一話:昨日のあれは夢だと思いたい
「ふぁ、嫌な夢見たなぁ」
あくびを噛み殺し口元を手で隠した僕の視界は徐々に鮮明になって見慣れた天井にはっきりとピントが合った。
「んー、五時半過ぎ、かぁ。こんな時間じゃ二度寝はできないし……起きる、かぁ。ん」
もぞもぞ身じろぎしながらベッドを抜け出し、片手で目覚まし時計のアラームを解除するともう一方の手の指二本でレースのカーテンを少しだけこじ開ける。
「ふぅ、今日はいい天気だ……昨日もそこそこいい天気だった気がするけど」
僕にとっての昨日に悪夢が混じっていたような気がするけど、気のせいにしたい。
「何にしても、今日は学校だ」
いつまでも日の曜日の気分ではいられない。休み明け特有の憂鬱とした気分は朝食を食べたらパジャマと一緒に脱ぎ捨てないとと思いつつ自室のドアをくぐり、階段を下りだす。
「あー、今日はパンか」
トーストの焼ける香ばしい香りとすれ違いつつ下階まで降りると、台所で動く人影におはようと声をかける。
「おはよう、充、今日は早いな」
「あー、うん。けど、父さんだって起きてるし。仕事で朝早いのは知ってるけどさ」
そのついでに朝ご飯の支度をしておいてくれるのは本当にありがたいと思う、
「ふっ、ならお互いさまだな。新聞は読むか?」
「いい。時間はあるけど気になってるのは一週間の天気ぐらいだし、そっちはテレビで見たから」
何気ない会話、いつもの日常。やっぱり、昨日のアレは達の悪い夢だったんだ。そもそも、戦隊ヒーローが何でわざわざうちの玄関前まで押しかけて恋の告白をしてくるというのだろう。家族の誰かが実は秘密結社の怪人とかであいつらがソレを倒しに来たとかの方がよっぽど納得がゆく。
「それでもむちゃくちゃ無理があるけど……」
父は仕事で朝の早い日があるものの、勤め先は普通の会社だったはずだし、母のパート先は近くのスーパーだ。
「って、なに否定材料探そうとしてるんだ、僕は」
あんなの夢だ。夢に決まってる。振り払うようにかぶりを振り。
「充?」
「あ、ごめん。呼んでた?」
「いや。さっきからブツブツ呟いていたからな」
「あー、実は変な夢見ちゃってさ。朝早いのもそれでなんだけど」
「そうか」
頭を掻きつつ弁解すると父も納得がいったのか、追及してくるようなことはなく。ただ、授業で寝るなよとだけ口にしてコーヒーに口をつけ。
「あはは、気を付けるよ。ええと、それじゃ……いただきます」
苦笑いしつつ食堂のテーブルに着くと両手を合わせ、まだ暖かなトーストに手を伸ばした。
「はむっ」
一口かじって口に広がるのは、パンの持つ塩っけ。甘味は砂糖と、小麦由来のモノもあるのだろうか。以前塩か砂糖かどっちかを入れ忘れたパンを口にしたことがあるが、一瞬味がないと思ってしまうほどでパンに加える調味料の重要さを思い知らされたものだ。
「ふぅ、本当に美味しい食パンってなにもつけなくても食べられるものなんだよな」
どこかの製パン業者の回し者と言う訳じゃないが、食パンにも当たりはずれがあって、いつしか父か母が買ってくる食パンはとあるメーカーの決まった商品で固定になっていた。
「まぁ、そうだな。この間売り切れててやむを得ず買った安物の食パンは、こう言ってはなんだが、お世辞にも毎日食べたいような味ではなかったしな」
「あー、うん。全面的に同意する」
苦笑しつつ自分のマグカップに手を伸ばすと僕は口元に運び。
「そうだ、話は変わるが、朝刊と一緒にこんなモノがポストに入ってたんだが」
父が何気なく差し出したのは五色の花。
「ぐぶっ」
コーヒーが気管支に入って、僕は盛大にむせた。なんだよ、あれ夢じゃなかったのかよ。
夢オチだったら良かったんですけどね。
次回、「休み明けの転入生」
もう、嫌な予感しかしない。




