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学校が終わり放課後がやってきた。

俺は急いで校舎を出て作戦決行の場所へと向かう。


先日並木さんに俺が話した内容はこうだ。

まず城ヶ崎と黒葛原に、俺は今日家の用事があって部活には来れないことにする。これはすでに伝えているので問題ない。そして並木さんのストーカー犯捜しはあの2人だけにやってもらう。


俺が事前に並木さんと待ち合わせしている場所は柊高校からそう遠くないところに位置する公園。この公園は木々に囲まれていて人通りの少なさで有名なのだ。


俺は鞄からフェイスマスクを取り出す。

なんか家にあったのでとりあえず持ってきたのはいいものの……。


「これは不審者というかもはや強盗犯が被るやつだな。チョイス間違えたか?」


全て黒色で目と口の部分だけ切り取られている。去年のクリスマスパーティーで使ったものだ。妹のももちが。勿論俺にはクリスマスパーティーを祝う友達なんていないのでこれを買うやつの気が知れない。


話が脱線したが山場はここからだ。

並木さんの後を尾行する2人に、あえて俺は見つかるのだ。

ストーカー犯がついに並木さんに襲いかかろうとする絶対にあってはならないシチュエーションで。そうすれば誰の目からも俺は不審者……というか変質者に映るはずだ。当然あの2人にも。


そこを城ヶ崎と黒葛原に阻止、正確には捕まえてもらう。

この並木さんのストーカー犯の正体は俺ということにするのだ。


これで並木さんのストーカー犯は俺という形で実在し依頼は完遂ということになる。

もちろんその代償に俺の社会的地位は失われる……。おそらく「お助け部」にはもう戻れない。


「……まぁ、いいんだけどな」


元々俺は部活なんかに入る気はなかったんだ。さすがに高校退学にはなるまい。停学はありそうだが。それでも、ことが済めば穏便な学校生活が待ってるはずだ。俺の望んでいた青春が。





予定より30分も遅れて並木さんは現れた。彼女の後方には城ヶ崎と黒葛原の姿も見える。

その様子を俺は木々の隙間から目視する。

まさかとは思うがあれで尾行しているつもりらしい。あの中に俺が混じっていたと思うと滑稽でならない。


俺はマスクを深く被り気合いを入れた。何に対する気合いかは自分でもよく分からねぇが。

周りに人がいないことも確認する。よし、大丈夫だ。こんなところを第三者に見られては困る。

やがて並木さんがすぐそこまでやってくる。

今だーー!

俺は飛び出した。


「きゃ!?だ、誰!」


突然の俺という顔面マスク姿の不審者登場に困惑する並木さん。だがもちろんこれは彼女の演技だ。俺はとりあえずお決まりの台詞を言ってやった。


「ぐへへへ、もう我慢ならん。今日この場で愛しの君を美味しく召し上がるとしようか」


なんだこれ……?

自分で言っててとにかく恥ずかしい。

両手を挙げ、襲いかかるぞ?のポーズでゆっくりと並木さんへと歩み寄る。

彼女も打ち合わせ通り後ろに後ずさる。いいぞいいシチュだ。

さぁ城ヶ崎、黒葛原早く止めに来い!でないと羞恥心で先に俺がくたばっちまう!


だがいつまで経っても2人の姿は現れない。

おかしい、この状況下で並木さんを助けないなどあり得ない。

ちらりと彼女の後方へ目をやると2人はいた。木陰から顔だけひょっこり出していた。


何で来ねぇんだよ!?


「ちょ、並木さん。この場合はどうすれば……!」


小声で助けを乞う。

すると彼女はーー。


「ごめんね匹見君」


悲しげな表情で並木さんは俺に謝った。それが合図らしく。


「こんにちは不審者さん。ご大層に顔を隠しているようだけど、相変わらずその魚が死んだような目は健在のようね」

「ヒッキーごめんね?」

「……は?」


城ヶ崎と黒葛原が登場した。

それに俺の正体は既にバレている……のか?


「全部彼女から聞いたわ。どうしてあなたがそんな格好をしているのかもね。やはり匹見君は不審者も似合うわね」


並木さんと目が合うと、ごめんねとアイコンタクトを送ってきた。どうやら本当に話したらしい。彼女が何故お助け部に依頼したのか。本当はストーカー犯などいないこと。そして俺が身代わりとしてストーカー犯に仕立て上げられるという作戦のことも。全部。

そうと分かった途端、俺は自分のやっていることが馬鹿馬鹿しく思えてならない。というかめちゃくちゃ恥ずかしい。


「並木さんそりゃないだろ……」

「匹見君本当にごめんなさい!」

「ヒッキー、もしかして私も美味しく召し上がるの……?」


止めろ城ヶ崎、そんな目で俺を見るな。


「う、うわぁぁぁああん!!!!」


俺は耐えられずその場から逃げ出してしまった。

俺の青春にまた新たな黒歴史が刻まれた瞬間だった。

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