恋愛カウンセリング
ユースケに紹介してもらった恋愛カウンセラーはかなり人気があるらしく、半年待ちの状況だった。だがユースケの友人ということで、特別に時間外にカウンセリングをしてもらえることになった。おれは指定された夕方六時に、その人のオフィスを訪れた。
「恋愛の好みというのは、人間の深層心理の奥底で無意識のうちにプログラミングされているようなものなのです。だいいち、美人の基準というのも、時代によって地域によって違うじゃないですか」
カウンセラーはなかなか説得力のあることを言った。
「あなたがブスと思っているという、そのヨシコさんですか、その人も縄文時代なら美人だったかもしれませんし、現在でもアフリカのどこかの国へ行けば、美人としてモテるかもしれませんよ」
なるほど、その通りだ。逆に今の日本で美人としてちやほやされている女たちも、時代や地域が違えばブスとして見向きもされないかもしれない。
「ですから、あなたの心の深層にある美人とブスの尺度、女性に対する好みの傾向のプログラムを書き換えればいいのです。ちょっとした催眠と暗示でできますよ。ユースケさんには以前に大変お世話になりましたから、カウンセリング料と合わせて一万円で結構です」
おれはありがたく催眠療法を受けることにした。
三十分ほどの催眠から覚めて、合コンの時の写真を取り出して見ると、ものすごい美人が写っている。こんな美人いただろうかと思ったが、よく見るとそれはなんと、あのヨシコだった。逆に美人だと思っていたエリナとアミがひどいブスに見えた。
おれはカウンセラーに礼を言って料金を払い、オフィスの外に出ると、家に着くのも待ちきれず、電車の中でヨシコにメールを書き、デートに誘った。すると返事はわずか十分後に来た。だがその内容は驚くべきものだった。なんと、もう付き合っている人がいるので応じられないというのだ。まさか催眠療法を受けたおれ以外に、あのヨシコと付き合おうなどという男がいようとは。おれは信じられない気持ちで、呆然としたまま家に帰った。結局、どんなにイケてないモテないやつにでも、ちゃんと相手を選ぶ権利があるという重要なことを、おれは忘れていたのだった。
翌日の夕方、それでもおれはとりあえず礼を言おうと思って、ユースケを飲みに誘った。すると居酒屋には、あのときの合コンのメンバーで超イケメン男のタクヤがいた。タクヤはおれを見ると近づいてきて、隣の席に座った。
「よう、久しぶり。ところでこないだの合コンだけどさ、ヨシコっていう超どブスの女がいただろ」
おれはヨシコの名前を聞いてギクリとしたが、内心の動揺を押し隠した。
「あのあとヨシコからしつこくメールが来てな、やんわりと断って、そのうち無視していたら、どうやって調べたのか、おれのマンションまで押しかけて来やがった。そのときちょうどな、エリナちゃんが部屋に来てて、本当に困ったよ」
そうか、タクヤは超美人のエリナちゃんと付き合い始めてたんだな。それにしてもヨシコの行動はまるでストーカーじゃないか。
「エリナちゃんもさすがにおれがヨシコを誘ったなんて信じなかったから、助かったよ。だがいくら言ってもヨシコは帰ろうとしなかったから、エリナちゃんに頼んで連れて帰ってもらったさ」
「そうか、そりゃ大変だったな」
おれは心から同情した。
「そのあとヨシコは、おれと付き合っているとみんなに言って回っているらしい。まったく迷惑な話だよ。マンションにもしょっちゅう押しかけてきて、無視していたら翌朝まで玄関で待っていやがった。おれは恐ろしくなって、今はエリナちゃんのマンションに泊めてもらってるんだ」
それはそれでうらやましい話だ。だがタクヤにとってはちっともよくないらしい。
「そのうちおれの居場所を嗅ぎつけて、エリナちゃんのマンションまでやってくるかもしれない……」
タクヤは怯えた顔をしながら言った。おれはタクヤに同情した。同時に、恋愛の好みというものは、自分ではどうすることもできないものなんだと悟った。すると横で話を聞いていたユースケが落ち着いた声で言った。
「あまりモテすぎないほうが幸せかもな。おまえも女を見る目がだいぶ変わっただろうから、相手の隠れた美点を見つけるようにしていたら、おまえの隠れた美点を見つけてくれる人も出てくる。そうしたらおまえだって、そのうち彼女もできるだろうさ」
そう努力しよう。おれは心の中で誓ったのだった。
中学生の頃に片想いの相手がいて、催眠術か何かで自分のことを好きになるようにできたらいいのにな、などと考えたことがありました。どんな人を好きになるかは、脳の中に仕組まれたプログラムが決めていて、そのプログラムを書き換えることができたらどうだろう。そんな発想から、この物語をつくりました。




