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「つまりこれがそうなの?」

「……うん」


最終確認と言わんばかりに真剣な眼差しで黒葛原が言った。

城ヶ崎はおどおどとぎこちなく返事する。

放課後、俺たちは3人揃って部室にいた。


いつもの長机の中央には、ズドンと偉そうにジャイアントパン君が居座っていた。


先日の土曜日、城ヶ崎から俺へ初の電話がきたのだがーーというより電話番号など教えた記憶はないが。とにかく、それすらもどうでもいいと思えるほど内容が驚愕ものだった。

ニュースキャスターのお姉さんが言っていた例の最終ロットが目の前にあるまさにこのジャイアントパン君なのだ。俺も正直まだ信じきれていない。


「お、おい。ちょっと貸してくれ」


はい、と城ヶ崎がジャイアントパン君を俺に渡してくれた。意外に重い。


「丁寧かつ丁重に扱いなさいね。あなたの指紋が付くことで価値が下がることは不可避なのだから」


こんな時ですらしっかりと憎まれ口を叩いてくる黒葛原。

いつもならイラッとするが、しかし今はどうでもいい。


改めて観ると、ふっくらとした頰につぶらな瞳が可愛い。

これは確かに老若男女問わず人気が出るわけだ。

俺はジャイアントパン君の背中にあるチャックに手をかけ、ゆっくりと開けていく。中に手を突っ込むと、ふわふわもふもふが俺の手をあらゆる方向から包み込む。なんだかエロく聞こえるが気にしないでほしい。


やがて指先に封筒のような感触が伝わる。俺はそれを掴みそっと取り出す。

中から出てきたのは、製造番号80と書かれたーーいわゆるギャランティカードが出てきた。


それと一緒に白い封筒も出てきた。これが本命だ。

と、ここまできて俺は封筒を城ヶ崎へと手渡す。


「悪いな。これを開ける権利があるのはお前だったな」

「あ、うん。ありがとヒッキー」


城ヶ崎は綺麗な指で慎重に封筒の封を切っていく。

手が震えているのが遠目でも分かる。たぶん緊張しているのだろう。


スッとそれは姿を現した。


「「「……!」」」


満場一致で声にならない驚きが空気に広がった。


「な、南国リゾート一泊2日の旅、4名様招待券……!」


神々しいチケットのタイトルを城ヶ崎はなんとか読みきった。

期間は再来週のちょうどゴールデンウィークのど真ん中だ。

南国リゾートとはももちが言っていた例の離島のことだろう。1年先まで予約で詰まってるとかなんとか。値段までは知らないが相当高いはずだ。

俺は思い切って気になってたことを城ヶ崎へ訊いた。


「それ、もちろん家族で行くんだよな?」

「な、何を言ってるの匹見君。そんなの当たり前でしょ?」


城ヶ崎に聞いたにも関わらず黒葛原が答えてきた。

声が上ずっているのが楽々と分かった。まあこれに関しては仕方ないだろう。気持ちは分かる。

城ヶ崎はチケットを机の上にそっと優しく置いた。


「ううん、これはみんなと行きたいかな……」


この場合のみんなとはどっちだ。

お助け部の俺と黒葛原のことなのか?それとも、登校中のバスで見た城ヶ崎の友達か?

聞こうにも聞けない内容だったので黙っていると。


「失礼するぞー。君たち元気にしているか?」

「先生こんな時に何の用ですか?」

「まあそう言うな。ちょっと様子を見にきただけだ」


ノックもなしに入ってきたのはこの部の顧問である橘先生だった。

黒葛原からの早速の先制を華麗に受け流した。黒葛原は誰にでも攻撃的らしい。


「しかし3人揃っているとは部活熱心なことだな。……む、その机に乗ってるやたらデカいパンダは何だ?」

「えー、橘先生パン君知らないんですか?」

「パン君?そのぬいぐるみのことか?悪いが知らないな。……ん、ついでに横にあるチケットは何だ?どれどれ南国リゾート一泊2日の旅……」


橘先生は先ほどの城ヶ崎と同じようにタイトルを読み上げていく。しかし何だか様子がおかしい。固まったままピクリともしなくなる。

俺たちはただただどうしたんだ?と見つめるしかない。

いっときの沈黙の後、橘先生はようやく口を開いた。


「お前たちの中にいるんだろう?この旅行券の所有者は誰だ?」


怖い!なんか怖いぞ!

つか目がなんかヤバい!


「わ、私ですけど……。この間買ったそのパン君の特典についてたんです。それより先生どうしちゃったんですか?」

「いくらだ……?」

「「「は?」」」


俺たちは声が重なった。

意味が分からない。

橘先生はバン、と旅行券を机の上に叩きつけると。


「だからいくらで売ってくれると言っているんだよ私は!」


堂々と生徒の所有物をカネで買い取ろうとする教師を前に俺は唖然とするばかりだった。

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