六節 動き出した決着
ジョー達は、地下で手に入れた新たなるマシン・ウォーリア――ブレイバー・ジョウを持ち出して、地上へと戻っていた。
そして、別行動をとっていたベン達と合流するべく、ブレイバー・ジョウは四人を乗せ走っている。
「なんでこんなところに敵がいるのよぉっ!」
右腕に乗せたサクラが叫ぶ。
ブレイバー・ジョウの背からは、五体ものアーミーが追ってきていた。
速度を出して振り切れば、それぞれの腕に乗せている二人が落ちてしまうだろう。
ジョーは激しい動きをさせることが出来ず、辟易していた。
「さあね! このジョウが目立ちすぎるからではないかな! なあ、ジョウ君!」
左腕のブレットが、腰かける前腕部を叩いて答える。
白金の装甲が、拳とぶつかり硬い音を立てる。
「しかし、どうするジョウ! ……じゃなくて、ジョー!」
折りたたまれた股間の梯子につかまるトーマスが、操縦席のジョーに問う。その額には、鉢金が巻かれたままだ。
ジョーは苛立ちながら、徐々にブレイバー・ジョウの腰を下ろしていく。
トーマスは飛び降りて転がり、サクラとブレットは完全に停止したことを確認してから降りた。
「うるさいな! 紛らわしいんですよ! ジョウだのジョーだのって!」
ハッチが開いたままの操縦席から、ジョーが怒鳴った。
「仕方ないだろ! 他に何て呼べばいいんだ!」
「じゃあ、ブレイバーの方はキサラギとでも呼んでくださいよ!」
ハッチを閉じたジョーは、ブレイバー・ジョウ――改め、ブレイバー・キサラギを立ち上がらせ、振り向かせる。
アーミーたちが歩行モードに移行し、じりじりと、一歩一歩と、距離を詰めて来ていた。
ジョーは躊躇なくキサラギを突撃させ、立ち向かう。
「悪いけど、慣らし運転に付き合ってもらうっ!」
キサラギは背中からヒート・サムライソードの一本を抜き、真ん中のアーミーへと急速に距離を詰める。
ヒート・サムライソードの一閃――いや、すれ違いざまの一瞬に放たれた二撃が、アーミーの首と腿を狩る。
そのバターを切るかのような剣の食い込み方のよさに、ジョーは戦慄した。
「何だこの切れ味……!」
次にキサラギは、もう一本の剣を背から抜く。
片手に一本ずつ、二本の剣を構えたキサラギは、大きく旋回して再びアーミーたちに突っ込む。
遅れて旋回したアーミーの片方に狙いを定め、剣を構えた。
そして、ブレイブセンスを発動させ、集中する。
「壊れろよっ! マシン・ウォーリアッ!」
キサラギが、目にもとまらぬ勢いで二本の剣を振り回す。
それを動かすジョーも、これまでにないほどに高速、かつ精密にレバー入力を行っていく。
標的にされたアーミーはいくつもの斬撃を浴び、細かく輪切りに溶断されていく。
しかし、胴体周りだけは傷一つ付いていなかった。
そんなことをしている間にも、残るアーミーにより前後からの挟撃をキサラギは受ける。
既に、アーミーたちは剣を振り上げようとしていた。
「ちいっ!」
キサラギは前に立ちふさがるアーミーに、胴部の左右に生えた二門ずつ――計四門のレーザー・マシンガンの掃射を浴びせる。
その光弾によりハチの巣になったことをジョーが確認すると、キサラギは急速旋回してしゃがみ込む。
背後のアーミーが剣を振り上げ切っていたその時――キサラギの『角』から光弾が放たれ、アーミーが沈黙した。
『ちょっと、あんま電池使わないでよ! 動けなくなっちゃうじゃない!』
「仕方ないだろ! 僕が死んでもいいってのかよ!」
『舐めてかかってるからよ!』
サクラからの通信に苛立ちを隠せないジョー。
念のためにバッテリー表示を確認すると、ジョーが思っていた程は減っていなかった。
「効率が改善されているのか……? ならっ!」
あまり動きのないアーミーからキサラギは距離を離す。その姿は、ジョーには怯えているようにも見える。
キサラギは右手の剣を背中に戻すと、右側のサイドアーマーの取っ手を取り、持ち上げた。
「『レーザー・ブラスター』とかいうのを使ってみる!」
『はあ!? 早く合流しないといけないってのに、まだ無駄遣いする気!?』
「わかってるよ! エネルギー残しておけば文句はないんだろ!」
サイドアーマーの内側から、折りたたまれていた銃身が展開する。
キサラギの右腰が唸りを上げ、その武器の力強さを誇示する。
そして、一秒にも満たない充填が完了すると、その銃口から光条が放たれた。
「なんだこれっ……! 強い、強すぎる!」
レーザー・ブラスターから伸びた光の一閃は、アーミーの脚を貫いた。
キサラギが銃身を横に振ると、アーミーの両足が切り裂かれる。
――いや、それだけではない。地にすら深い切れ込みを残し、赤く溶けた土は未だ煙を放っていた。
「これが……戦闘兵器ブレイバー……」
ジョーは、人類史上最強とも言われる、その陸戦兵器の威力に恐怖した。
――――――
ガス・アルバーンは彷徨っていた。
ブレイバーの男を追ってきたのはよかった。ガスの感は見事に的中し、ピーターを名乗る男たちをあと一歩のところまで追い詰めていた。
だが、片眼鏡の男の持っていた奇妙な道具によってガスは傷を負い、サクラを連れた一味を堅牢な扉の中へ逃がしてしまっていた。
入口はいつの間にか閉じており、後戻りはできない。
適当にボタンを押していたらようやく開いた扉の中には、既に誰もいなかった。出口が一つしかない、完全な密室であったのにも関わらず。
理解できない不思議な現象と、サクラを連れ去られた焦りのままに、ガスは部屋の中へ入り込んだ。
そして今は――
「はぁ、はぁ……ここは……どこだ……?」
『遺跡』と呼ばれる場所を彷徨っていた。
所々にある開かない扉がガスを辟易させたが、行き詰まることだけは無かった。
幸いにも脚の怪我は軽いもので、歩くことに支障はない。
そうして何日も迷い続け、遂にガスは見つけた。
「これは――!」
扉をくぐった先には、見たことのある――そして、彼が渇望してやまない『力』があった。
その姿をみて、思わずガスは嗤う。
「ふふふふふ……はははははっ! これがあれば、私にもう負けはない! 奪われることなど、二度とないっ!」
ガスは想像する。
自らの手で作り上げた、『勝利』の先の未来を。サクラのいる、輝かしい世界を――
常人からすればただの妄想だが、彼にはそれを成し遂げようとする絶対的な自信と覚悟がある。
そして今、唯一足らなかった『力』までもが彼の手中に収まったのだ。
「待っていろサクラ……すぐに助けに行く! この、ガス・アルバーンがっ!」
ガスの野望と執念が、再び燃え上がる。
――――――
アーミーとの戦闘から三日が経った。
無事にジョー達はベン達と合流し、トーマスは一通りの事情を説明した。
そして今は、少人数で帝都に奇襲をかけるべく、この郊外の森の中で算段を立てている。
「へえ……これが新しいブレイバーってわけ」
「そうだ。まるで勇者様のようだろう」
「それを本物の勇者様の前で言うかねえ……」
「そんなくだらないこと言ってないで、準備してくださいよ」
好き勝手言うアデラとトーマスに、ジョーはただ急かす。
彼らの目の前には、三体のブレイバーが立ち並んでいた。
「三体もブレイバーがあるんだ。もう準備することなんて無いだろう」
「じゃあ、貴方はどれを使うんですか?」
「それは当然、灰色だろう。キサラギはお前が使うわけだし、紅いのはもうこりごりだ」
トーマスは肩をすくめて見せる。
ジョーはその動作が妙に腹立たしかったが、確認のために質問を重ねる。
「なら、ジークは誰が使うんですか?」
「……ベン辺りにでも使わせるか」
「ちょっとちょっと――!」
ジョーがトーマスを問い詰めていると、サクラが割って入ってくる。
ジョーは突然の乱入に驚き、トーマスもまた一歩退いていた。
「『ジーク・レイ』はアタシのよ! 何勝手に決めてんのよ!」
「じゃあ君がやってくれるの? っていうか、『ジーク・レイ』って何さ?」
「アタシだって無関係じゃないんだから、当然じゃない! ジークとレイダーを合わせたマシンだから『ジーク・レイ』なのよ、バカね!」
サクラの言いように僅かな苛立ちを覚えながらも、ジョーは素直に感謝した。
「んじゃ、アタシとベンがアーミーで、ピーターの奴が賢者さんから借りたデュエラーで決定だね」
「そういうことになるな」
「決めてなかったんですか……」
ジョーがトーマスの無計画ぶりに呆れていると、タイミングを見計らったかのようにブレットが現れる。
「そして私は、シェリー嬢の運転する車でジョウ君、サクラ君のブレイバーと共に工場へ向かい、他は帝都内で陽動……作戦はこんな感じかな?」
「それでいきましょう――ん? 通信?」
「一体だれが……」
トーマスがブレットの方針に同意を示していると、突如ヘッドギアにノイズが入ってきた。
通信を行う際の独特な前兆に、ジョーは妙に悪い予感を抱く。
『――聞こえるか、ジョー君! 聞こえないか、トーマス殿!』
「その声、ダン・ガードナー! ……殿か!?」
「ダンさん!? 何で今通信を……?」
『良かった! 聞こえているみたいだね!』
発信者はダン・ガードナーであった。通じることが分かったからか、ダンの声からは喜色が感じられる。
想像していなかった人物からのコンタクトに、驚きを隠せないジョー。
ジョーが何を言うべきか迷っていると、トーマスが警戒を露にした。
「どうやら、俺たちの邪魔をしたいわけではなさそうですが……どういった用件で?」
『よく聞いてほしい! 私では、もう止められない! 君たちだけが頼りだ!』
「どうしたんですか、一体!」
ただならぬ様子のダンに、ジョーは問う。
急を要していることは、早口なダンの言葉からも、ジョーにはわかった。
『たった今、この帝都からマシン・ウォーリア部隊が発進した!』
「なるほどな。あちらさんの『時間稼ぎ』はもう終わったわけか……! それで、数まで教えていただけるのですかね?」
『ああ、というよりも、それを伝えたいのさ……!』
「どういうことです?」
『聞いて驚かないでくれ。帝都から出陣したマシン・ウォーリアの数は――』
そしてダンは、嘆くように吐き出した。
『一万だっ……!』
遂に帝国は、総力を挙げて皇国を潰しに出た。
数百もあれば十分過ぎるマシン・ウォーリアを、過剰なまでに投入する意図はジョーには分からない。
――いや、今となっては、その真意を知る者などいないだろう。
だが、ただ一つだけ言えることがある。
この戦いの終わりこそ、新たな時代の始まりだ。
それは、アークガイアの人々にとっても、ジョーにとっても重要な意味を持つ。
そう、彼らの運命は、間もなく終着点を迎えようとしているのだ――
九章 古代文明の語る真実 ‐了‐




