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異界閃機ブレイバー -Another World Glint Machine BRAVER-  作者: 葵零一
八章 天を目指す者たち
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四節 再びの邂逅

 その後も、四人は世界樹の外周を探り続けた。

 樹の幹は勿論、根やその周囲の地面、手の届かない箇所にも注目した。

 しかしながら成果は無く、困り果てた表情の人間のみが生み出される結果となった。


「ねえ、やっぱ何もないわよここ」

「お、おかしい……確かにここのはずなのだが……」


 それでもやはりブレットには何か確信のようなものがあるらしく、一向に引き下がろうとしない。


「……賢者殿。これを使えば天上界に行けるという話は、そもそもどこから来ているのです?」

「そうですよ。まさか、くだらない噂話とかじゃないでしょうね?」


 さすがに疑念を抱き始めたのか、トーマスが情報源を問いただし始めた。

 元より疑念だらけのジョーも、便乗して責める。


「い、いや、これは先祖代々からの言い伝えだから、間違っているはずは無いのだが……」

「それってつまり正確な情報じゃないんですよね!? 裏すら取れてないんじゃ、信頼性に欠けますよ!」


 ――とジョーは言うが、実際のところアークガイアという世界において、賢者の情報以上に信じられるものなどない。

 古くよりこの世界の発展に貢献してきた一族以上に、実績のある情報源など無いのだ。


 いつでも多くの正確な情報を得ることのできた世界とは違うのである。

 そのあたりは、地球人とアークガイア人における明確な情報意識の乖離なのだろう。

 現に、トーマスは不思議そうにジョーを見ている。


「ああ、もう……こんな怪しいヤツ信じたのが間違いだったわ……!」


 失望している様子のサクラは、樹にもたれかかった。

 両脇を通る根を肘掛けにし、手を乗せる。


 ――その時、何かが動く音がした。


「え? えっ?」


 振動が背中から伝わってきたのだろうか、サクラは驚いて樹から離れる。

 離れた先にいたジョーはサクラを抱き止め、世界樹に起きた変化を観察する。


『認証成功――管理者、サクラ・ホワイト』


 抑揚のない無機質な声が響く。

 おおよそ人間のものとは思えないその声は、未だ周りで起こっている騒ぎの中でもはっきりと聞き取ることが出来た。


「認証? 管理者? 何を言っている!? いや、その前にどこにいるんだ! 姿を現せ!」


 トーマスが剣を抜き、いるはずもない人間に向かって威嚇する。

 辺りを見渡し、本気の警戒を見せている。


「トーマスさん、落ち着いてください! これはきっと、『世界樹の声』です」

「世界樹の声だと!? これは生きているのか!」

「多分生きてないですよ。これは機械なんです」


 植物であれば『生物』なのだが、目の前の樹が人工物であろうことを察したジョーはトーマスに言い聞かせる。


 そう、世界樹は――光っていたのだ。

 幹の節々から、不自然なほどに眩しい人工的な光が漏れていたのだ。

 そして、表皮がうごめきだす。


「動いたか……!」


 嬉しそうに微笑みを浮かべるブレット。


「な、何よ、何なのよ、これぇ……」


 気味悪そうに世界樹の変化を眺めるサクラ。


「これも古代文明の遺産……!」


 技術テクノロジーに関心を払い、何かを確信するトーマス。


「……まさか」


 そしてジョーは、驚愕する。


 根が動き、表皮が裂け、姿を現したのは、一本の通路とその奥に位置する扉。鉄の色と光沢を放つ、無機質な壁と床。それを照らすのは、蛍光灯による電気の光。

 そう、樹の中には――この世界に似合わない『地球的』な光景が広がっていたのである。


「これは……!」


 ジョーが驚いていられたのも束の間――

 彼らの後ろからも、光が差した。


「――おい、全員早く入れ! 走れっ!」


 そう叫ぶトーマスの声に尋常ではないものを感じたジョーは、後ろを振り返る。


「ん? ……うわああああぁっ!」


 ヘッドライトを点けたアーミーが、走行形態で突っ込んできていた。

 突然の脅威を目の前にして、絶叫するジョー。

 思わず、トラックに撥ねられた痛みを思い出してしまう。


「早くしろっ!」


 トーマスに急かされ、世界樹の内部へと入ったジョー達。

 遅れて、大きな衝突音が通路の中に響く。入口を通れないアーミーが、世界樹に激突した音である。


 アーミーは沈黙したかと思うとハッチを開き、乗り込んでいた人物が飛び出してきた。


「世界樹にこんな仕掛けがあったとはな……やはり、狼の血は嘘をつかない」


 飛び降りてきた人物は、その長い後ろ髪をはためかせると、腰に下げた剣を抜き取り迫る。


「ガ、ガスッ!? どうしてここに!」

「ふふふ……助けに来たぞ、サクラ!」

「ガス・アルバーンだと!? ちいっ!」


 トーマスが抜いたままの剣を構え前に出ると、ガスが迫り強烈な一撃を振り下ろす。

 その一閃をトーマスは剣で防ぎ、両者は鍔ぜり合う。その間は数秒にも渡り、緊張を生み出した。

 素人目には、この一瞬で見せた互いの剣技は互角――しかしジョーには、技術以外の部分でトーマスが圧されているようにも見えた。


 一頻り睨み合った二人は、同時にバックステップし距離を取る。


「ふん、この程度か……」

「何!?」

「この男を倒したら、次は貴様だ『トーマス』」

「……は? 何を言っているんだ」


 ガスが剣の切っ先をジョーに向け、宣言する。

 しかし、名指しされたはずのトーマスは、意味が解らないとばかりに聞き返している。


 ジョーは状況の説明を怠っていた事を自覚すると、補足を飛ばした。


「あ……すみません、名前使わせてもらいました」

「はあ!? 勝手に俺の名前使ったのか!? えっと……『ピーター』」

「何!? 貴様、この私の前で偽りの名を告げたというのか……! 許せんぞ、ピーターとやら!」


 ジョーがカミングアウトしたことで、状況は更に混沌カオスに変異する。

 トーマスは事情を知らないせいか、また別の人物の名前でジョーを呼び、現在も欺かれているガスは憤りの声を上げる。

 そして、そこにサクラまでもが口を挟むのだから、収まりはつかない。


「ガス、ここは退いて! 事情は後で話すから!」

「『後』では遅いのだ! 君に何かあったのでは、私は申し訳が立たん!」

「誰によ!?」

「私の『好敵手ライバル』にだ!」

「訳が分からないわよ!」


 好敵手ライバル――そう呼ばれる人物に、ジョーは心当たりがない。


 ガスが自身を異様なまでに敵視しているのは、彼も知っている。

 しかし、『好敵手ライバル』などと呼ばれるほど認め合っている訳ではないし、話の流れ的にもそれは考えられなかった。

 ここにいない第三者なのだろうと、ジョーは結論付ける。


 ジョーがそのような無意味な推測を重ねていると、静観していたブレットが背を向けた。


「トーマス君、ここは任せてもいいかい? 僕たちは先に行くから、君は後から追ってきてくれたまえ」

「あっ、ちょっと、なに先に行ってるんですか!」


 ジョーが止めようとするが、ブレットは構わず歩きだす。


「私たちが近くにいたのでは、トーマス君もやりづらいだろう」

「だからって……!」

「とにかく、私は先に行っているよ」


 トーマスの返事も聞かずに、ブレットは通路の先にある扉へと向かった。

 その背中にジョーは、軽蔑の視線を送る。


「貴様は逃がさんぞ、ピーター!」

「おっと、お前の相手は俺だ!」


 ジョーに近づこうとするガスの前に、勇ましく立ちはだかるトーマス。


「まずは貴様か。まあいい……すぐに片を付けるっ!」

「ほざけっ!」


 二人は互いに全力の力を剣に乗せ、切り結ぶ。

 その音は通路の中ではよく響き、戦いの激しさを物語る。

 そしてトーマスは、ガスを睨みながら余裕がなさそうな早口で告げた。


「先に行っていろ、ピーター! 賢者殿を頼む!」

「だ、駄目だトーマス君――!」


 トーマスがジョーに指示を出すと、ブレットが慌てて戻ってきている。

 普段は余裕のブレットがいつになく冷静さを欠いているのを見たジョーは、とてつもなく嫌な予感に襲われた。


「あの扉、開かない!」

「何だって!?」

「嘘!?」


 嬉しくないことに、ジョーの予感は的中してしまった。

 ブレットが告げたのは、袋小路に追い込まれたことを意味する絶望の叫びであった。


 しかしジョーは、すぐに落ち着きを取り戻す。


「――ああ、なるほど……」


 その扉には、『彼ら』にしかわからない精巧な仕掛けが施されていたのだ――

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