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第1章 出会い①


      『青春を謳歌したい!!』



 ……なんて、大層な願望を叶えられるのはスクールカーストの上位、ごく一部の人間だけだ。

 俺みたいな――いわゆるぼっちには到底無理な話さ。


 すっかり散ってしまった桜の木を眺めながら俺は早朝のバスに揺られていた。


 俺の名前は匹見 ヒキヤ。今年で16歳を迎える高校1年生だ。

 自分で言うのも何だが、好き嫌いの多い性格で、人混みも嫌いなものの一つとして数えられていた。


 時刻は朝の6時半。この時間帯のバスが一番空いていてストレスを感じずに登校することが出来る。俺はこの1ヶ月間でそれを学んだ。


 車内を見渡すと俺と似た考えの奴らがちらほら乗っていた。


 しかしまぁ、結論から言えば学校に早くついたとしても別段することなんてない。

 それでもピーク時のあの人混みは耐え難いものがあるのだ。


「……まぁ机で寝てればいいか」


 夜の間に降ったであろう雨は既にアスファルトに染み込んでいて、朝日を浴びその光を眩しいほどに反射させていた。

 流れていく街の風景を眺めていると車内にアナウンスが流れた。


「次は柊高校前〜、柊高校前〜。お降りのお客様はバスが止まってから席をお立ちください」


 定期券を翳し俺はバスを降車した。


 柊高校は俺の通う公立高校で、偏差値でいうと50程度だ。中学でそこそこ勉強ができた奴なら楽々と合格することができるレベルだ。


 バス停から学校へは歩いて3分もせず到着する。相変わらずバスの偉大さには頭が上がらない。感謝感激というやつだ。


 だが、俺にとって学校とは地獄のような場所でしかない。理由か? そんなもんは数え切れねえほどある。

 とはいえここまで来て家に引き返す訳にもいかないので、げんなりと肩を落としつつも嫌々歩き出す。


 ――その時だった。


「きゃっ!?」


 断末魔のような悲鳴と共に、ドンっと強い衝撃が俺を襲った。

 もちろん俺は受け身が取れる身体能力など持ち合わせていないので見事に地面を転がった。だが幸いにも怪我はなかった。


「な、何だってんだ?」


 まるで天変地異でも起きたかのようだ。

 尻もちをついたまま瞼を開けるとそこには。


「……!」


 真下で俺を待っていたのは薄ピンク色の生地、そしてその中央に可愛いパンダさんの顔。というかパンダさんと目が合ってしまった。


「こ、こんにちは」


 ハッとなり我に返る。

 何で俺は挨拶なんぞしてんだ……?


 俺は持ち前の冷静を取り戻し、すぐさま状況整理をする。


 俺はたった今バスから降りたはずだ。そしたら間髪入れず強い衝撃がやってきた。

 次に目を開くと至近距離に女の子のパンツが広がっていた。以上。なんだコレ。


「み、見た……?」


 俺とぶつかったであろう女の子は、その体勢(M字開脚)をすぐさま変え、訝しげに問いただしてきた。

 その頰はパンツを見られたことによる恥じらいのせいか紅潮していた。


 しかし見れば見るほど整った顔立ちをしている。まるで本物のアイドルのようだ。健康的で潤った肌に、ほんのりと色気を放つ瞳、そして桃色の髪が異彩を放っていた。


 俺は一目で理解した。コイツはスクールカーストでいう極一部の上位の人間だ。となれば答えは一つ。関わらないことだ。


「見てない」

「嘘。だったらさっきのこんにちはってどういう意味なの?」

「ぐ……!」


 俺はたった今、女の子のパンツのロゴに挨拶という暴挙に出てしまったのだ。口は災いの元とはよく言う。


 俺は異性のパンツをまじまじと見たのは生まれて初めてだったので、どうしようもなかった。これに関しては不可抗力としか言いようがねえ。


 というか第一声がこんにちはなんて我ながら呆れる。もっと他にコメント出来なかったのか俺。つーか何も言うな。


 まさかこんなことで痴漢とかに扱われて警察に逮捕される訳でもあるわい。結論、俺は論破してやることにした。


「なぁお前、よく考えてみてくれ」

「へ?」


 俺は言ってやった。


「そもそも先にぶつかったのはお前であって、俺は意図してこの状況を作りあげた訳ではない。そりゃパンダがいたから不覚にも挨拶しちまったが、それはお前にも非がある。理由はその見てくれ感満載の短いスカートの中にスパッツやら体操着を履いてれば見られなかったからだ。結論、10対0でお前が悪い」

「な、何この人……」

「反論しねえってことは俺の意見を肯定するってことでいいんだな? つーことで俺はもう行く」

「え、女の子のぱんつ見ておいて謝りもしないの!?」


 後ろの方でなんか煩いが俺は気にしないことにした。学校はもうすぐそこだ。


 恐らくこの時だろう。彼女とぶつかって俺の鞄にとある封筒が入ったのは。


 もうホント、どうしようもない。

 こいつのせいで俺の青春は狂ってしまうのだから。

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