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今日も今日とて俺は探偵ごっこに明け暮れていた。
この行為が真犯人を見つけ出せるとは思えないが、どうしてか俺はこうして並木さんの後をついていた。黒葛原の考えに半分納得していたからだ。
ただ、ひとつだけ俺には不満がある。
その不満を口にしていいものか迷ったが出さずにはいられなかった。
「他力本願とはよく言ったもんだな」
俺は見ての通り1人で並木さんを尾行している。
ここに城ヶ崎と黒葛原の姿はない。
今日の昼休みに城ヶ崎とすれ違った時に今日は用事で部活には行けないと言われ、黒葛原に至っては連絡の1つもなしだ。
一応俺は携帯という便利な道具を持っているがそのことはまだ2人には伝えていない。
なので2人は学校で俺に会う以外連絡手段がないのだ。
何故教えないのか?ふっ、敢えてここでは言うまい。
「誰かいるの……?」
俺は瞬時に横の電信柱に身を隠す。
ここからは並木さんの様子は伺えないが、ちらちらとこちらを気にしている雰囲気が伝わってきた。
それにしても……。
あっぶねぇぇえーー!!!!!
注意を怠ったせいで並木さんとの距離を近づけすぎていたようだ。
思わず口から心臓が飛び出るかと思った。現実がそうでないことに俺は胸を撫で下ろす。
再び先の方で足音が聞こえる。
俺はそーっと顔を覗かせる。よし、大丈夫そうだ。
前回と同様に並木さんは学校を出た後は、住宅街をすり抜け商店街、さらには中央駅へと向かった。並木さんの家がどこかまでは分からないがこのルートだと少し遠回りな気がしてならない。
やがてまたあの売店の前へとたどり着く。
ここからは人が多いので注意深く並木さんの後をつけないと前回の二の舞になってしまう。それだけは避けたい。
だがどうしてか、俺の気紛れはその視線を売店の棚に並ぶあの忌まわしきパンダことパン君に向けてしまった。
小さなパン君からそこそこ大きなパン君の群れが俺を見つめる。
「な、何だよ」
おっと、マズい。ついぬいぐるみに喋ってしまった。
辺りを即座に確認する。誰も俺には気をかけてない。つまり問題なし。
商品棚を見ると城ヶ崎が黒葛原とのじゃんけんに勝利し勝ち得たあの巨大なパン君はもうなくなっていた。
すると売店の人が俺に気付いてやってきた。
見た目からおそらく女子高生だ。時間帯からしてバイトでもしているのだろう。
付け加えるならそこそこ可愛めだ。
「あ、もしかしてお客さんジャイアントパン君探してたりします?」
なんだジャイアントパン君て。あのデカいパン君の正式名称か?
「いえ。ただ普通に見てただけですよ」
「そうだったんですね。すごくまじまじと見てたからてっきりお客さんジャイアントパン君探してるのかと思っちゃいました。なんか私余計なことしてごめんなさい」
「あの、ジャイアントパン君って何ですかね?」
「え、お客さんジャイアントパン君知らないんですか!?」
「まぁえと……はい」
「今トゥワッターとかアンスタで凄く流行ってるんですよ。パン君のぬいぐるみはもともと人気があるんですけど、その中でも県内の主要な駅にしか売られてないジャイアントパン君はもうそれは凄い人気度ですね。在庫もなくて置いたら即完売ってのが今じゃ常識になっちゃってますね。ちなみに私も一体持ってますけどね!」
凄く嬉しそうな店員さんだな。
まるで最期の一言が言いたいがためにここまで話を持ちかけてきたようにも思える。
俺は適当に良かったですねと一言添えて売店を後にした。
そしてあることに俺は気付く。
「並木さんどこいった……?」
本末転倒。パン君に気を取られ尾行という真の目的を忘れてしまう俺氏。
この前座ったベンチに腰を下ろし休憩していると、またあの歌声がどこからともなく聞こえてきた。俺の足は自然とその歌のする方へと吸い寄せられていた。
駅の西口にそこそこの人集りができていた。
その中心から例の歌声が聞こえる。しかもその声はどこかで聞いたことのある声だ。
俺は人の間を潜り抜けやっとこさで最前線に出る。
人々の心を掴んでいた歌声の主は、彼女だった。
「……な、並木さん?」
制服姿ではなく私服の並木さんがそこにいた。
並木さんは俺を見るとにっこりとやわらかな微笑みをくれた。