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7.探しモノ

 翌日――スフィアを診療所に連れていき、レーナは森の方へとやってきていた。

 治療のために少し時間がかかるという事なので、その間にレーナはスフィアが失くしたお守りを探しにきたのだ。

 緑色の宝石がついたペンダントだという事は聞いている。

 ただ、あまり大きなサイズではないと言っていた。

 スフィアがそれだけ大事にしている物を落としたとしたら、やはり《レッド・オーガ》と戦った場所になるだろう。

 普通に向かうには少し距離のあるところだったが、せっかくなのでその付近で取れる薬草を採取して帰るつもりだった。


(仕事の方がついでみたいになってるけどね……)


 そう思いながらも、レーナはスフィアと約束をした。

 だから一人、森の方までやってきている。

 鍛えているとはいえ――魔剣がなければレーナは一般的な冒険者を下回るくらいだ。

 息があがるほどではないが、軽く深呼吸をしつつ、昨日レッド・オーガと戦った場所までやってきた。

 ここで戦闘があった事がよく分かる。

 地面はいくつも抉れている部分があり、周囲の木々が倒されている。

 もっとも、地面が抉れているのはほとんどスフィアが戦った時のものであり、木々が倒れているのはレーナが魔剣で倒したからだ。


(あはは……もうちょっと加減できるようにしよう)


 レーナは心の中でそう誓う。

 そこらにいる魔物を倒す程度ならば、ほとんど力を出さずとも勝てるから気にはしていなかった。

 けれど、魔剣の力とまともに解放すれば、レーナの持つ力は強大だ。

 それをコントロールする訓練までは、レーナはやっていない。


(魔王の時はそもそも、加減する必要なんてなかったしね)


 ただ力を誇示する事の方が重要だった。

 今のレーナにとっては、そんな事に興味のない。

 だから、魔剣の力をコントロールしようなど考えようともしなかった。


(これもスフィアに会ってからかな)


 そう思いながら、レーナはスフィアのお守りを探し始める。

 昨日と同じく、レーナは今朝方スフィアと顔を合わせてもそこまで緊張しなかった。

 それこそ、嫌な気分のしない感じだった。


(まあ、緊張しなくなってきたのは良い事かな)


 レーナはそう考えながら、周囲を確認する。

 小さなペンダントとなると、中々ここで見つけるのは難しい。

 それに――


(魔物が持っていく可能性もあるんだよね)


 レーナが上を見上げる。

 小さな魔物達が、こちらの様子をうかがうように見ていた。

 宝石の類など、光物を好んで狙う魔物も存在する。


(いや、まずは探す事に集中しよう)


 レーナはそう決めて、周辺を再び探索する。

 スフィアの動きを考えると、大体レッド・オーガの攻撃で抉られた地面の付近などが怪しい。


「この辺りとか……」


 抉られた地面のところを確認していくが、それらしき物は見当たらない。

 この辺りにないとなると、やはり魔物が持って行ってしまったか、それとも別の場所に落ちているか――


(いや、レーナは吹き飛ばされてあそこに倒れていたんだから……草陰のところにあるかも)


 レーナはそう思って、地面を這うようにしながらレーナが倒れていた木の裏にある草陰を確認する。

 すると、緑色に光る石が目に入る。


(あ、あれだ――)


 スフィアの言っていたペンダントが落ちていた。

 レーナはそれを取ろうと手を伸ばす。

 その時だった。


「っ!」


 バッとレーナは立ち上がる。

 周囲を警戒するように見渡すが、特に何かがいるような様子はない。

 レーナは魔剣に手をかける。

 誰かがこちらを見ていた――そういう気配がしたのだが、特に変わった事もない。

 鳥の鳴き声が聞こえるくらい、静かな森だった。

 警戒をするが、それでも何も起こらない。

 もう、レーナを見ている気配も感じられなかった。

 近くで、草木が揺れるのが見える。

 どうやら魔物が隠れていたようだ。


「気のせい、かな」


 レーナは魔剣から手を離す。

 そうして、先ほど見つけたスフィアのペンダントを無事に手に入れた。

 これで、スフィアも喜んでくれるだろう。

 笑顔のスフィアを思い浮かべると、レーナも少しだけ嬉しくなった。


(ふふっ、早く帰ろっと!)


 レーナは急ぎながらも仕事はこなす。

 帰り際に薬草を少し採取しつつ、村の方へと戻っていった。


   ***


 少女の去った後――そこに一人の人陰が現れる。

 黒いローブに身を包み、袖はまるで鳥の羽のように広がっている。

 嘴のように長い仮面を付け、男は少女が去った後を見据えた。


「ほほほっ、送り込んだ《レッド・オーガ》の痕跡がここで途絶えている事には驚きだったが……あの娘は何者だ?」


 見た目は普通の少女だった。

 ただ、男がわずかに送った殺気に敏感に反応し、すぐさま臨戦態勢に入ったところを見た。

 並みの冒険者では反応すらできないわずかなものだというのに、少女はそれに反応した。

 この近辺――明らかに戦闘があった場所にいても動揺する様子はない。

 明らかに、少女は異質だった。


「この辺りの冒険者が倒せるほど弱い魔物ではない。それはつまり――ほほほっ、ここにそれなりの実力者がいるという事。まさかとは思うが、あれがそうなのか?」


 バサリッとローブを揺らしながら、男が周囲を確認する。

 男が送り込んだレッド・オーガには、ある細工を仕込んでいた。

 男が再びローブを揺らすと、地面に魔方陣が出現する。

 そこに浮かび上がるのは、レッド・オーガが死の間際にここで何をしていたかという映像。


「ほほほっ、これは……」


 男は感心するように唸る。

 先ほどここにやってきた少女が、圧倒的な力を持ってレッド・オーガを葬り去った。

 男には、その少女が持っている剣に見覚えもある。


「いやしかし、人間如きに使える代物では――ん?」


 男は映像を見ながら、ある部分に注目した。

 その場にいる者は誰も気づいていないが、男は確かに見た。

 それは、少女がレッド・オーガを倒したという驚愕の事実よりも、さらに上をいくものだった。


「ほ、ほほほほっ! これはこれは……良いモノを見つけた……。まさか、こんなところで見つかるとは」


 男は笑いながらローブを揺らすと、その場から消え去る。

 そこには人がいた気配など残されておらず、また静かな森に戻った。

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