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ジャイアントパン君 旅行編


俺は闇夜の中にいた。

唯一の光は雲が流されて時折届く月明かりくらいだ。

木々の葉が絶え間なく揺れ、不気味なさざめきが大気に響いていた。心なしか肌寒い。


俺の浅い知識によれば人間には五感が備わっていて、その中でも最も重要な役割を担うのが視覚らしい。だが一旦それが奪われると、人間は本能的に他の感覚で補おうとするらしい。


それは生きる上でもちろん不可欠だが、この瞬間だけは余計なお世話としか言いようがねえ。

喉元に生温かい吐息があたり俺は思わずゾクッとしてしまう。


「つ、黒葛原近えって……」

「…………」


返事はない。

聞こえてるはずだが、やはり今の彼女に余裕はなさそうだ。

黒葛原は両手を猫のように合わせ俺の胸板へと強く押し当てていた。

その肩は小刻みに震えていて、普段の気強い彼女からは想像もつかないくらい弱々しい姿がそこにはあった。


俺は、否ーー俺たちは誰かさんの提案により仕方なく肝試しという青春感満載のイベントを余儀なくされているのだ。

俺の肩の服を肌身離さず握る彼女、黒葛原はお化けというものが大の苦手らしい。

そのことをついさっき知った訳だが。


「離れたら…………殺すわよ」

「こ、怖えよ。つか分かったからそんなひっつくな歩きずれえ。俺がみんなのとこまで一緒に戻ってやるから少しの間辛抱しろ」


少しずつだが暗闇に目が慣れてくる。

ぼんやりとした視界が徐々にその鮮明を帯びていき、俺の目によろしくない光景を与えた。


「ぬぁ……?!」


黒葛原の谷間が真横に覗いた。上パイだ。風呂上がり特有のすべすべな肌が暗がりでも視認できる。暗くてもそこだけほんのりと柔らかな光があるかのような色白さだ。

彼女は浴衣姿をしていて、動きすぎたせいで腰布が緩くなってしまっていた。たぶん本人は気付いていない。恐怖でそれどころじゃないはずだ。

緩くなってるぞと、本人に伝えるべきか迷ったが、黒葛原には普段の恨みがあるので言わないでおくことにした。


……つか、この角度はマズイだろぉーー!


俺は右手を使い太ももの皮を本気で摘んでやった。

激痛でなんとか自制心を保つことに成功する。


目を泳がせながらもなるべく下は見ないようにした。

どうして俺は好きでもない女の子ーー黒葛原の胸なんぞ見なくてはいけねえのか。


そもそも何でこうなった?俺の置かれている状況ははっきり言って好ましくない。

こんな状況が作られたのはいくつかの要因が重なってできたのだ。

全ての始まりはあの時からだろう。

濃い闇の中、俺は黒葛原と歩きながら2週間前のことを思い出していた。





この間の並木さんの依頼以来、「お助け部」には全くもって音沙汰なしだ。依頼のいの字もない。俺の場合だと放課後になったら部室に行って、黒葛原と城ヶ崎に適当な挨拶をして、後はラノベでも読んで下校時間がくればそそくさと帰る。最近これの繰り返しだ。

そもそも「お助け部」の知名度など無いに等しいのだ。一ヶ月に一人依頼者が現れればいいくらいじゃないだろうか。


というわけで今日は土曜日。言わずもがな俺にとって至福の一日だ。

友達なんていないので無理に人付き合いをする必要もなし。これぞ真の自由だ。

なので俺は、午前中からリビングでテレビを見ながらソファーに寝転がっていた。

だが気になる点が一つだけある。先ほどからある人物の視線を痛いほど感じるのだ。


「何だよももち。とうとう俺に惚れてしまったのか?」

「なー訳ないでしょ。はぁ〜、やっぱりお兄ちゃん友達いないじゃん」


土曜の午前中にリビングで寛いでた=友達いない、は極論すぎやしねぇか。


「そういうお前だって現在進行形で俺と同じ境遇だろ」

「ももちをお兄ちゃんと同類に見るのだけはやめてよね。ちゃんと午後から友達と遊ぶ約束あるし」


そんな真顔で言われるとさすがに傷付くお兄ちゃんなのだが。

ももちは深いため息を吐くと、俺へと歩み寄り足を蹴ってきた。


「この前言ってた友達10人出来たって絶対嘘だよねえ?ももちは本気でお兄ちゃんのこと心配してんだかんね?せめて土日くらいは真っ当な高校生として友達と休日を過ごしてほしいんだよぉ」

ももちは親にも言われたことがない台詞を吐いて哀しげな目で俺を見つめる。

余計悲しくなるので今すぐその目をやめてくれ。

俺は妹と目を合わせるのが嫌になりテレビ画面へと目を逸らした。


「あ、このニュースキャスターけっこう可愛いよな。なぁももち?」

「お兄ちゃんってばそんなんでももちの追撃から逃げられると思ってんの?ん、どれどれ……た、確かに可愛い」

「だろ?」


別にももちを納得させたからといって、画面に映るニュースキャスターのお姉さんが俺の彼女になるわけでもないが、それでもももちを納得させた優越感は否めない。

そのお姉さんがとびきりの笑顔でニュースを読み上げていく。


「それでは続いてのニュースです。今人気爆発中のマスコットキャラ、パン君の話題です!パン君はその見た目の愛くるしさに発売以来、老若男女問わず物凄い人気で、つい先日まで販売されていた限定品ジャイアントパン君が完売したとのことです。しかもなんと限定品とあってその特典も豪華なんです!パン君製作会社の社長さんによると、製造ナンバー80が最終ロットで、最後の一体にはお腹の中に無人島1泊2日の豪華旅行券が入っているとのことです!」


俺はニュースを聞きながらあの時のことを思い出していた。

駅の売店で城ヶ崎と黒葛原がじゃんけんをして見事城ヶ崎が勝利しめパン君をゲットしたときだ。今更だが黒葛原がちょっと可哀想に思えてきてしまった。

あれ以来部室で毎日会うものの特に本人も触れないので暗黙の了解として俺も黙っていた。


「あーぁーももちもこのジャイアントパン君欲しかったなあ。色んなとこ探し回ったけど結局一個もなかったんだよねえ。しかもこの無人島ってめちゃくちゃ人気のリゾート地じゃん!確か1年先まで予約が埋まってるとか」

「おいまじか!そりゃすげーな。つかなんだももち、お前もこの訳の分からんぬいぐるみが欲しいってのか?」

「友達いないお兄ちゃんにはパン君の良さは分からないよ。それより早くパン君に謝って!早く謝って!」


ドンドンと俺の足をサンドバックみたく蹴ってくる妹。

もはやウザくて仕方がない。

そろそろももちにキレようかと思ったら、テーブルに置いていた俺の携帯がけたたましく震えた。


「あ?誰からだ?」

「ほぇ?お兄ちゃんまさか本当に友達いんの?」


見知らぬ番号が表示されている。俺は一瞬だけ出るのに躊躇したが構うかと電話に出てやった。


「ヒッキーッッッッ!!!!!!やったぁぁぁあああ!!!!!!!」


俺は耳の鼓膜が破れたかと思った。

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