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「拠点コードを確認します。コードを出して。」
第1ブロックから他ブロックへの移動時、拠点コードをブロックゲートにてゲート管理人に必ず確認される。出生時にコードを真皮に書き込むことが義務とされており、基本的に出生地が拠点となる。進学や、就職により拠点ブロックが変わることがあるがあまり見られない。その際はコード管理課に申請が必要である。
自身の拠点コードより上のブロックへの移動は基本的に禁止されているが、下のブロックへの移動は自由である。ブロックの移動は日帰りであれば問題は無い。ただし拠点ブロック以外で事前にコード管理課への連絡なしに、夜を明かした場合は拠点コードがその場のブロックに0時から自動に書き換えられる。以降、特別な事情(誘拐、拉致、コード盗難等)でない限り上のブロックへの移動は出来なくなる。
国民は、8つのブロックに分けられた地域で生活している。第1ブロックから第7ブロック。0地区は極一部、上流階級の人間しか住めない。生活水準は数が増えるごとに粗悪なもので、4ブロック以上は普通の人間は住んでいない。
「舞ちゃんは第1ブロック生まれらしいけど、どこまで行ったことある?」
「えっと、第3ブロックまでですね。母の実家と、同級生の拠点だったので遊びに行った事あります。」
「へえ、行ったことがあるんだ!懐かしいかもねえ~。でも普通だったでしょ。第3ブロックは基準的だから。」
「はい、そこまで酷いものではなかったですね。」
話しながら先に歩いていた後藤が、左手首を出しコードを確認された。
「確認しました。どちらまで?」
「3人で第3ブロックへ。傷者捜査課の者だよ。傷者の情報収集の為にね。」
ゲート管理人が後藤の後ろ姿から首を出し、舞とショウを確認する。
「ご苦労様です。では後ろの方、コードを。」
舞は髪を上げ、後頸部のコードを管理人に見せる。照会が終わり、ゲートを通り抜けた。続けてショウも済ませ、3人で第3ブロック移送路へと進む。
4人一部屋の移送機へ乗り込むと、後藤はファイルを取り出し舞に手渡した。
「舞ちゃんはニュースでちょっと見たらしいけど、第3ブロックの事件の詳しい内容ね。この傷者は刃物を使うみたい。沢山の細かい傷で5人殺害。傷痕をこっちで照会したけど、確認出来ている傷者とは別のものと判明。最近出ちゃった子かな。」
後藤の話を聞きながら舞はファイルに目を通す。深夜に街灯の少ない、公園跡の広場で5人殺害。遺体の至る所に細長く、細かい傷痕あり。また、被疑者の体内が切り刻まれていた。死因に関して、不思議に思った舞が顔を上げる。
「あの…出血死とかじゃないんですか。」
「ん?」
「5人。切り刻まれて、出血死とは書いてないですよね。体内を切り刻まれて、多臓器機能不全にて死亡とあります。」
「ああ、舞ちゃんはそこまで知らないんだ?」
「えっ?」
「御家族のことがあるから、調べ尽くしてると思ったよ。まあ基本的に、傷者の情報は漏洩禁止だからねえ。」
人間の基本的動作である呼吸と瞬きを忘れた舞が、焦点も合わず加藤をまっすぐ見つめる。正確には見つめているのではない。視界が、認識しいるかどうかも怪しく、暗転し、腰掛けている席から転落しそうになっていた。
「しってたんですか」
言葉を自身で発しているかも自信が無いまま、舞は恐怖と動揺と困惑を混ぜたまま後藤に問いかける。
「おばあさんの養子としてなってたけど、さすがに詳しく調べるよ。うちに志望は珍しいからね。でも、知った上で推薦を受けた。君と働きたいと思ったからだよ。」
笑いかける後藤を理解できない舞は、頭を振りファイルを握りしめる。
「…ありがとうございます。よろしくお願いします。」
「うん、改めて。こちらこそよろしくお願いします。傷者のことはこれからゆっくり正しく教えさせてね。」
力強く握りしめたファイルから自身の手を離し、真っ直ぐ出された後藤の手を舞は強く握り返した。