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【完結】29歳ブラック企業の社員は別会社や異業種への転職ではなく異世界に転移した  作者: よぎそーと
第四決算期

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転職90日目 番外編:とある少年の冒険譚8

「どこも空きがないみたいだな」

「どうすんだよ、これ」

 順調にレベルが上がり、訓練期間の卒業が見えてきた。

 基本的にはレベル3になるまで、そして時間的には入ってから最長で六ヶ月までは訓練期間となっている。

 それが終われば一団としての支援は無くなる。

 あとは自分でどうにかしていくしかない。

 レベルはあがり、一人でどうにかしていくだけの力も着実につけている。

 しかし今後一緒にやっていくべき場所はまだ見つかってない。

 入ってから四ヶ月になろうとしてるので、さすがにそろそろ行き先を確定させたいと思うようになっている。

 掲示板を見て周り、実際に募集をかけてる一群を訪ねたりと活動はしている。

 しかし、行き先が決まる者達はそれほど多くはない。

 どこも既に現状で十分な数を確保しており、無理して人数を増やす必要がなかった。

 また、レベルが足りない事がどうしても足を引っ張っていた。

 新人である事を誰もが考慮してはいるのだが、それでもあともう少し上がっていてくれれば、という者が多い。

 それは最後まで訓練を続ければどうにかなる事ではある。

 しかし、すぐに結果が出ない事でもあり、いずれそのうちという保留になってしまってる。

 それでも了承が取り付けられてれば良い方で、新人達の何人かはまだ行き先が決まってない者が多い。

 レベル3になったからと言ってそれで仕事がこなせるわけではない。

 活動してる冒険者の大半は更にもっと上のレベルにいる。

 技術レベル3程度の人間はごろごろしているのだ。

 そんな所に新人が加われば戦力の低下は確実である。

 戦闘における連携も身につけねばならず、それが確実になるまでは苦労も多い。

 今現在、順調に稼げてる者達にからすれば、そういった者達を受け入れるのは負担が大きかったりする。

 長い目でみれば安定した戦力を確保するために人数をある程度確保した方が良いのだが、そこまでの余裕がある所もそれほど多くはない。

 なので、どうしても新人の行き先が決まらない場合もある。

 事務員などの場合はほとんどすぐに一団にて仕事をする事になるが、戦闘担当の冒険者となるとそうはいかない。

 それでも受け入れる側が幾つかあるだけ良いとは言える。



「こりゃ、俺達だけでやる事になるかもな」

 ハルキの言葉に集まっていた新人達が「だよなあ」「そうなっちまうよなあ」と同調していく。

 可能な限り受け入れていく事になっているが、実際にはなかなか決まらない場合もある。

 そういった場合には、新人だけで組んでいく事もある。

 その場合には体の空いてる熟練者がつく事になるが、不安は大きい。

 何人もいる慣れてる人間の中に入っていくのと、付き添いが一人か二人ついてくるだけでは安全性が違う。

 それでどうにかなると思う程新人達も自惚れてはいない。

 レベルが上がっていくらか戦闘出来るようになったとしても、それだけでモンスター退治が出来るようになるとは言えない。

 戦術や連携なども知らねばならないし、周囲への警戒などもしていかねばならない。

 もっと単純に、拠点から外に出てモンスターと遭遇する所まで移動するのも一つの技術である。

 単純な体力勝負というわけにはいかない要素がモンスター退治には絡んでいる。

 それらをしっかり身につけていこうとしたら、どうしても時間がかかる。

 用意してもらった訓練期間全部を使っても全然足りない。

 一人前の冒険者になるには、複数の技術をそれなりのレベルで身につけていなければならない。

 どの仕事もそういったものであろう。

 一芸に秀でるのは大事だが、それ以外にも付随するいくつかの知識や経験、慣れが必要だ。

 それが新人であるハルキ達には欠けている。

 だからこそ、出来るだけ一群に入っておきたいのだ。

 先輩と共に活動するというのは、そういった利点がある。

 新人達もしっかりと必要な技術や能力を身につけていかねばならないが、それだけの猶予を得るためにも熟練者の中に入るのは有利である。

 だが、それが期待出来ないとなると、最後の手段として自分達で組んでいく事も考えていかねばならない。

「まだ訓練期間はあるけど、そろそろ決まらないとまずいよな」

「そろそろっていうか、もう決まってないとまずいだろ。

 あと二ヶ月もないんだぜ」

「どうしたもんかな」

 食堂の片隅で先の事について悩む新人達は、まだまだ先に向けての一歩が踏み出せない中にいた。



 声がかかったのはそんな時だった。

 更に何日か訓練に出てそこから帰ってきたハルキ達に呼び出しがかかった。

 大事というわけではないが、一団からのものなのでさすがに驚いた。

「おい、何かしたか?」

「いや、全然」

「でも呼び出しかかってるぞ」

「間違いじゃないのか?」

 疑問を口にするも無視するわけにもいかない。

 呼び出された者達は、モンスター退治の疲れもそのままに事務所へと向かっていった。



 出向いた先では、

「ああ、はいはい」

と言われて少し待たされる事になった。

 呼び出しの用件も言わずにである。

 いったい何なんだと不安がこみ上げ、少しばかり憤りも混じっていく。

 しかし、それからやってきた者を見てそれらが一気に消えた。

「悪いな、呼び出して」

と言ってきたのはこの一団を率いるヒロノリだった。

 顔は見た事があるし、拠点にいると何度かすれ違う事もある。

 それくらいしか接点の無い者がなぜか出てきた。

 しかも、「呼び出して」とはっきり言っている。

 何の冗談だと思った。

 しかし、相手はいたって真面目らしく、

「こんな所で話もなんだから食堂にでも行こう」

 そう言ってハルキ達を連れ出していく。

 何が起こってるんだと思いつつも逆らうわけにもいかない。

 呆然としながらもヒロノリ

に続いて食堂へと向かう。

 その途中、口を開く者は誰もいなかった。



「行き先が決まってないんだってな」

 飯が運ばれてくるまでの間で、ヒロノリはいきなり切り出した。

 新人達は面食らうも、

「ええ、まあ」

「その通りですけど」

と応じていく。

 いきなりいったいなんなんだと思ったが、下手な事は言えない。

 口答えなどと思われてはかなわない……という保身がはたらいていく。

 そんな雰囲気を察してか、

「まあ、文句言ったりからかってるわけじゃないから」

とヒロノリも言葉を続ける。

「今の状態じゃそれもしょうがないし、こればかりは仕方ない。

 それは俺も分かってるって」

「はあ……」

 じゃあいったいなんなのだと思った。

「お前さん達の体が空いてるのはこっちにも分かってる。

 人員募集と新人の数を見てればな。

 今の状態だとどうしても新人が余る事になるから、こればかりはしょうがない」

「そうなんですか」

「ああ。

 どこも今の人数で上手く回ってるところばっかりみたいだからな。

 変に新人を入れようなんて所はないもんだよ」

 一団としてはどうにかしたい所であるのだが、これがなかなか難しい。

 そうそう簡単に上手く解決出来る事ではない。

 それでも一団として集まってるから受け入れる方も売り込む方も接点は持ちやすい。

 しかし、常に需要と供給がかみ合うわけではなかった。

「でもまあ、その方が都合が良い場合もあるんだよ」

 言いながらヒロノリはハルキ達を見渡す。

 何だと思ってる彼等に、何となく人の悪さを感じさせる笑顔を浮かべていく。

「今の状態で十分だから、モンスター退治に行かないか」

「え?」

 誰もが驚いた。

「お前さん達は入れる場所が無い。

 そして、俺は人手が欲しい。

 条件は互いに合うわけだ」

「えーと」

「それって、どういう……?」

「うん、簡単な事だよ」

 ヒロノリは(本人からすれば)とても良い笑顔を浮かべて答えを出す。

「俺に付き合ってくれ。

 モンスター退治に」

 一瞬、全員が凍りついた。

 遅れてすまぬ。

 すまぬ……。


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