれてるから友達なんて出来るのかなぁ〜なんて思ってたけど、意外とそうでもないっぽいし、ももち安心したよ!」

「おう!」


 今度こいつの好きなプリンでも勝手に食っといてやろう。

 しばらくすると共働きの両親も帰ってきて、親父とお袋、俺とももち、いつものように家族4人で食卓を囲みながら晩御飯を済ませた。


 我が家の食卓は家族4人揃ってが当たり前なので、必然的に晩御飯は10時くらいになってしまう。

 お袋が作れない時はももちが代わりに台所に立って包丁を握る。


 ちなみに俺は料理がまるで駄目だ。前に一度ももちに教わったが、「お兄ちゃんって料理の才能のカケラもないねぇ〜」の一言以来挫折した。

 それっきり包丁は握っていない。かれこれ1年以上も前の話だ。


 両親がいない間の家事は俺とももちで分担している。

 今日は俺が先に風呂を洗ったので一番に入らせてもらって、今は2階の自室のベッドに横になっていた。


「やることといえばあとは寝るくらいか……」


 部屋の明かりも消した真っ暗闇の中、ふとあいつの顔が浮かんできた。今朝ぶつかった女の子だ。

 だが女の子の顔はすぐに暗闇へとかき消え、代わりにパンダがお出ましときた。


 あのパンツも中々エロかったが、その両端に構えられた双方の健康的な太ももがより官能的であった。


 あの時は意識がそこまでいかなかったが、こうして一人になるとより鮮明に思い出すことができる。


 何故だろうか。彼女とはまたすぐに会いそうな気がしてならない。ささやかな不安を抱きつつ俺はゆっくりと眠りに入っていった。

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