15.魔王再び
ズゥン、という地鳴りのような音でレーナは目を覚ました。
身体は少しだるいが、不思議と悪い気分ではない。
ちらりと抱えていた魔剣を見て、レーナは呟き。
「わたしは……まあ、いいか」
カラカラと魔剣を引きずりながら、レーナは外へ出る。
その間にも、ズゥンという大きな地鳴りは、徐々にこちらへと近づいていた。
「あれは……」
レーナがまだ遠くにあるそれを見つける。
四足歩行の巨大な魔物だった。
大きな甲羅のようなものから、次々と人影がやってくるのが見えた。
レーナは三日月のような笑みを浮かべて、それを見る。
「探す手間が省けた……あれが本隊か」
あれほど大がかりな施設であれば、まず間違いないだろう。
レーナは魔剣を握りしめると、そのまま駆け出した。
敵の部隊がどうだとか、そんな事はレーナには関係ない。
目の前にやってくる者は全て蹴散らす。
それをレーナは可能としている。
「くはっ」
魔剣を構えて、レーナは跳躍した。
距離にしてまだ数キロはあろうかというところで、レーナは魔剣から攻撃を繰り出す。
(そういえば、スフィアは必殺技が好きとか言ってたっけ)
一瞬だけ、そんな記憶が甦る。
魔剣から叫び声のような音が周囲に響き渡る。
「《魔響剣》」
レーナの言葉に魔剣が反応し、目に見えない衝撃破を放つ。
レーナの下へと近寄ってきた兵士達はびくりと身体を震わせると、その場で苦しみ始め、次々と落下していく。
さらには遠くに離れた巨大な魔物まで、大きな鳴き声を上げたたあとに、ズゥンと身体を地面へと倒した。
「足を止めるのは戦いの常識だよねぇ」
パシャリ、地面に着地すると同時に、レーナは駆け出した。
次から次へとやってくる兵士達を、レーナは魔剣で切り伏せる。
直感でわかっていた。
あの要塞の中に、レーナの狙っている男がいると。
レーナは真っ直ぐ、動けなくなった魔物の下へと駆けていく。
魔法による集中砲火もレーナには関係ない。
目的さえ達成できれば、後の事などどうでもよかった。
少なからず傷ついている身体は、レーナ自身の動きによってより悪化していく。
左腕は、昨日の光弾を受けた影響で折れていた。
その折れた腕で、レーナは敵を掴むと乱雑に投げ飛ばす。
そのまま、魔剣を振り下ろしてその場にいた者達を吹き飛ばす。
圧倒的なまでの力を持って、レーナは軍隊を滅ぼそうとしていた。
「ははははっ! ねえ、まだやれるよね? この程度で、終わったりしないよねぇ!」
レーナはそう叫びながら、移動要塞の中へと飛び込んだ。
入り口は、魔剣によって無理やり作ったものだ。
大きな爆発音と共に、要塞の中へとレーナが飛び込む。
現れた少女の姿を見て、その場にいた兵士達の表情が凍りつく。
それを見て、レーナはにやりと嬉しそうに笑った。
ああ、戦う意思がまだあるな――レーナはそれを理解すると、すぐに魔剣を振るう。
一瞬で、数百という魔族達の命を奪い取る。
追撃は、やってこなかった。
「あれ……」
パラパラと砕けた壁や天井が落ちてくる。
誰も攻撃を仕掛けて来ないと思えば、もうその場に生きているのはレーナだけだった。
「あははっ、こんな事にも気づかないなんてさぁ」
「――随分と、やってくれたようだな」
そう思った矢先、一人の男がレーナの前に姿を現す。
その姿は人間に近いが、肌は青白く目は赤い。
人ならざる者である事らすぐに分かった。
そして、その男が手に持っている者にも、レーナは見覚えがあった。
「あ、わたしの――」
「消えよ、小娘」
男が、剣を抜いてそれをレーナに向かって振るった。
わたしの魔剣――そう言おうとして言葉を遮られたのだ。
そう、男の持っている剣は、かつてレーナが使っていた物の一つ。
正真正銘の魔剣だった。
つまり、目の前にいる男がレーナの目的の相手――
「やっと、見つけたぁ」
吹き飛ばされながら、レーナはその男を見る。
着地すると同時に、再び地面を蹴った。
そうして、再び男の前に立つ。
「お前、何者だ」
「わたしは――」
魔剣を構えて、レーナは笑う。
――誰かなんてどうだっていい。
けれど、今はこう答えるのが正解だろう。
「わたしは――魔王。そう、あなたごときが、名乗っていいものじゃないの」
レーナはそう言い放ったのだった。




