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異界閃機ブレイバー -Another World Glint Machine BRAVER-  作者: 葵零一
九章 古代文明の語る真実
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六節 動き出した決着

 ジョー達は、地下で手に入れた新たなるマシン・ウォーリア――ブレイバー・ジョウを持ち出して、地上へと戻っていた。

 そして、別行動をとっていたベン達と合流するべく、ブレイバー・ジョウは四人を乗せ走っている。


「なんでこんなところに敵がいるのよぉっ!」


 右腕に乗せたサクラが叫ぶ。

 ブレイバー・ジョウの背からは、五体ものアーミーが追ってきていた。

 速度を出して振り切れば、それぞれの腕に乗せている二人が落ちてしまうだろう。

 ジョーは激しい動きをさせることが出来ず、辟易していた。


「さあね! このジョウが目立ちすぎるからではないかな! なあ、ジョウ君!」


 左腕のブレットが、腰かける前腕部を叩いて答える。

 白金の装甲が、拳とぶつかり硬い音を立てる。


「しかし、どうするジョウ! ……じゃなくて、ジョー!」


 折りたたまれた股間の梯子につかまるトーマスが、操縦席のジョーに問う。その額には、鉢金が巻かれたままだ。

 ジョーは苛立ちながら、徐々にブレイバー・ジョウの腰を下ろしていく。

 トーマスは飛び降りて転がり、サクラとブレットは完全に停止したことを確認してから降りた。


「うるさいな! 紛らわしいんですよ! ジョウだのジョーだのって!」


 ハッチが開いたままの操縦席から、ジョーが怒鳴った。


「仕方ないだろ! 他に何て呼べばいいんだ!」

「じゃあ、ブレイバーの方はキサラギとでも呼んでくださいよ!」


 ハッチを閉じたジョーは、ブレイバー・ジョウ――改め、ブレイバー・キサラギを立ち上がらせ、振り向かせる。

 アーミーたちが歩行モードに移行し、じりじりと、一歩一歩と、距離を詰めて来ていた。

 ジョーは躊躇なくキサラギを突撃させ、立ち向かう。


「悪いけど、慣らし運転に付き合ってもらうっ!」


 キサラギは背中からヒート・サムライソードの一本を抜き、真ん中のアーミーへと急速に距離を詰める。

 ヒート・サムライソードの一閃――いや、すれ違いざまの一瞬に放たれた二撃が、アーミーの首と腿を狩る。

 そのバターを切るかのような剣の食い込み方のよさに、ジョーは戦慄した。


「何だこの切れ味……!」


 次にキサラギは、もう一本の剣を背から抜く。

 片手に一本ずつ、二本の剣を構えたキサラギは、大きく旋回して再びアーミーたちに突っ込む。

 遅れて旋回したアーミーの片方に狙いを定め、剣を構えた。

 そして、ブレイブセンスを発動させ、集中する。


「壊れろよっ! マシン・ウォーリアッ!」


 キサラギが、目にもとまらぬ勢いで二本の剣を振り回す。

 それを動かすジョーも、これまでにないほどに高速、かつ精密にレバー入力を行っていく。

 標的にされたアーミーはいくつもの斬撃を浴び、細かく輪切りに溶断されていく。

 しかし、胴体周りだけは傷一つ付いていなかった。


 そんなことをしている間にも、残るアーミーにより前後からの挟撃をキサラギは受ける。

 既に、アーミーたちは剣を振り上げようとしていた。


「ちいっ!」


 キサラギは前に立ちふさがるアーミーに、胴部の左右に生えた二門ずつ――計四門のレーザー・マシンガンの掃射を浴びせる。

 その光弾によりハチの巣になったことをジョーが確認すると、キサラギは急速旋回してしゃがみ込む。

 背後のアーミーが剣を振り上げ切っていたその時――キサラギの『角』から光弾が放たれ、アーミーが沈黙した。


『ちょっと、あんま電池使わないでよ! 動けなくなっちゃうじゃない!』

「仕方ないだろ! 僕が死んでもいいってのかよ!」

『舐めてかかってるからよ!』


 サクラからの通信に苛立ちを隠せないジョー。

 念のためにバッテリー表示を確認すると、ジョーが思っていた程は減っていなかった。


「効率が改善されているのか……? ならっ!」


 あまり動きのないアーミーからキサラギは距離を離す。その姿は、ジョーには怯えているようにも見える。

 キサラギは右手の剣を背中に戻すと、右側のサイドアーマーの取っ手を取り、持ち上げた。


「『レーザー・ブラスター』とかいうのを使ってみる!」

『はあ!? 早く合流しないといけないってのに、まだ無駄遣いする気!?』

「わかってるよ! エネルギー残しておけば文句はないんだろ!」


 サイドアーマーの内側から、折りたたまれていた銃身が展開する。

 キサラギの右腰が唸りを上げ、その武器の力強さを誇示する。

 そして、一秒にも満たない充填が完了すると、その銃口から光条が放たれた。


「なんだこれっ……! 強い、強すぎる!」


 レーザー・ブラスターから伸びた光の一閃は、アーミーの脚を貫いた。

 キサラギが銃身を横に振ると、アーミーの両足が切り裂かれる。

 ――いや、それだけではない。地にすら深い切れ込みを残し、赤く溶けた土は未だ煙を放っていた。


「これが……戦闘兵器ブレイバー……」


 ジョーは、人類史上最強とも言われる、その陸戦兵器の威力に恐怖した。



――――――



 ガス・アルバーンは彷徨っていた。

 ブレイバーの男を追ってきたのはよかった。ガスの感は見事に的中し、ピーターを名乗る男たちをあと一歩のところまで追い詰めていた。

 だが、片眼鏡の男の持っていた奇妙な道具によってガスは傷を負い、サクラを連れた一味を堅牢な扉の中へ逃がしてしまっていた。


 入口はいつの間にか閉じており、後戻りはできない。

 適当にボタンを押していたらようやく開いた扉の中には、既に誰もいなかった。出口が一つしかない、完全な密室であったのにも関わらず。

 理解できない不思議な現象と、サクラを連れ去られた焦りのままに、ガスは部屋の中へ入り込んだ。


 そして今は――


「はぁ、はぁ……ここは……どこだ……?」


 『遺跡』と呼ばれる場所を彷徨っていた。

 所々にある開かない扉がガスを辟易させたが、行き詰まることだけは無かった。

 幸いにも脚の怪我は軽いもので、歩くことに支障はない。


 そうして何日も迷い続け、遂にガスは見つけた。


「これは――!」


 扉をくぐった先には、見たことのある――そして、彼が渇望してやまない『力』があった。

 その姿をみて、思わずガスは嗤う。


「ふふふふふ……はははははっ! これがあれば、私にもう負けはない! 奪われることなど、二度とないっ!」


 ガスは想像する。

 自らの手で作り上げた、『勝利』の先の未来を。サクラのいる、輝かしい世界を――


 常人からすればただの妄想だが、彼にはそれを成し遂げようとする絶対的な自信と覚悟がある。

 そして今、唯一足らなかった『力』までもが彼の手中に収まったのだ。


「待っていろサクラ……すぐに助けに行く! この、ガス・アルバーンがっ!」


 ガスの野望と執念が、再び燃え上がる。



――――――



 アーミーとの戦闘から三日が経った。

 無事にジョー達はベン達と合流し、トーマスは一通りの事情を説明した。

 そして今は、少人数で帝都に奇襲をかけるべく、この郊外の森の中で算段を立てている。


「へえ……これが新しいブレイバーってわけ」

「そうだ。まるで勇者様のようだろう」

「それを本物の勇者様の前で言うかねえ……」

「そんなくだらないこと言ってないで、準備してくださいよ」


 好き勝手言うアデラとトーマスに、ジョーはただ急かす。

 彼らの目の前には、三体のブレイバーが立ち並んでいた。


「三体もブレイバーがあるんだ。もう準備することなんて無いだろう」

「じゃあ、貴方はどれを使うんですか?」

「それは当然、灰色だろう。キサラギはお前が使うわけだし、紅いのはもうこりごりだ」


 トーマスは肩をすくめて見せる。

 ジョーはその動作が妙に腹立たしかったが、確認のために質問を重ねる。


「なら、ジークは誰が使うんですか?」

「……ベン辺りにでも使わせるか」

「ちょっとちょっと――!」


 ジョーがトーマスを問い詰めていると、サクラが割って入ってくる。

 ジョーは突然の乱入に驚き、トーマスもまた一歩退いていた。


「『ジーク・レイ』はアタシのよ! 何勝手に決めてんのよ!」

「じゃあ君がやってくれるの? っていうか、『ジーク・レイ』って何さ?」

「アタシだって無関係じゃないんだから、当然じゃない! ジークとレイダーを合わせたマシンだから『ジーク・レイ』なのよ、バカね!」


 サクラの言いように僅かな苛立ちを覚えながらも、ジョーは素直に感謝した。


「んじゃ、アタシとベンがアーミーで、ピーターの奴が賢者さんから借りたデュエラーで決定だね」

「そういうことになるな」

「決めてなかったんですか……」


 ジョーがトーマスの無計画ぶりに呆れていると、タイミングを見計らったかのようにブレットが現れる。


「そして私は、シェリー嬢の運転する車でジョウ君、サクラ君のブレイバーと共に工場へ向かい、他は帝都内で陽動……作戦はこんな感じかな?」

「それでいきましょう――ん? 通信?」

「一体だれが……」


 トーマスがブレットの方針に同意を示していると、突如ヘッドギアにノイズが入ってきた。

 通信を行う際の独特な前兆に、ジョーは妙に悪い予感を抱く。


『――聞こえるか、ジョー君! 聞こえないか、トーマス殿!』

「その声、ダン・ガードナー! ……殿か!?」

「ダンさん!? 何で今通信を……?」

『良かった! 聞こえているみたいだね!』


 発信者はダン・ガードナーであった。通じることが分かったからか、ダンの声からは喜色が感じられる。

 想像していなかった人物からのコンタクトに、驚きを隠せないジョー。

 ジョーが何を言うべきか迷っていると、トーマスが警戒を露にした。


「どうやら、俺たちの邪魔をしたいわけではなさそうですが……どういった用件で?」

『よく聞いてほしい! 私では、もう止められない! 君たちだけが頼りだ!』

「どうしたんですか、一体!」


 ただならぬ様子のダンに、ジョーは問う。

 急を要していることは、早口なダンの言葉からも、ジョーにはわかった。


『たった今、この帝都からマシン・ウォーリア部隊が発進した!』

「なるほどな。あちらさんの『時間稼ぎ』はもう終わったわけか……! それで、数まで教えていただけるのですかね?」

『ああ、というよりも、それを伝えたいのさ……!』

「どういうことです?」

『聞いて驚かないでくれ。帝都から出陣したマシン・ウォーリアの数は――』


 そしてダンは、嘆くように吐き出した。


『一万だっ……!』


 遂に帝国は、総力を挙げて皇国を潰しに出た。

 数百もあれば十分過ぎるマシン・ウォーリアを、過剰なまでに投入する意図はジョーには分からない。

 ――いや、今となっては、その真意を知る者などいないだろう。

 だが、ただ一つだけ言えることがある。


 この戦いの終わりこそ、新たな時代の始まりだ。

 それは、アークガイアの人々にとっても、ジョーにとっても重要な意味を持つ。

 そう、彼らの運命は、間もなく終着点を迎えようとしているのだ――


九章 古代文明の語る真実 ‐了‐

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