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「本日付けで 第1ブロック情報管理課より異動となりました、早川舞です。よろしくお願いします。」
直属の上司となる、後藤計一に頭を深く下げる。
「硬!硬いね!よろしくね。早川さんは推薦と志望でこっちに来たんだよね。住んでるのは第1ブロック?」
「はい。志望です。第1ブロック生まれです。」
大きな黒縁眼鏡。少し明るい茶色の髪色。想像していた者とは少し違ったが、一応上司。愛想はよくしておいて損は無い。
「そっか。うちの課、名前がかなりごついけど雰囲気はいいから安心して。その名の通り、傷者たちの把握と捜索、保護が主かな。殺害関係の逮捕は刑事さんたちがするからまた別なんだけどね。で、いきなりだけど昨夜第3ブロックで起こった事件現場行くから。」
今朝のニュースにあった5人殺害した傷者。内容を思い出し、舞は後藤に問う。
「今頃ですか。今朝のニュースで見ました。既に報道までされた事件ですよね。もう傷者捜査課に権限があるのでは?」
第3ブロックでの事件の資料と思われるファイルを見ていた後藤が、少し驚いたような顔をして口を開く。
「へえ。朝のニュースとかちゃんと見る子なんだ。そうだよ。けどね、これまで確認された傷者じゃない感じなんだよね。新しく出現した傷者。その情報収集に行くんだよ。殺人事件の捜査ではなく、どういう傷者なのか僕達が調べるんだ。」
理解したという表現で頷く舞から、後藤は微笑みながら視線を外す。
「で、やっぱり傷者相手だから物騒でしょ。基本うちでは2人1組にしてあるんだ。」
「後藤さんと組むんですか。」
「えー、嫌なのー?っていうのは冗談で。僕じゃないよ。」
ユーモアへの反応に困惑する舞を他所に、後藤は大きく手を振り奥から1人の人物を呼び出した。
「ショウくんだよ。よろしくね。この子と組んでもらいます。」
目の前に出てきたのは、20歳前後に見える少年。鴉のような黒い髪が重く目にかかり、くらい印象を持った。
「よろしく」
小さな口が、小さな声を生む。自分自身をか弱い女だと思ったことはない舞だったが、少年と組ませるのは如何なものかと思った。しかし、上司の命令。色々と言いたいことはあったが、ショウと呼ばれるその少年に手を出した。
「早川舞です。よろしくお願いします。」
「……。」
目を合わせず、手も出さず。どうしたものかと思い、後藤に視線を送ると苦笑していた。
「ま、ちょっと気難しい子だけど。いい子だから。ほんと。舞ちゃんが育てる気分で組んでやって。」
片手を顔の前に出し、ごめんね、とボディランゲージをした後藤を舞は、少し呆れたが従うことにした。後にペアを解消してもらえばいい。
「よし、じゃあ僕も行くから。第3ブロックに移動しよう。舞ちゃん手ぶらでいいからね。」
「はい。」
後藤に続き、傷者対策課をあとにする。後ろからゆらゆらとショウがついてきたが、あまり気にしないようにし、第3ブロックへ向かう。