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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職91日目 番外編:とある少年の冒険譚9

「どうしてこうなったんだ?」

「知らねえよ」

「まったく……」

「冗談だろ」

「誰か、嘘と言ってくれ」

 新人達からそんな呟きが漏れてくる。

 聞こえないふりをしてるヒロノリは苦笑をするしかないが、それすらも押し殺して彼等を率いていく。

「それじゃ、行ってみようか」

「あ、はい」

「分かりました」

「今行きます」

 返事は即座に出てきた。



 拠点から出て幾らかあるいた所で停止する。

 モンスターが出没する地域までそれなりの距離がある。

 近隣でモンスター退治が行われてるので、人里の近くまで到達するモンスターは少なくなっていた。

 その為、モンスター退治をしようとするとそれなりに移動しなくてはならなくなる。

 脅威の排除に成功してる点では褒めるべきであるが、仕事としてモンスターと対峙する事を考えると問題ではある。

 全くモンスターがいなくなったわけではないが、求める数は少ない。

 とは言ってもレベルアップや必要な稼ぎを得るくらいには出現しており、あくまで程度問題ではある。

 最前線の方では、それこそ昼夜分かたずモンスターが襲撃してくるのに近い状態なのだから。

 それだけ一団の最先端がモンスターの領域に食い込んでいるという事でもある。

 そのあたりではいくつかの戦闘技術をレベル5以上で保有してないと危険だとすら言われている。

 そんな所まで進出出来る者達がいるという事も驚くべき事である。

 が、そんな最前線の事など今のハルキ達に関係はない。

 拠点周辺でも十分な脅威である。

 それらを倒す事に集中せねばならなかった。

 加えて、ヒロノリがいる事が余計に心理的な圧迫となっている。

 なんでこんな事になったと泣きたくなっていく。



「そんじゃ、やっていくか」

 言いながらヒロノリはハルキ達の前に立ってモンスターへと向かっていく。

 それを見てハルキ達はさすがに慌てる。

「いや、団長が前に出ちゃまずいですって」

「俺らが先に行きますから」

 相手は一団を率いる本物の頂点である。

 そんな者が怪我でもしたらとんでもない事になる。

 一団の運営や今後に関わるのは確実だ。

 そんな事になったら、ハルキ達だってどんな目にあうか分からない。

 周囲から白い目で見られるくらいならともかく、下手すら闇討ちにあうかもしれない。

 様々な意味での自分達の今後の為に、ヒロノリの事を最優先しなくてはならない……と思うのは無理からぬ事であろう。

 だが、それを気にせずヒロノリは、

「大丈夫大丈夫、さっさといくぞ」

と前に出ていこうとする。

 これが後衛向きの技術持ちであれば良かったのだが、不幸にしてヒロノリは前衛よりの戦闘技術を身につけている。

 その為、どうしても前に出てモンスターに直接立ち向かわねばならない。

 弓でも投げやりでも魔術でも何でも良いが、遠距離攻撃手段を身につけてもらいたいものだった。

 なので、ハルキ達もヒロノリと共に前に出て肩を並べるしかない。

 それが最悪の事態を避ける為の、出来うる数少ない手段だった。

(どうしてこうなった)

 胃が痛くなる。



 事前に見せられた技術などで、ヒロノリの技術がどんなものなのかは分かってる。

 それが盾を向上させた防御向きである事がハルキ達の胃痛を更に悪化させる。

 盾を構える者達はモンスターの攻撃を受け止め、攻撃を集中して受ける事になる。

 そうしてる間に他の者達がモンスターを攻撃して倒していく事になる。

 積極的にモンスターを倒していくわけではないが、集団戦闘においては重要な役割を担う。

 モンスターを引きつけ、他に攻撃が分散しないようにするために必要な役目である。

 問題なのは、それを団長であるヒロノリがやってる事である。

 攻撃が集中するのでどうしても負傷の可能性が大きくなる。

 そんな役目を任せるわけにはいかなかった。

 しかしハルキ達に盾を構える者がいない。

 仕方ないとはいえ、全員が刀剣なり槍なりの攻撃系統の技術を身につけている。

 他に弓を使ったり魔術を使う者もいるが、どれも前線で防御に出るためのものではない。

 今のところ前に出てモンスターの攻撃を受け止めるのはヒロノリにしか出来ない事だった。

(やばい、これはやばい)

(最悪だ)

(俺、今度は盾を上げよう)

 前線に出る者達は一様にそう思った。



 いざやってみると、これが結構上手くいった。

 今までは、『やられる前にやれ』とばかりに先手必勝でやってきた。

 しかしヒロノリがいる事でモンスターの攻撃に耐える事が出来る。

 その分動き回らなくて良い。

 幾分ではあるが余裕を持った対処が出来る。

 それが全体を見回す余裕になったり、効率的な位置取りをしていく事につながっていく。

 攻撃力はさほど上がってはいないのだが、防御力が上がるだけで格段にやりやすくなっていた。

 教官がいた時も攻撃は引き受けてもらっていたが、あらためてモンスター退治における役割の重要さを知る。

 余裕があれば次は盾の技術を身につけようと思う者が増えていった。



 そんなこんなで昼になり、休憩をとっていく。

 一旦モンスターがやってこない辺りまで退散してから食事をとる。

 おにぎりやサンドイッチといった軽食だが、はらごなしにはこれくらいで良い。

 それを食いながら一同は思い思いに休憩をとっていく。

 周囲の警戒をしながらなのでそれほど好き勝手は出来ないが、体を動かさなくて良いのはありがたい。

 寝そべったりする事は出来ないが、周囲を見渡しながら呆けているくらいは出来る。

 頃合いを見計らって再び動き出すが、それまでは何もせずにいられる。

 戦闘をしなくて良いというだけで緊張感をゆるめる事が出来た。



(なんだけどなあ……)

 それでもどうしても意識してしまうのが団長の存在である。

 何にしても気が抜けない。

 下手な所を見せればどんなおとがめがあるか分からない。

 そこまで気むずかしい人ではなさそうだが、油断は出来ない。

(どうしろってんだよ)

 接し方も分からないのでどうしようもない。

 こっちから気軽に声をかけて良いのかも悩ましい。

 新人と一緒にモンスター退治に出かけるくらいだから、それほど堅苦しくはないのだろうが。

(面倒だな、本当に)

 立場の違いというのは結構大変だとつくづく思った。

 今日も遅刻してしまった。

 なんか、最近こんな調子でどうしようもない。



 そんでもって、次は短編にしようかとか思ってる。

 思い付きを形にしておかないと気が落ち着かない。

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